各元を変えない元

集合\(S\)上に二項演算\(\cdot\)が入っている。以下\(x\cdot y\)を\(xy\)と略す。
\(x\in S\)に対し、\(xy=yx=x\)を満たす\(y\in S\)を「\(x\)を変えない元」と呼ぶことにする。ある元を変えない元は複数あるかもしれないし、存在しないかもしれない。また、ある元を変えない元が他の要素をも変えないかどうかは場合によって様々である。

「\(S\)の単位元」とは、「\(S\)のどの元をも変えない元」のことである。

【定理】\( (S,\cdot)\)の単位元は1個以下である。
(証明)\(e,f\)が共に\(S\)の単位元であるとすると、\(e=ef=f\)である。■

【定理】\( (S,\cdot)\) が可換半群であり、\(S\)のすべての要素が、自身を変えない元をそれぞれちょうど一つずつ有すならば、\(S\)は単位元を持つ。
(証明)任意の\(a,b\in S\)をとり、\(a\)を変えない唯一の元を\(\alpha\)、\(b\)を変えない唯一の元を\(\beta\)とすると、\(\alpha\)も\(\beta\)も\(ab\)を変えない(それを確かめる計算で交換律・結合律を用いる)。したがって\(\alpha=\beta\)である。■

この定理の「\(S\)は可換」という条件を外すと反例が出る。
(反例)\(S=\{a,b\}(a\neq b), (\cdot):(x,y)\mapsto x\)とすると、\(S\)は半群をなし、各元は自身を変えない唯一の元として振る舞う。

開球の内点・外点・境界点

松坂和夫『集合・位相入門』p142~p143の「例」の証明を見通しよく書き直したもの。

\(\mathbb{R}^n\)上の点\(a\)と正の実数\(\epsilon\)とに対し、\(a\)から距離が\(\epsilon\)未満の/に等しい/を超える点の集合をそれぞれ\(O_a^{<\epsilon},O_a^{=\epsilon},O_a^{>\epsilon}\)と書くことにする。\(\mathbb{R}^n\)の部分集合\(M\)に対し、\(M\)の要素\(x\)で\(\exists\epsilon>0[O_x^{<\epsilon}\subseteq M]\)を満たすものを「\(M\)の内点」と呼び、\(M\)の補集合の内点を「\(M\)の外点」、\(M\)の内点でも外点でもないものを「\(M\)の境界点」と呼ぶ。\(M\)の内点全体/外点全体/境界点全体の集合をそれぞれ\(M^i,M^e,M^f\)と書けば、\(\mathbb{R}^n=M^i\cup M^e\cup M^f\)(直和)が成り立つ。

いま、特に\(M\)として\(O_x^{<\epsilon}\)自身を考えたとき、\(M^i,M^e,M^f\)が各々\(O_a^{<\epsilon},O_a^{>\epsilon},O_a^{=\epsilon}\)に一致することは直感的には頷けるところであるが、これを証明する。\(\mathbb{R}^n=O_a^{<\epsilon}\cup O_a^{>\epsilon}\cup O_a^{=\epsilon}\)(直和)であるので、\[O_a^{<\epsilon}\subseteq M^i,\]\[O_a^{>\epsilon}\subseteq M^e,\]\[O_a^{=\epsilon}\subseteq M^f\]を示せば、逆の包含も自動的に成り立つことが分かる。
(a)\(O_a^{<\epsilon}\subseteq M^i\):
\(O_a^{<\epsilon}\)の任意の要素\(b\)をとると\(\epsilon-d(a,b)>0\)である。そこで\(O_b^{<\epsilon-d(a,b)}\)を考えると、その任意の要素\(x\)について\(d(b,x)<\epsilon-d(a,b)\)が成り立つが、これと三角不等式から\(d(a,x)\leq d(a,b)+d(b,x) < \epsilon\)すなわち\(x\in M\)である。ゆえに\(O_b^{<\epsilon-d(a,b)}\subseteq M\)であるので、\(b\)は\(M\)の内点である。
(b)\(O_a^{>\epsilon}\subseteq M^e\):
\(O_a^{>\epsilon}\)の任意の要素\(b\)をとると\(d(a,b)-\epsilon>0\)である。そこで\(O_b^{ < d(a,b)-\epsilon}\)を考えると、その任意の要素\(x\)について\(d(b,x) < d(a,b)-\epsilon\)が成り立つが、これと三角不等式から\(d(a,x)\geq d(a,b)-d(b,x) > \epsilon\)したがって\(x\notin M\)である。ゆえに\(O_b^{ < d(a,b)-\epsilon}\)は\(M\)と交わらないので、\(b\)は\(M\)の外点である。
(c)\(O_a^{=\epsilon}\subseteq M^f\):
\(O_a^{=\epsilon}\)の任意の要素\(b\)をとり、\(\epsilon'\)を任意の正の実数として\(O_b^{<\epsilon'}\)を考え、これが\(M\)および\(M\)の補集合と交わることを示す。まず、\(b\)自身が\(M\)に属していないので、\(O_b^{<\epsilon'}\)は\(M\)の補集合と交わっている。
(c-1)\(\epsilon' > \epsilon\)のとき:\(d(b,a)=\epsilon < \epsilon'\)により\(a\in O_b^{<\epsilon'}\)、したがって\(O_b^{<\epsilon'}\)は\(a\)において\(M\)と交わっている。
(c-2)\(\epsilon'\leq\epsilon\)のとき:\(c=b+(\epsilon'/2)(a-b)/\epsilon\)とおくと\(d(b,c)=\epsilon'/2 < \epsilon'\)、いっぽう\(d(a,c)=\epsilon-(\epsilon'/2) < \epsilon\)より、\(O_b^{<\epsilon'}\)と\(M\)は\(c\)を共有している。

