関数の超限再帰的定義

任意の集合\(x\)の各々に対し、ただひとつの集合\(G(x)\)を返す規則\(G\)が与えられている*1。順序数\(\alpha\)ごとに、条件\(\psi_\alpha(f)\)を「\(f\)は\(\alpha\)を定義域とする関数であり、任意の\(\beta\in{\rm dom}f\)について\(f(\beta)=G(f\upharpoonright_\beta)\)が成り立つ」と定義する。

補題】\(\psi_\alpha\)を満たすものは\(\alpha\)ごとに一意に存在する。

(証明)超限帰納法による。\(\beta < \alpha\)なる任意の\(\beta\)の各々に対し、\(f^*_\beta\)は\(\psi_\beta\)を満たす唯一のものであると仮定する。\(f=\{\langle\beta,G(f^*_\beta)\rangle:\beta < \alpha\}\)とおけば、\(f\)は\(\alpha\)を定義域とする関数クラスとなっているから、置換公理のもとで集合をなす。これが\(\psi_\alpha\)を満たすことを示す。任意の\(\beta < \alpha\)をとり、さらに任意の\(\gamma < \beta\)をとる。\(f^*_\beta\upharpoonright_\gamma\)は\(\psi_\gamma\)を満たすから\(f^*_\gamma\)に一致する。\(f^*_\beta\upharpoonright_\gamma=f^*_\gamma\)の両辺に\(G\)を作用させれば\(f^*_\beta(\gamma)=f(\gamma)\)、これが任意の\(\gamma < \beta\)で成り立つことから\(f^*_\beta=f\upharpoonright_\beta\)である。再び両辺に\(G\)を作用させると\(f(\beta)=G(f\upharpoonright_\beta)\)を得る。
次に一意性を示すため、\(\psi_\alpha(f')\)を仮定して\(f'=f\)を導く。任意の\(\beta < \alpha\)をとれば、\(f'\upharpoonright_\beta\)は\(\psi_\beta\)を満たすから\(f^*_\beta\)に一致する。\(f'\upharpoonright_\beta=f^*_\beta\)の両辺に\(G\)を作用させれば\(f'(\beta)=f(\beta)\)を得る。■

任意の順序数の各々\(\alpha\)に対し、\(\psi_\alpha\)を満たす唯一のものを改めて\(f^*_\alpha\)と書くことにする。

【定理】順序数\(\alpha\)に対し\(G(f^*_\alpha)\)を与える規則を\(F\)とすれば、\(F(\alpha)=G(F\upharpoonright_\alpha)\)が成り立つ。ここで\(F\upharpoonright_\alpha\)とは\(\{\langle\gamma,F(\gamma)\rangle:\gamma < \alpha\}\)を意味し、これは置換公理により集合をなしている。
(証明)任意の順序数\(\alpha\)をとると、補題の証明と同様にして\(f^*_\alpha=F\upharpoonright_\alpha\)を得るから、この両辺に\(G\)を作用させれば\(F(\alpha)=G(F\upharpoonright_\alpha)\)となる。■

*1:規則\(G\)の実体は、\(\forall x\exists!y[G(x,y)]\)を満たす述語\(G(x,y)\)である。

関数の超※★帰的定義・改

※このエントリの内容は古くなっています。より簡明な証明が
関数の超限再帰的定義・改の改 - y_bonten's blog
にあります。

前エントリの\(\psi_\alpha(f)\)における\(f\)の定義域を「\(\alpha\)未満」から「\(\alpha\)以下」に変更し、証明を簡素化したものを示す。

任意の集合\(x\)の各々に対し、ただひとつの集合\(G(x)\)を与える規則\(G\)が与えられている*1。順序数\(\alpha\)ごとに、条件\(\psi_\alpha(f)\)を「\(f\)は『\(\alpha\)以下の順序数全体』を定義域とする関数であり、任意の\(\beta\in{\rm dom}f\)について\(f(\beta)=G(f\upharpoonright_{ < \beta})\)が成り立つ」と定義する。

