20180422集合と位相ゼミの補足

(※内輪向けのメモです。)
二項関係を初めて理解する際は、まずは最も素朴に二次元の表をイメージしておくのが良いと思います。
例えば\(X=\{グー,チョキ,パー\}\)として、関係\(aRb\)を「\(a\)が\(b\)に勝つ」とすると、その実体は\(R=\{(グー,チョキ),(チョキ,パー),(パー,グー)\}\)という、\(X\times X\)の部分集合です。こう定めておくことにより、\(aRb\Leftrightarrow (a,b)\in R\)と考えることができます。

a \ b グー チョキ パー
グー
チョキ
パー

この例では\(X\)のサイズが\(3\)なので表のマスは\(3\times 3=9\)個あり、●の付け方は\(2^9=512\)通りあります。それらの中には「\(a\)が\(b\)に勝つ」のように、●の付け方のルールが簡単に表現できるものもありますが、ワケの分からないところに●が付いているものもたくさんあります。それらのひとつひとつはいずれも二項関係と呼んでよい、ということに注意してください。すべてのマスに●が付いているものも、●が全く付いていないものも、\(X\)上の二項関係のひとつです。

・「前提を伴った定義文」の実例について考えてみました。たとえば「\(X,Y\)をベクトル空間とする。\(X\)から\(Y\)への写像\(f\)が(略)を満たすとき、\(f\)を『\(X\)から\(Y\)への線形写像』という。」という定義があって、その後で\(U,V\)に関する前置きなく「\(g\)を\(U\)から\(V\)への線形写像とする」という仮定が書いてあったとします。このときは「\(U,V\)はベクトル空間なのだな」と補って読んでやるしかありませんが、あまり良くない書き方だと思います。やはり、文脈上すでに\(U,V\)がベクトル空間として登場しているとか、直前に「\(U,V\)をベクトル空間とし、」といった文言を書くのが通例です。

・「\(f\)を\(X\times Y\)の部分集合と思ったとき」というのは、いま読んでもやはり「『思ったとき』も何も、まさに部分集合として定義しているじゃないか」と感じてしまいますが、誰もがそのような集合論的コーディングを意識するわけではないので、ここは「部分集合であることを強調したいとき」というくらいの意味で捉えればよいと思います。実際、集合論ではわざわざ\(\Gamma_f\)など導入せずに\( (x,y)\in f\)と書いているものを普通に見かけますが、著者にとっては違和感があったのでしょう。

・p19の問5(2)に対して、「結局\(h(g(f(x)))\)と書くのなら、グラフを用いてもたいして説明は変わらないのでは」という話が出ました。(1)は\(\{(x,z)\in X\times Z\mid\exists y\in Y[(x,y)\in\Gamma_f\wedge(y,z)\in\Gamma_g]\}\)と書くこともできます。(2)も同様に書けば\((h\circ g)\circ f\)と\(h\circ (g\circ f)\)が一致するので両写像は等しい、というのが著者の意図だったのではないでしょうか。

・みんなで少し詰まった「単射\(f:X\to Y\)において\(x\notin A\)ならば\(f(x)\notin f[A]\)」の証明、次のように書くのはどうでしょうか。
「\(x\notin A\)と仮定する。任意の\(x'\in A\)に対し、\(x\neq x'\)と\(f\)の単射性から\(f(x)\neq f(x')\)である。すなわち、\(f(x)\)は\(f[A]\)のどの要素とも等しくならない。したがって\(f(x)\notin f[A]\)である。」

20180414集合と位相ゼミの補足

(※内輪向けのメモです。)
発表者の証明を聞いて「ふんふん」と納得することと、実際に自分で証明を書いてみることの間には大きな壁があります。全部やるのは大変ですが、いくつかでも自分で書いてみることを勧めます。

今日取り上げられていた、補題1.3.2の2の逆を例に挙げると:

(問)「\(A\cup B\subset C\)ならば『\(A\subset C\)かつ\(B\subset C\)』」を証明せよ。
(証明)\(A\cup B\subset C\)を仮定し、\(A\subset C\)および\(B\subset C\)をそれぞれ導く。
まず\(A\subset C\)を示すためには、\(x\in A\)を満たす任意の\(x\)をとり、\(x\in C\)を導けばよい。
いま\(x\)は\(x\in A\vee x\in B\)を満たしているので、\(x\in A\cup B\)である。
これと\(A\cup B\subset C\)から、\(x\in C\)である。以上により\(A\subset C\)が示された。
同様にして\(B\subset C\)も示される。■