どうしても部分積分が苦手な人のために ~積分記号なしで積分する~

(前置き)
\(f(x)\)の原始関数とは、\(f(x)=F'(x)\)を満たす\(F(x)\)のことである。例えば\[\cos x=(\sin x)'\]であるので、\(\sin x\)は\(\cos x\)の原始関数(のひとつ)である。

つまり、与えられた関数を\( (\cdots)'\)の形に押し込めてしまえば、原始関数のひとつが求まったことになる。通常はこれを\(\int\cos xdx=\sin x+C\)(\(C\)は積分定数)と書くが、分かったうえで書く分には、最初の\(\cos x=(\sin x)'\)をもって「積分しました」と主張しても構わないであろう。

(本題)
部分積分は、あえて公式として書けば\[\int f'(x)g(x)dx=f(x)g(x)-\int f(x)g'(x)\ dx\]などとなり、このような形で教科書にも載っているが、これをそのまま暗記しようとするのは得策ではない。気の利いた人なら、とりあえず\( (x) \)が何度も現れて煩雑なので\[\int (f')g\ dx=fg-\int f(g')\ dx\]と適当に略すし、\(fg\)を\(\displaystyle\int(fg)'\ dx\)と頭の中で読みかえることもできる:\[\int (f')g\ dx=\int(fg)'\ dx-\int f(g') dx\]そしてそういう人は、いちいち\(\displaystyle\int\cdots dx\)で囲まれた各項の核心を抽出して、この等式の中に\[(f')g=(fg)'-f(g')\]という骨組みを見ている。言うまでもなく、これは「積の微分」の等式を少し書き直しただけのものである。

「前置き」に述べた、「\( (\cdots)'\)の形に押し込める変形をもって『積分した』とする」流儀に従うなら、この「積の微分」の原理さえ忘れなければ見通しよく部分積分ができる。要するに、\((f')g\)という形を見たとき、これを単純に\( (fg)'\)と押し込めてしまうことができれば積分は直ちに終了するが、そんなことをしたら怒られる。そこで余分な\( f(g')\)を差し引いて帳尻を合わせるのである。こういう発想は、\( a^2+b^2=(a+b)^2-2ab\)とか、二次式の平方完成などで高校生にはお馴染みだろう。もちろん、帳尻合わせの項の積分が残っているから、いつもうまくいくとは限らない。