補題】\(\mu,\nu\)は\(\nu\leq\mu\)を満たす順序数であり、\(f_\mu,f_\nu\)はそれぞれ\(\psi_\mu,\psi_\nu\)を満たしている。\(\psi_\nu\)を満たすものが\(f_\nu\)のほかに存在しないとき、\(f_\mu(\nu)=f_\nu(\nu)\)である。
(証明)\(f_\mu\upharpoonright_{\leq\nu}\)は\(\psi_\nu\)を満たしているので\(f_\nu\)に一致する。すると\(f_\mu(\nu)=f_\mu\upharpoonright_{\leq\nu}(\nu)=f_{\nu}(\nu)\)となる。■

【定理】\(\psi_\alpha\)を満たすものは\(\alpha\)ごとに一意に存在する。

(証明)超限帰納法による。\(\gamma < \alpha\)なる任意の\(\gamma\)の各々に対し、\(f_\gamma\)は\(\psi_\gamma\)を満たす唯一のものであると仮定する。\(\displaystyle h=\bigcup_{\gamma < \alpha}f_\gamma\)とおけば、これは置換公理と和集合公理により集合をなす。さらに\(f=h\cup\{\langle\alpha,G(h)\rangle\}\)を作り、これが\(\psi_\alpha\)を満たすことを示す。補題により、\(f\)は「\(\alpha\)以下の順序数全体」を定義域とする関数になっており、\(\beta < \alpha\)における\(f(\beta)\)の値は\(f_\beta(\beta)\)となることが分かる。これは\(f_\beta\)が\(\psi_\beta\)を満たすことから\(G(f_\beta\upharpoonright_{ < \beta})\)に等しく、さらに\(f_\beta=f\upharpoonright_{\leq\beta}\)となっていることから\(G(f\upharpoonright_{ < \beta})\)と書き直せる。また\(\beta=\alpha\)のときの\(f(\beta)\)の値は\(G(h)\)であるが、これも\(h=f\upharpoonright_{ < \alpha}\)により\(G(f\upharpoonright_{ < \alpha})\)と書き直せる。以上により、\(f\)は\(\psi_\alpha\)を満たす。
次に一意性を示すため、\(\psi_\alpha(f')\)を仮定して\(f'=f\)を導く。任意の\(\gamma < \alpha\)をとれば、\(f'\upharpoonright_{\leq\gamma}\)と\(f\upharpoonright_{\leq\gamma}\)はともに\(\psi_\gamma\)を満たすから、帰納法の仮定により両者は一致し、特に\(f'(\gamma)=f(\gamma)\)となる。これが任意の\(\gamma < \alpha\)について成り立つことから\(f'\upharpoonright_{ < \alpha}=f\upharpoonright_{ < \alpha}\)である。両辺に\(G\)を施せば\(f'(\alpha)=f(\alpha)\)も言えるから、\(f'=f\)である。■

任意の順序数の各々\(\alpha\)に対し、\(\psi_\alpha\)を満たす唯一のものを改めて\(f^*_\alpha\)と書くことにする。

【定理】順序数\(\alpha\)に対し\(f^*_\alpha(\alpha)\)を与える規則を\(F\)とすれば、\(F(\alpha)=G(F\upharpoonright_{ < \alpha})\)が成り立つ。ここで\(F\upharpoonright_{ < \alpha}\)とは\(\{\langle\gamma,F(\gamma)\rangle:\gamma < \alpha\}\)を意味し、これは置換公理により集合をなしている。
(証明)任意の順序数\(\alpha\)をとる。補題により、任意の\(\gamma < \alpha\)について\(f^*_\alpha(\gamma)=f^*_\gamma(\gamma)=F(\gamma)\)となる、つまり\(f^*_\alpha\upharpoonright_{ < \alpha}=F\upharpoonright_{ < \alpha}\)である。したがって\(F(\alpha)=f^*_\alpha(\alpha)=G(f^*_\alpha\upharpoonright_{ < \alpha})=G(F\upharpoonright_{ < \alpha})\)となる。■

*1:規則\(G\)の実体は、\(\forall x\exists!y[G(x,y)]\)を満たす述語\(G(x,y)\)である。

関数の超※★帰的定義

※このエントリの内容は古くなっています。より簡明な証明が
http://y-bonten.hatenablog.com/entry/2016/05/19/060644
にあります。