(別証)以下の補題を先に示す。
・\(P\subset P\cup Q\)および\(Q\subset P\cup Q\)
(証明)前者を示すために、\(x\in P\)を満たす任意の\(x\)をとり、\(x\in P\cup Q\)を導く。\(x\in P\)から、\(x\in P\vee x\in Q\)が成り立っている。したがって\(x\in P\cup Q\)である。後者も同様に示される。■
・「\(X\subset Y\)かつ\(Y\subset Z\)」ならば\(X\subset Z\)
(証明)\(X\subset Y,Y\subset Z\)を仮定し、さらに\(a\in X\)を満たす任意の\(a\)をとって\(a\in Z\)を導く。\(a\in X\)と\(X\subset Y\)から、\(a\in Y\)である。これと\(Y\subset Z\)から、\(a\in Z\)である。■
(本題の証明)\(A\cup B\subset C\)を仮定すると、上の補題により\(A\subset A\cup B\subset C\)から\(A\subset C\)が導かれる。同様に\(B\subset A\cup B\subset C\)から\(B\subset C\)となる。■

Nにおける∈の整礎性

\(N\)における∈の整礎性を、通常の帰納法で示す。\(N\)が順序をなす議論から独立して話を進めたいので、「\(\in\)極小元」といった語の代わりに、下のような語を用いる。
【定義】\(S\)が\(\neg\exists x\in S[x\in t]\)なる要素\(t\)を持つとき、\(t\)を\(S\)の\(\in\)左終端と呼ぶ。

【定理】\(N\)の非空部分集合は\(\in\)左終端を持つ。
(証明)\[\alpha(n):n\in S\subseteq Nを満たす任意のSが\in左終端を持つ\]とおき、\(\forall n\in N[\alpha(n)]\)を示せばよい。さらに\[\beta(n):\forall k\in n'[\alpha(k)]\]とおく。\(n\in n'\)により、各\(\beta(n)\)は\(\alpha(n)\)を含意するので、\(\forall n\in N[\beta(n)]\)を帰納法で証明することにする。まず\(\beta(\varnothing)\)は\(\alpha(\varnothing)\)のことであるが、\(\varnothing\in S\subseteq N\)を満たす任意の\(S\)は\(\varnothing\)を\(\in\)左終端に持つことから、これは成立する。次に\(\beta(n)\)を仮定して\(\beta(n')\)を導くが、\(n''=n'\cup\{n'\}\)により、\(\alpha(n')\)さえ導ければよい。そこで、\(n'\in S\subseteq N\)を満たす任意の\(S\)をとる。\(r\in n'\)かつ\(r\in S\)なる\(r\)が存在するとき、\(\beta(n)\)により\(\alpha(r)\)が成立するので、\(S\)は\(\in\)左終端を持つ。そのような\(r\)が存在しないときは、\(n'\)が\(S\)の\(\in\)左終端となる。■

最小の帰納的集合は順序数である

【定義】対の公理と和集合の公理により、任意の集合\(s\)の各々に対して\(s\cup\{s\}\)なる集合が存在するので、これを\(s'\)と書く。すなわち\[r\in s'\Leftrightarrow (r\in s\vee r=s)\]が成り立つ。

【定義】\(y\)が次の条件\(\varphi(y)\)を満たすことを、「\(y\)は帰納的集合である」という。\[\varphi(y):\varnothing\in y\wedge\forall z[z\in y\rightarrow z'\in y]\]

【公理】(無限公理)帰納的集合が存在する。

【定義】無限公理により存在が保証された帰納的集合のひとつを\(I\)とすると、分出公理により\[\{x\in I\mid\forall y[\varphi(y)\rightarrow x\in y]\}\] という集合が存在し、これは\(I\)のとり方によらない。この集合を\(N\)と名付ける。

【命題】\(N\)は最小の帰納的集合である。
(証明)\(N\)が任意の帰納的集合に包含されること:任意の帰納的集合\(J\)と任意の\(x\in N\)をとれば\(x\in J\)、したがって\(N\subseteq J\)である。
\(N\)自身が帰納的集合であること:\(\varphi(y)\)を満たす任意の\(y\)をとると\(\varnothing\in y\)、特に\(\varnothing\in I\)。したがって\(\varnothing\in N\)である。次に\(z\in N\)を仮定し\(z'\in N\)を導く。\(\varphi(y)\)を満たす任意の\(y\)をとると、\(z\in N\)から\(z\in y\)、これと\(\varphi(y)\)から\(z'\in y\)、特に\(z'\in I\)。したがって\(z'\in N\)である。■