例1:\(\displaystyle\int(ax+b)\sin xdx=-(ax+b)\cos x+a\sin x+C\)
(計算)
\[(ax+b)\sin x=(ax+b)(-\cos x)'=[(ax+b)(-\cos x)]'-(ax+b)'(-\cos x)\]\[=[-(ax+b)\cos x]'+a\cos x=[-(ax+b)\cos x+a\sin x]'\]
(手順)
(1)\(ax+b\)か\(\sin x\)のどちらかを\( (\cdots)'\)に押し込める。どちらを選べばいいか迷う暇があったら両方試してくれ。そのうち慣れる。ここでは\(\sin x\)を\( (-\cos x)'\)に変えた。\[(ax+b)\sin x=(ax+b)(-\cos x)'\](2)「そうだったらいいのにな」と歌いながら、全体を押し込めて誤った変形をし、最後にマイナスを付ける。\[(ax+b)(-\cos x)'=[(ax+b)(-\cos x)]'-\](3)\([\cdots]'\)の微分計算、「前だけ微分+後ろだけ微分」を想像する。後ろだけ微分したら左辺になるので、前だけ微分したものを差し引けば帳尻が合う。 \[(ax+b)(-\cos x)'=[(ax+b)(-\cos x)]'-(ax+b)'(-\cos x)\](4)帳尻合わせの項の微分を実行して整理する。ついでに\([\cdots]'\)内のマイナス記号も先頭に持ってきたが、まぁそれはどうでもよい。\[=[-(ax+b)\cos x]'+a\cos x\](5)残った項が首尾よく\( (a\sin x)'\)と押し込められるので、前の項と連結する。ここは一気にやってしまおう。\[=[-(ax+b)\cos x+a\sin x]'\](6)これで完成したので、今度は検算してみる。検算はできるだけ暗算でやってみよう。第1項のうち「後ろだけ微分」のほうが元の関数に戻り、「前だけ微分」を第2項の微分が打ち消す様子を想像できるだろうか。そして、「その検算過程は、ついさっきまでやっていた計算とそっくりである」ということが実感できるだろうか。
(7)同じ計算を、今度は途中を省略してやってみよう。(2)の後にいきなり(4)か(5)あたりまで飛んでもよい。

例2:\(\displaystyle\int x\log x=\frac{x^2}{2}\log x-\frac{x^2}{4}+C\)
(計算)\[x\log x=\left(\frac{x^2}{2}\right)'\log x=\left(\frac{x^2}{2}\log x\right)'-\frac{x^2}{2}(\log x)'\]\[=\left(\frac{x^2}{2}\log x\right)'-\frac{x^2}{2}\cdot\frac{1}{x}=\left(\frac{x^2}{2}\log x\right)'-\frac{x}{2}=\left(\frac{x^2}{2}\log x-\frac{x^2}{4}\right)'\]例1と同様の手順を確認しよう。今回は\(f(g')\)でなく\( (f')g\)の形になっているが、全く同じことである。

例3:\(\displaystyle\int x^2\cos xdx=x^2\sin x+2x\cos x-2\sin x+C\)
(計算)\[x^2\cos x=x^2(\sin x)'=(x^2\sin x)'-(x^2)'\sin x=(x^2\sin x)'-2x\sin x\]\[=(x^2\sin x)'+2x(\cos x)'=(x^2\sin x+2x\cos x)'-(2x)'\cos x=(x^2\sin x+2x\cos x)'-2\cos x\]\[=(x^2\sin x+2x\cos x-2\sin x)'\]これだけの行数だが部分積分を2回行っていることに注目。慣れればもっと省略できる。検算も気持ちよくスパスパ消えていくことを体験してほしい。

例4:\(\displaystyle\int e^x\cos2xdx=\frac{1}{5}e^x(\cos2x+2\sin2x)+C\)
(計算)\[e^x\cos2x=(e^x)'\cos2x=(e^x\cos2x)'-e^x(\cos2x)'=(e^x\cos2x)'+2e^x\sin2x\]\[=(e^x\cos2x)'+(2e^x)'\sin2x=(e^x\cos2x+2e^x\sin2x)'-2e^x(\sin2x)'\]\[=(e^x\cos2x+2e^x\sin2x)'-4e^x\cos2x\]部分積分を2回行なって\(e^x\cos2x\)が再発したので、これについて解けば\[e^x\cos2x=\frac{1}{5}(e^x\cos2x+2e^x\sin2x)'=\left(\frac{1}{5}e^x(\cos2x+2\sin2x)\right)'\]を得る。

普段から原理を理解したうえで部分積分を行なっていれば、通常の積分記号を用いた計算と何ら変わりのないことをやっているだけだということが分かるはずである。

線形代数ゼミ20171108の補足

(関係者向けのノートです。)