任意の集合\(x\)の各々に対し、ただひとつの集合\(G(x)\)を与える規則\(G\)が与えられている。規則\(G\)の実体は、\(\forall x\exists!y[G(x,y)]\)を満たす述語\(G(x,y)\)である。順序数\(\alpha\)ごとに、条件\(\psi_\alpha(f)\)を「\(f\)は\(\alpha\)を定義域とする関数であり、任意の\(\beta < \alpha\)(つまり\(\beta\in{\rm dom}f\))について\(f(\beta)=G(f\upharpoonright_\beta)\)が成り立つ」と定義する。つまり、関数\(f\)にとって\(G\)は「\(\beta\)未満の『履歴』から\(\beta\)における値を算出する規則」である。

【定理】\(\psi_\alpha\)を満たすものは\(\alpha\)ごとに一意に存在する。

これを証明するために、まず以下の補題を用いて一意性を示す。

補題A】\(\mu\)を順序数とし、\(f_\mu\)が\(\psi_\mu\)を満たしている。このとき、任意の\(\nu < \mu\)について\(f_\mu\upharpoonright_\nu\)は\(\psi_\nu\)を満たす。
(証明)\(f_\mu\upharpoonright_\nu\)は\(\nu\)を定義域とする関数である。任意の\(\beta < \nu\)をとると、\(f_\mu\upharpoonright_\nu(\beta)=f_\mu(\beta)\)、いっぽう\(G((f_\mu\upharpoonright_\nu)\upharpoonright_\beta)=G(f_\mu\upharpoonright_\beta)\)であり、両者は\(\psi_\mu(f_\mu)\)により等しい。■

【\(f_\alpha\)の一意性】\(\alpha\)を任意の順序数とする。\(\psi_\alpha\)を満たすものは、存在すれば一意である。
(証明)超限帰納法による。\(\gamma < \alpha\)なる任意の\(\gamma\)の各々に対し、\(\psi_\gamma\)を満たすものは高々ひとつしかないと仮定し、さらに\(\psi_\alpha(f_1),\psi_\alpha(f_2)\)を仮定して\(f_1=f_2\)を導く。任意の\(\beta < \alpha\)をとれば、補題Aにより\(f_1\upharpoonright_\beta\)と\(f_2\upharpoonright_\beta\)はともに\(\psi_\beta\)を満たすから、帰納法の仮定により両者は一致する。したがって\(f_1(\beta)=G(f_1\upharpoonright_\beta)=G(f_2\upharpoonright_\beta)=f_2(\beta)\)、これが任意の\(\beta < \alpha\)について成り立つことから\(f_1=f_2\)である。■

この一意性と補題Aから、下の補題Bを導いておき、存在性の証明に備える。

補題B】\(\mu,\nu\)は\(\nu < \mu\)を満たす順序数であり、\(f_\mu,f_\nu\)はそれぞれ\(\psi_\mu,\psi_\nu\)を満たしている。このとき\(f_\mu
\upharpoonright_\nu=f_\nu\)、したがって\(f_\mu(\nu)=G(f_\nu)\)である。
(証明)補題Aにより\(f_\mu\upharpoonright_\nu\)は\(\psi_\nu\)を満たしているので、上で示した一意性から\(f_\nu\)に一致する。\(\psi_\mu(f_\mu)\)から\(f_\mu(\nu)=G(f_\mu
\upharpoonright_\nu)=G(f_\nu)\)。■

【\(f_\alpha\)の存在性】任意の順序数\(\alpha\)の各々に対し、\(\psi_\alpha\)を満たすものが存在する。
(証明)超限帰納法による。(ア)\(\psi_0(\varnothing)\)が成り立つ。(イ)後続順序数\(\alpha\)に対し、\(\alpha\)のひとつ前の順序数を\(\alpha^-\)とおいて\(\psi_{\alpha^-}(f_{\alpha^-})\)を仮定する。\(f=f_{\alpha^-}\cup\{\langle\alpha^-,G(f_{\alpha^-})\rangle\}\)とおくと、\(f\)は\(\alpha\)を定義域とする関数であり、\(f_{\alpha^-}=f\upharpoonright_{\alpha^-}\)となっているから、\(\psi_\alpha(f)\)が成り立っている。(ウ)極限順序数\(\alpha\)に対し、\(\gamma < \alpha\)なる任意の順序数\(\gamma\)の各々について\(f_\gamma\)が\(\psi_\gamma\)を満たすと仮定する。\(f=\displaystyle\bigcup_{\gamma < \alpha}f_\gamma\)は置換公理と和集合公理により集合をなすが、これが\(\psi_\alpha\)を満たすことを示す。任意の\(\beta < \alpha\)をとると、\(\gamma\leq\beta\)なる\(f_\gamma\)は\(\beta\)を定義域に持たず、\(\beta < \gamma\)なる\(f_\gamma\)については補題Bにより\(f_\gamma(\beta)=G(f_\beta)\)となり、\(\gamma\)の値によらない。したがって\(\langle\beta,y\rangle\in f\)を満たす\(y\)は\(G(f_\beta)\)に限られる。いっぽう\(\alpha\)に属さないものはどの\(f_\gamma\)の定義域にも属さない。以上により、\(f\)は\(\alpha\)を定義域とする関数である。すると\(f_\beta\subset f\)は\(f\)の制限となり、\(f(\beta)=G(f_\beta)=G(f\upharpoonright_\beta)\)が成り立つから、\(f\)は\(\psi_\alpha\)を満たしている。■