上の命題により、\(N\)上で数学的帰納法が使えるようになる。

【定義】\(S\)が\(\neg\exists x\in S[x\in t]\)なる要素\(t\)を持つとき、\(t\)を\(S\)の\(\in\)左終端と呼ぶ。ある集合の任意の非空部分集合が\(\in\)左終端を持つとき、この集合は「\(\in\)に関して整礎である」という。

【命題】\(N\)は\(\in\)に関して整礎である。
(証明)\[\alpha(n):n\in S\subseteq Nを満たす任意のSが\in左終端を持つ\]とおき、\(\forall n\in N[\alpha(n)]\)を示せばよい。さらに\[\beta(n):\forall k\in n'[\alpha(k)]\]とおく。\(n\in n'\)により、各\(\beta(n)\)は\(\alpha(n)\)を含意するので、\(\forall n\in N[\beta(n)]\)を帰納法で証明することにする。まず\(\beta(\varnothing)\)は\(\alpha(\varnothing)\)のことであるが、\(\varnothing\in S\subseteq N\)を満たす任意の\(S\)は\(\varnothing\)を\(\in\)左終端に持つことから、これは成立する。次に\(\beta(n)\)を仮定して\(\beta(n')\)を導くが、\(n''=n'\cup\{n'\}\)により、\(\alpha(n')\)さえ導ければよい。そこで、\(n'\in S\subseteq N\)を満たす任意の\(S\)をとる。\(r\in n'\)かつ\(r\in S\)なる\(r\)が存在するとき、\(\beta(n)\)により\(\alpha(r)\)が成立するので、\(S\)は\(\in\)左終端を持つ。そのような\(r\)が存在しないときは、\(n'\)が\(S\)の\(\in\)左終端となる。■

【定義】集合\(t\)が「\(k\in t\)ならば\(k\subseteq t\)」を満たすとき、「\(t\)は推移的集合である」という。以下では推移的集合のことをtransetと記す。

【命題】上の定義の「\(k\in t\)ならば」を「\(k\in t'\)ならば」に替えても同値である。
(証明)\(t\subseteq t\)は常に成立するため。■

【命題】集合\(t\)がtransetであるとき、\(t'\)もtransetである。
(証明)\(t\)がtransetであると仮定すると、任意の\(k\in t'\)に対し\(k\subseteq t\subseteq t'\)となるから、\(t'\)もtransetである。■

【命題】\(N\)の各要素はいずれもtransetである。
(証明)帰納法による。まず\(\varnothing\)はtransetである。\(n\in N\)がtransetであると仮定すると、上の命題により\(n'\)もtransetである。■

この命題を活用して、\(N\)における「\('\)」の性質についての補題を得ておく。

【命題】任意の\(p,q\in N\)に対し、次が成り立つ。
(1)\(p'\neq\varnothing\)
(2)\(\varnothing\in p'\)
(3)\(p=q\Leftrightarrow p'=q'\)
(4)\(p\in q\Leftrightarrow p'\in q'\)
(証明)(1)\(p\notin\varnothing\)および\(p\in p'\)による。
(2)\(p\)についての帰納法による。まず\(\varnothing\in\varnothing'\)は成り立つ。\(\varnothing\in p'\)は\(\varnothing\in p''\)を含意する。
(3)「→」は等号公理により直ちに示される。「←」を示すため、\(p'=q’\)と仮定する。\(p\in p'=q'\)であり、\(q\)がtransetであることから\(p\subseteq q\)である。まったく同様にして\(q\subseteq p\)が導かれるので、\(p=q\)となる。
(4)任意の\(p\in N\)を選んで固定し、\(q\)についての帰納法で示す。まず\(p\in\varnothing\Leftrightarrow p'\in\varnothing'\)は両辺とも偽になるので成立する。\(p\in q\Leftrightarrow p'\in q'\)と仮定すると、(3)と辺々「\(\vee\)」で結ぶことにより\(p\in q'\Leftrightarrow p'\in q''\)となる。■