●転倒数の定義の同等性の証明
\(\{1,2,\ldots,n\}=\{a_1,a_2,\ldots,a_n\}\)とする。任意の\(k=1,2,\ldots,n\)に対し、\(a_r=k\)を満たす\(r\)はただひとつ存在するから、これを\(c_k\)と書く。
\(\sigma\)をサイズ\(n\)の置換とし、\[X=\{(p,q)\mid a_p < a_q\wedge\sigma(a_p) > \sigma(a_q)\}\]\[Y=\{(i,j)\mid i < j\wedge\sigma(i) > \sigma(j)\}\] とおく。\(|X|=|Y|\)を示すために、\(X\to Y\)および\(Y\to X\)の単射を構成する。
\( (p,q)\in X\)のとき\( (a_p,a_q)\in Y\)であるから、\[\varphi:X\to Y,\ (p,q)\mapsto (a_p,a_q)\]という写像を考えることができる。\( (a_p,a_q)=(a_{p'},a_{q'})\)とすると、\(a_p=a_{p'}\)かつ\(a_q=a_{q'}\)から\(p=p'\)かつ\(q=q'\)、したがって\(\varphi\)は単射である。
いっぽう\( (i,j)\in Y\)のとき\( (c_i,c_j )\in X\)であるから(\(a_{c_k}=k\)に注意)、\[Y\to X,\ (i,j)\mapsto(c_i,c_j)\]という写像を考えることができる。これは\(\varphi\)と同様にして単射であることが分かる。

●補題5.6で\(|T_\tau|\leq|T_{\tau^{-1}}|\)を示す箇所
\[T_\tau=\{(i,j)\mid i < j\wedge \tau(i) > \tau(j)\}\]\[T_{\tau^{-1}}=\{(x,y)\mid x < y\wedge \tau^{-1}(x) > \tau^{-1}(y)\}\]とする。\( (i,j)\in T_\tau\)のとき\( (\tau(j),\tau(i) )\in T_{\tau^{-1}}\)であるから(\(\tau^{-1}(\tau(k))=k\)に注意)、\[T_\tau\to T_{\tau^{-1}},\ (i,j)\mapsto(\tau(j),\tau(i) )\]という写像を考えることができる。\( (\tau(j),\tau(i))=(\tau(j'),\tau(i') )\)とすると、\(\tau(j)=\tau(j')\)かつ\(\tau(i)=\tau(i')\)から\(j=j'\)かつ\(i=i'\)、したがってこの写像は単射である。

連続写像のさまざまな定義

発端はこのツイート。

位相空間\(X\)から位相空間\(Y\)への写像\(f\)について、次の2つはともに\(f\)の連続性を意味している。両者の同値性を、他の連続性の定義を経由せずに直接示したい。

(d)任意の\(B\subseteq Y\)について\(f^{-1}\left[B^\circ\right]\subseteq\left(f^{-1}[B]\right)^\circ\)
(e)任意の\(A\subseteq X\)について\(f[\overline{A}]\subseteq\overline{f[A]}\)

両者はそれぞれ「逆像・開核」/「順像・閉包」の流儀で書かれていて、一見すると綺麗な双対になっているが、あえて閉包で揃えたほうが見通しが良いように思われる。(d)を閉包で書き直すと

(d)任意の\(B\subseteq Y\)について\(\overline{f^{-1}[B]}\subseteq f^{-1}[\overline{B}]\)

となる。閉包作用素の単調性(\(P\subseteq Q\)ならば\(\overline{P}\subseteq\overline{Q}\))から、(d)の\(\overline{f^{-1}[B]}\subseteq f^{-1}[\overline{B}]\)は「\(A\subseteq f^{-1}[B]\)を満たす任意の\(A\)に対して\(\overline{A}\subseteq f^{-1}[\overline{B}]\)が成り立つこと」と同値である。つまり(d)は\[A\subseteq f^{-1}[B]\rightarrow\overline{A}\subseteq f^{-1}[\overline{B}]\]と書き直せる。同様に(e)を書き直すと
\[f[A]\subseteq B\rightarrow f[\overline{A}]\subseteq\overline{B}\]となる。両者を見比べると、「ならば」の前件同士・後件同士がそれぞれ同値であるから、全体としても同値である。