一意性・存在性がともに示されたので、任意の順序数の各々\(\alpha\)に対し、\(\psi_\alpha\)を満たす唯一のものを改めて\(f^*_\alpha\)と書くことにする。

【定理】順序数\(\alpha\)に対し\(G(f^*_\alpha)\)を与える規則を\(F\)とすれば、\(F(\alpha)=G(F\upharpoonright_\alpha)\)が成り立つ。ここで\(F\upharpoonright_\alpha\)とは\(\{\langle\gamma,F(\gamma)\rangle:\gamma < \alpha\}\)を意味し、これは置換公理により集合をなしている。
(証明)任意の順序数\(\alpha\)をとる。補題Bにより、任意の\(\gamma < \alpha\)について\(f^*_\alpha(\gamma)=G(f^*_\gamma)\)となるから、\(f^*_\alpha=F\upharpoonright_\alpha\)である。この両辺に\(G\)を作用させると\(F(\alpha)=G(F\upharpoonright_\alpha)\)を得る。■

モストフスキ同型写像の一意性

ゲーデルと20世紀の論理学』第4巻第2章(Web版
http://fuchino.ddo.jp/misc/goedel_et_logique_du_20e_siecle_4_I_2.pdf)定理2.17の前半、モストフスキ同型写像の一意性の証明を自分で書いてみた。教科書で行なわれている「後続点・極限点」といった場合分けは不要ではないかと考えている。

【定義】二項関係\(R\)を備えた集合\(X\)とその要素\(x\)に対し、\(\{y\in X\mid yRx\}\)を\(X_{Rx}\)と書く。

補題】\(R\)を\(X\)上の二項関係とする。\(\pi\)が\(\langle X, R\rangle\)から推移的集合\(\langle T,\in\rangle\)への同型写像であるとき、\(\pi[X_{Rx}]=\pi(x)\)が成り立つ。
(証明)\(\pi\)が同型写像であることから\(\pi[X_{Rx}]=T_{\in\pi(x)}\)である。いっぽう\(T\)は推移的集合であるから、任意の\(t\in T\)に対し\(T_{\in t}=t\)である。以上により\(\pi[X_{Rx}]=\pi(x)\)である。■

【定理】\(\langle X, <\rangle\)を整列集合とする。関係\(\in\)について\(X\)と同型な推移的集合は(存在すれば)一意である。
(証明)\(X\)から推移的集合\(T_1,T_2\)への同型写像\(\pi_1,\pi_2\)が存在すると仮定し、任意の\(x\in X\)に対し\(\pi_1(x)=\pi_2(x)\)であることを、\(X\)上の超限帰納法により示す。\(x\in X\)および「\(y < x\)なる任意の\(y\in X\)について\(\pi_1(y)=\pi_2(y)\)」を仮定すると、\(\pi_1[X_{ < x}]=\pi_2[X_{ < x}]\)である。すると補題により\(\pi_1(x)=\pi_2(x)\)である。■

再帰定理

※このエントリは古くなっています。より簡明な証明が
http://y-bonten.hatenablog.com/entry/2016/06/16/142914
にあります。