【命題】\(N\)は二項関係\(\in\)に関して無反射的全順序をなす。
(証明)推移性:\(N\)の任意の要素\(l,m,n\)をとり、\(l\in m\in n\)と仮定すると、\(n\)がtransetであることから\(l\in n\)である。
無反射性:帰納法による。まず\(\varnothing\notin\varnothing\)である。\(n\notin n\)と仮定すると、「\('\)」の性質(4)により\(n'\notin n'\)となる。

一般に推移的かつ無反射的な二項関係は反対称的でもある。したがって\(N\)における\(\in\)も反対称的である。

弱い三分性:\(m\in N\)を任意にとって固定し、\(\psi(n):m\in n\vee m=n\vee n\in m\)とおいて、\(n\)についての帰納法を用いる。\(\psi(n)\)は\[\psi_1(n):m \in n'\vee n\in m\]とも\[\psi_2(n):m\in n\vee n\in m'\]とも書けるので、そのつど便利なものを用いる。まず、「\('\)」の性質(2)により、\(\psi_2(\varnothing)\)の後件が成り立つ。次に、\(\psi_1(n)\)を仮定して\(\psi_2(n')\)を導く。\(m\in n'\)のとき、これは\(\psi_2(n')\)の前件にほかならない。\(n\in m\)のとき、「\('\)」の性質(4)から\(n'\in m'\)、これは\(\psi_2(n')\)の後件に当たる。■

「反対称性」「無反射性」「弱い三分性」をまとめたものが「強い三分性」(\(m\in n,m=n,n\in m\)のうち、ちょうどひとつが成り立つ)に相当する。

いっぽう、下の命題も成り立つ。

【命題】\(N\)はtransetである。
(証明)帰納法による。まず\(\varnothing\subseteq N\)である。任意の\(n\in N\)をとって\(n\subseteq N\)を仮定すると、\(n'=n\cup\{n\}\subseteq N\)となる。■

\(N\)と同様に、いくつかの性質を同時に満たすものに名前を付ける。

【定義】\(\in\)に関して、次の性質を同時に満たす集合を「順序数」と呼ぶ。
(1)無反射的な整列順序をなす、すなわち
(1-a)整礎であり、
(1-b)無反射的全順序をなす。
(2)transetである。

以上により、「\(N\)は順序数である」とまとめることができる。

各元を変えない元

集合\(S\)上に二項演算\(\cdot\)が入っている。以下\(x\cdot y\)を\(xy\)と略す。
\(x\in S\)に対し、\(xy=yx=x\)を満たす\(y\in S\)を「\(x\)を変えない元」と呼ぶことにする。ある元を変えない元は複数あるかもしれないし、存在しないかもしれない。また、ある元を変えない元が他の要素をも変えないかどうかは場合によって様々である。

「\(S\)の単位元」とは、「\(S\)のどの元をも変えない元」のことである。

【定理】\( (S,\cdot)\)の単位元は1個以下である。
(証明)\(e,f\)が共に\(S\)の単位元であるとすると、\(e=ef=f\)である。■

【定理】\( (S,\cdot)\) が可換半群であり、\(S\)のすべての要素が、自身を変えない元をそれぞれちょうど一つずつ有すならば、\(S\)は単位元を持つ。
(証明)任意の\(a,b\in S\)をとり、\(a\)を変えない唯一の元を\(\alpha\)、\(b\)を変えない唯一の元を\(\beta\)とすると、\(\alpha\)も\(\beta\)も\(ab\)を変えない(それを確かめる計算で交換律・結合律を用いる)。したがって\(\alpha=\beta\)である。■

この定理の「\(S\)は可換」という条件を外すと反例が出る。
(反例)\(S=\{a,b\}(a\neq b), (\cdot):(x,y)\mapsto x\)とすると、\(S\)は半群をなし、各元は自身を変えない唯一の元として振る舞う。

開球の内点・外点・境界点

松坂和夫『集合・位相入門』p142~p143の「例」の証明を見通しよく書き直したもの。

\(\mathbb{R}^n\)上の点\(a\)と正の実数\(\epsilon\)とに対し、\(a\)から距離が\(\epsilon\)未満の/に等しい/を超える点の集合をそれぞれ\(O_a^{<\epsilon},O_a^{=\epsilon},O_a^{>\epsilon}\)と書くことにする。\(\mathbb{R}^n\)の部分集合\(M\)に対し、\(M\)の要素\(x\)で\(\exists\epsilon>0[O_x^{<\epsilon}\subseteq M]\)を満たすものを「\(M\)の内点」と呼び、\(M\)の補集合の内点を「\(M\)の外点」、\(M\)の内点でも外点でもないものを「\(M\)の境界点」と呼ぶ。\(M\)の内点全体/外点全体/境界点全体の集合をそれぞれ\(M^i,M^e,M^f\)と書けば、\(\mathbb{R}^n=M^i\cup M^e\cup M^f\)(直和)が成り立つ。