この証明は、

およびの回答を参考にし、見通しよくリファクタリングしたものであり、私からの新しいアイデアは特にない。

(2018年12月9日追記:)
より簡明な方法を考えてみた。

閉包を\((\cdot)^a\)、補集合を\((\cdot)^c\)で表す。\(f[P]\subseteq Q\Leftrightarrow P\subseteq f^{-1}[Q]\)により、(e)を 書き換えておく。
(d)\(f^{-1}[B^o]\subseteq f^{-1}[B]^o\)
(e)\(A^a\subseteq f^{-1}[f[A]^a]\)
(d)の\(B\)として\(f[A]^c\)を選ぶと、
左辺は\(f^{-1}[f[A]^{co}]=f^{-1}[f[A]^{ac}]=f^{-1}[f[A]^a]^c\)、
右辺は\(f^{-1}[f[A]^c]^o=f^{-1}[f[A]]^{co}\subseteq A^{co}=A^{ac}\)
となるから、\(f^{-1}[f[A]^a]^c\subseteq A^{ac}\)すなわち(e)を得る。
(e)の\(A\)として\(f^{-1}[B^c]\)を選ぶと、
左辺は\(f^{-1}[B^c]^a=f^{-1}[B]^{ca}=f^{-1}[B]^{oc}\)、
右辺は\(f^{-1}[f[f^{-1}[B^c]]^a]\subseteq f^{-1}[B^{ca}]=f^{-1}[B^{oc}]=f^{-1}[B^o]^c\)
となるから、\(f^{-1}[B]^{oc}\subseteq f^{-1}[B^o]^c\)すなわち(d)を得る。

二項関係を保つ/反映する写像

集合\(A,B\)が、それぞれ二項関係\(R,S\)を備えており、\(f\)を\(A\)から\(B\)への写像とする。
【定義】
任意の\(x,y\in A\)について\(xRy\rightarrow f(x)Sf(y)\)が成り立つとき、「\(f\)は関係を保つ(preserves)」あるいは「\(f\)は準同型写像である」という。
任意の\(x,y\in A\)について\(f(x)Sf(y)\rightarrow xRy\)が成り立つとき、「\(f\)は関係を反映する(reflects)」という。
【例】\(R,S\)として特に等号を考えると、「\(f\)は単射である」は「\(f\)は『\(\neq\)』を保つ」とも「\(f\)は『\(=\)』を反映する」とも言い換えられる。
【定義】\(f\)が全単射であり、\(f\)および\(f^{-1}\)がともに関係を保つとき、「\(f\)は同型写像である」という。
\(f\)が全単射のとき、「\(f\)が関係を反映する」ことと「\(f^{-1}\)が関係を保つ」こととは同値である。したがって、上の定義は「全単射\(f\)が関係を保ってしかも反映するとき……」と言い換えてもよい。

以下、特に\(R,S\)が全順序関係である場合を考える。
\(f\)が\(\leq\)を保つことと、\(f\)が\( < \)を反映することは同値である。これらを(1)とする。
\(f\)が\( < \)を保つことと、\(f\)が\(\leq\)を反映することは同値である。これらを(2)とする。
「(1)かつ『\(f\)は単射である』」と、(2)とは同値である。つまり、(2)は\(f\)の単射性を含意しており、(1)より強い条件である。
このことから、単射においては「保たれる/反映される関係が\(\leq\)なのか\( < \)なのか」に注意を払う必要が無いことも分かる。
さらに\(f\)が全単射ならば、上記の議論により(1)のみで\(f\)が同型写像であることが言える。

線形変換の冪の核に対して特徴的な基底

竹山美宏『ベクトル空間』16.2節に相当する議論。

補題0】\(U,V\)はベクトル空間、\(A,B\)は\(U\)の部分空間で\(A+B\)は直和であり、線形写像\(f:A\oplus B\to V\)は単射であるとする。このとき、\(f[A\oplus B]=f[A]\oplus f[B]\)が成り立つ。
(証明)\(f\)の加法性から\(f[A+B]=f[A]+f[B]\)は直ちに言えるので、あとは\(f[A]\cap f[B]=\{0_V\}\)を示せばよい。まず、\(0_U\in A\cap B\)から\(0_V=f(0_U)\in f[A]\cap f[B]\)である。逆に\(z \in f[A]\cap f[B]\)と仮定すると、\(z=f(a)=f(b)\)なる\(a\in A\)および\(b\in B\)が存在する。\(f\)の単射性から\(a=b\)、したがってこれは\(A\cap B\)に属し\(a=b=0_U\)である。すると\(z=f(0_U)=0_V\)となる。■

\(\varphi\)を有限次元ベクトル空間\(V\)上の線形変換とし、自然数\(i\)に対して\({\rm Ker}\ \varphi^i\)を\(Z_i\)と書く。\(Z_i\)に対して特徴的な基底がとれることを議論する。