『数学のロジックと集合論』p77、定理2.10の証明を、自分で書き直してみた。

\(m\in\mathbb{N}\)と写像\(g:\mathbb{N}\to\mathbb{N}\)が与えられている。\(k\in\mathbb{N}\)ごとに条件\(\psi_k(h)\)を「\(h\)が以下のすべてを満たすこと」と定義する。
・\(h:\mathbb{N}\to\mathbb{N}\)は\(k'=\{0,1,\ldots,k\}\)を定義域とする部分写像である
・\(h(0)=m\)
・\(x'\in k'\)ならば\(h(x')=g(h(x))\)

補題】各々の\(k\in\mathbb{N}\)に対し、\(\psi_k(h)\)を満たす\(h\)が一意に存在する。

(証明)\(k\)についての帰納法による。まず\(\{\langle 0,m\rangle\}\)は\(\psi_0\)を満たしている。\(\psi_0(h)\)を仮定すると、\(h(0)=m\)すなわち\(\langle 0,m\rangle\in h\)であり、\(h\)は定義域を\(0'=\{0\}\)とする部分写像であるから、これ以外の要素を持たず、\(h=\{\langle 0,m\rangle\}\)となる。したがって\(\{\langle 0,m\rangle\}\)は\(\psi_0\)を満たす唯一のものである。
次に\(k\in\mathbb{N}\)に対し、\(h_k\)が\(\psi_k\)を満たす唯一のものであると仮定し、\(\psi_{k'}\)を満たすものが一意に存在することを示す。\(h_k\)に\(\langle k',g(h_k(k))\rangle\)を付け加えて定義域を\(k''\)に拡大したものを\(h_{k'}\)とすれば、これは\(\psi_{k'}\)を満たしている。一意性を示すために\(\psi_{k'}(h)\)を仮定し、\(h=h_{k'}\)を導く。\(h\)の定義域\(k''\)を\(k'\)に制限したもの、すなわち\(\{0,1,\ldots,k,k'\}\)から\(k'\)を除いたものを考えると、これは\(\psi_k\)を満たしているから\(h_k\)に一致する。したがって\(h(k)=h_k(k)\)だから、\(h(k')=g(h(k))=g(h_k(k))\)となり、\(h\)と\(h_{k'}\)は一致する。■

各\(k\in\mathbb{N}\)に対し\(\psi_k\)を満たす唯一のものを\(h_k\)とおく。

補題】任意の\(p,q\in\mathbb{N}\)に対し、\(p\leq q\)ならば\(h_q(p)=h_p(p)\)である。
(証明)\(h_q\)の定義域\(q'\)を\(p'\)に制限したものは\(\psi_p\)を満たし、したがって\(h_p\)に一致するから、\(h_q(p)=h_p(p)\)となる。■

【定理】\(\displaystyle f=\bigcup_{k\in\mathbb{N}}h_k\)は、以下をともに満たすような唯一の全域写像\(:\mathbb{N}\to\mathbb{N}\)である。
・\(f(0)=m\)
・任意の\(n\in\mathbb{N}\)に対し、\(f(n')=g(f(n))\)

(証明)任意の\(n\in\mathbb{N}\)をとる。\(k\in\mathbb{N}\)に対し、\(k < n\)のとき\(n\)は\(h_k\)の定義域に属さず、\(n\leq k\)のとき前補題から\(h_k(n)=h_n(n)\)である。したがって\(\langle n,y\rangle\in f\)を満たす\(y\in\mathbb{N}\)は\(h_n(n)\)のみに定まる。よって\(f\)は\(\mathbb{N}\)から\(\mathbb{N}\)への全域写像であり、\(f(n)=h_n(n)\)と書ける。すると\(f(0)=h_0(0)=m\)である。また\(f(n')=h_{n'}(n')=g(h_{n'}(n))\)および\(g(f(n))=g(h_n(n))\)であり、前補題により両者は等しくなる。
一意性を示すため、全域写像\(f^*:\mathbb{N}\to\mathbb{N}\)が同じ条件を満たすと仮定し、\(f^*=f\)を帰納法により示す。まず\(f^*(0)=m=f(0)\)である。\(f^*(k)=f(k)\)と仮定すると、\(f^*(k')=g(f^*(k))=g(f(k))=f(k')\)が従う。■

Nにおける∈の無反射性

※集合\(n\)に対し\(n\cup\{n\}\)(これは対の公理と和集合の公理により集合をなす)を\(n'\)と書く。

\(x\in x\)となる集合\(x\)が存在しないことを示すには基礎の公理が必要となるが、\(\mathbb{N}\)の要素に限定すれば、つまり\(\forall x\in\mathbb{N}[x\notin x]\)を示すだけならば、基礎の公理は不要である。
補題】\(\mathbb{N}\)上の関係\(\in\)は推移的である。
(証明)\(l,m\in\mathbb{N}\)を任意にとって固定し、\(\psi(n):l\in m\in n\rightarrow l\in n\)とおく。\(n\)に関する帰納法により\(\forall n\in\mathbb{N}[\psi(n)]\)を示す。まず\(\psi(\varnothing)\)は\(m\notin\varnothing\)により真である。次に\(n\in\mathbb{N}\)に対し\(\psi(n)\)を仮定し\(\psi(n')\)を導く。\(l\in m\in n'\)と仮定すると\(l\in m\in n\)または\(l\in m=n\)となるが、前者なら\(\psi(n)\)から、後者ならただちに\(l\in n\)を得る。したがって\(l\in n'\)である。■

【定理】\(\mathbb{N}\)上の関係\(\in\)は無反射的である。
(証明)帰納法による。まず\(\varnothing\notin\varnothing\)である。次に\(n\in\mathbb{N}\)に対し\(n\notin n\)を仮定して、\(n'\notin n'\)すなわち\(n'\notin n\wedge n'\neq n\)を導く。仮定と\(\mathbb{N}\)の推移性および\(n\in n'\)から\(n'\notin n\)である。また、同じ仮定と\(n\in n'\)から\(n'\neq n\)である。■

碁石の問題(東大入試)

『数学のロジックと集合論』(田中一之・鈴木登志雄、培風館)p30、問題0.4に、東大文系の入試問題が採録されている。同書を読むたびにこの問題を解き直してしまって先に進まないので、ここに自分の解答をメモしておく。

【問題】白石\(180\)個と黒石\(181\)個の合わせて\(361\)個の碁石が横に一列に並んでいる。碁石がどのように並んでいても、次の条件をみたす黒の碁石が少なくとも1つあることを示せ。

「その碁石とそれより右にある碁石をすべて除くと、残りは白石と黒石が同数となる。」

ただし、碁石が1つも残らない場合も同数とみなす。

【解答】黒石が白石よりも\(1\)個だけ多い碁石の並びに対して、このような黒石が存在することは、「碁石の並びを(白黒同数)黒(白黒同数)となるように分割できる」ことであると言い換えられる。ただし「白黒同数」とは、白石も黒石も\(0\)個である場合を含む。以下、これを「分割可能である」と表記し、境目にある黒石を「境界石」と呼ぶことにする。\(P(n)\)を「白石\(n\)個、黒石\(n+1\)個の並びに対し分割可能」とおき、数学的帰納法により、すべての(\(0\)を含む)自然数\(n\)に対して\(P(n)\)が成り立つことを証明する。
[1] 白石\(0\)個、黒石\(1\)個の場合、この黒石を境界石として分割可能であるので、\(P(0)\)が成り立つ。
[2]\(k\)を自然数とし、\(n\leq k\)なるすべての自然数\(n\)に対し\(P(n)\)が成り立つと仮定して、\(P(k+1)\)を導く。
白石\(k+1\)個、黒石\(k+2\)個の並びから、まったく任意に白石と黒石を\(1\)個ずつ隠す。すると白石\(k\)個、黒石\(k+1\)個が残り、帰納法の仮定から分割可能である。隠した\(2\)石は各々、境界石の左または右のいずれかにあるはずであるが、両者が境界石の同じ側にある場合は、隠すのをやめても、やはり同じ境界石によって全体が分割可能である。いっぽう\(2\)石が互いに境界石の反対側にある場合は、全体を「隠した白石のある側\(A\)」と「隠した黒石のある側\(B\)」に分け、境界石は\(A\)のほうに含める。2石を隠すのをやめると、\(A\)は白黒同数に、\(B\)は「白\(m\)個、黒\(m+1\)個」(ただし\(m\leq k\))という状態になる。すると再び帰納法の仮定により\(B\)は分割可能であり、この際の新しい境界石によって全体が分割可能となる。■

(追記1)Twitterにて@tokyomarlinさんより別解をいただいた。


(追記2)@MarriageTheoremさんからも別解をいただいた。