補題1】任意の自然数\(i\)に対し、以下が成り立つ。
(1)\(Z_i\subseteq Z_{i+1}\)
(2)\(\varphi[Z_{i+2}\backslash Z_{i+1}]\subseteq Z_{i+1}\backslash Z_i\)
(証明)(1)\(\varphi^i(x)=0\)のとき、\(\varphi^{i+1}(x)=\varphi(\varphi^i(x))=\varphi(0)=0\)である。
(2)\(x\in\varphi[Z_{i+2}\backslash Z_{i+1}]\)とすると、\(x=\varphi(y)\)かつ\(\varphi^{i+1}(y)\neq0\)かつ\(\varphi^{i+2}(y)=0\)を満たす\(y\in V\)が存在する。後2者はそれぞれ\(\varphi^i(\varphi(y))\neq0,\varphi^{i+1}(\varphi(y))=0\)と書けるので、これと\(x=\varphi(y)\)から\(x\in Z_{i+1}\backslash Z_i\)である。■

補題2】\(i\)を任意の自然数とする。\(Z_{i+2}\)が\(Z_{i+1}\oplus W\)を部分空間に持つとき、\(Z_{i+1}\)は\(Z_i\oplus\varphi[W]\)を部分空間に持つ。
(証明)\(Z_{i+2}\)が\(Z_{i+1}\oplus W\)を部分空間に持つことから、\(W\subseteq (Z_{i+2}\backslash Z_{i+1})\cup\{0\}\)が成り立つ。これと集合の像の性質により\(\varphi[W]\subseteq\varphi[(Z_{i+2}\backslash Z_{i+1})\cup\{0\}]=\varphi[Z_{i+2}\backslash Z_{i+1}]\cup\varphi[\{0\}]\)、ここで補題1(2)と\(\varphi(0)=0\)を用いると、さらに\(\subseteq(Z_{i+1}\backslash Z_i)\cup\{0\}\)となる。\(Z_{i+1},Z_i,\varphi[W]\)はいずれも\(V\)の部分空間であるので、いま得られた台集合同士の包含関係により、\(Z_{i+1}\)は\(Z_i\oplus\varphi[W]\)を部分空間に持つことが分かる。■

以下、\(Z_4\)の場合について述べるが、一般の\(Z_i\)についても同様である。
\(Z_4\)における\(Z_3\)の補空間のひとつをとって\(W_4\)とすると、\[Z_4=Z_3\oplus W_4\]と書ける。すると補題2から\(Z_3\)は\(Z_2\oplus\varphi[W_4]\)を部分空間に持つ。この空間の\(Z_3\)における補空間のひとつをとって\(W'_3\)とし、さらに\(\varphi[W_4]\oplus W'_3\)を\(W_3\)と書けば\[Z_3=Z_2\oplus\varphi[W_4]\oplus W'_3=Z_2\oplus W_3\]となる。全く同様にして\[Z_2=Z_1\oplus\varphi[W_3]\oplus W'_2=Z_1\oplus W_2\]\[Z_1=Z_0\oplus\varphi[W_2]\oplus W'_1=Z_0\oplus W_1\]を得る。\(Z_0=\{0\}\)から、\(Z_4=W_1\oplus W_2\oplus W_3\oplus W_4\)である。
\(W_4\)を\(W'_4\)とも書くことにし、\(W_1\)~\(W_4\)を順次計算すると\[W_4=W'_4\]\[W_3=\varphi[W_4]\oplus W'_3=\varphi[W'_4]\oplus W'_3\]\[W_2=\varphi[W_3]\oplus W'_2=\varphi^2[W'_4]\oplus\varphi[W'_3]\oplus W'_2\]\[W_1=\varphi[W_2]\oplus W'_1=\varphi^3[W'_4]\oplus\varphi^2[W'_3]\oplus\varphi[W'_2]\oplus W'_1\]途中の計算では、\(k\geq 2\)のとき\({\rm Ker}\ \varphi\upharpoonright_{W_k}=\{0\}\)より、補題0を用いた。

\(k\geq 1\)に対し\(W'_k\)の基底を\(T'_k\)とすると、\(k\)未満の任意の自然数\(n\)について\({\rm Ker}\ \varphi^n\upharpoonright_{W'_k}=\{0\}\)から、\(\varphi^n[T'_k]\)は\(\varphi^n[W'_k]\)の基底となる。したがって、\[T'_4,\varphi[T'_4],\varphi^2[T'_4],\varphi^3[T'_4],\ T'_3,\varphi[T'_3],\varphi^2[T'_3],\ T'_2,\varphi[T'_2],\ T'_1\]を連ねたものは\(Z_4\)の基底である。また\(W'_k\subseteq Z_k\)より\(\varphi^k[W'_k]=\{0\}\)、つまり\(T'_k\)の各ベクトルを\(\varphi^k\)でうつすといずれも\(0\)になる。