いま、特に\(M\)として\(O_x^{<\epsilon}\)自身を考えたとき、\(M^i,M^e,M^f\)が各々\(O_a^{<\epsilon},O_a^{>\epsilon},O_a^{=\epsilon}\)に一致することは直感的には頷けるところであるが、これを証明する。\(\mathbb{R}^n=O_a^{<\epsilon}\cup O_a^{>\epsilon}\cup O_a^{=\epsilon}\)(直和)であるので、\[O_a^{<\epsilon}\subseteq M^i,\]\[O_a^{>\epsilon}\subseteq M^e,\]\[O_a^{=\epsilon}\subseteq M^f\]を示せば、逆の包含も自動的に成り立つことが分かる。
(a)\(O_a^{<\epsilon}\subseteq M^i\):
\(O_a^{<\epsilon}\)の任意の要素\(b\)をとると\(\epsilon-d(a,b)>0\)である。そこで\(O_b^{<\epsilon-d(a,b)}\)を考えると、その任意の要素\(x\)について\(d(b,x)<\epsilon-d(a,b)\)が成り立つが、これと三角不等式から\(d(a,x)\leq d(a,b)+d(b,x) < \epsilon\)すなわち\(x\in M\)である。ゆえに\(O_b^{<\epsilon-d(a,b)}\subseteq M\)であるので、\(b\)は\(M\)の内点である。
(b)\(O_a^{>\epsilon}\subseteq M^e\):
\(O_a^{>\epsilon}\)の任意の要素\(b\)をとると\(d(a,b)-\epsilon>0\)である。そこで\(O_b^{ < d(a,b)-\epsilon}\)を考えると、その任意の要素\(x\)について\(d(b,x) < d(a,b)-\epsilon\)が成り立つが、これと三角不等式から\(d(a,x)\geq d(a,b)-d(b,x) > \epsilon\)したがって\(x\notin M\)である。ゆえに\(O_b^{ < d(a,b)-\epsilon}\)は\(M\)と交わらないので、\(b\)は\(M\)の外点である。
(c)\(O_a^{=\epsilon}\subseteq M^f\):
\(O_a^{=\epsilon}\)の任意の要素\(b\)をとり、\(\epsilon'\)を任意の正の実数として\(O_b^{<\epsilon'}\)を考え、これが\(M\)および\(M\)の補集合と交わることを示す。まず、\(b\)自身が\(M\)に属していないので、\(O_b^{<\epsilon'}\)は\(M\)の補集合と交わっている。
(c-1)\(\epsilon' > \epsilon\)のとき:\(d(b,a)=\epsilon < \epsilon'\)により\(a\in O_b^{<\epsilon'}\)、したがって\(O_b^{<\epsilon'}\)は\(a\)において\(M\)と交わっている。
(c-2)\(\epsilon'\leq\epsilon\)のとき:\(c=b+(\epsilon'/2)(a-b)/\epsilon\)とおくと\(d(b,c)=\epsilon'/2 < \epsilon'\)、いっぽう\(d(a,c)=\epsilon-(\epsilon'/2) < \epsilon\)より、\(O_b^{<\epsilon'}\)と\(M\)は\(c\)を共有している。

どうしても部分積分が苦手な人のために ~積分記号なしで積分する~

(前置き)
\(f(x)\)の原始関数とは、\(f(x)=F'(x)\)を満たす\(F(x)\)のことである。例えば\[\cos x=(\sin x)'\]であるので、\(\sin x\)は\(\cos x\)の原始関数(のひとつ)である。

つまり、与えられた関数を\( (\cdots)'\)の形に押し込めてしまえば、原始関数のひとつが求まったことになる。通常はこれを\(\int\cos xdx=\sin x+C\)(\(C\)は積分定数)と書くが、分かったうえで書く分には、最初の\(\cos x=(\sin x)'\)をもって「積分しました」と主張しても構わないであろう。

(本題)
部分積分は、あえて公式として書けば\[\int f'(x)g(x)dx=f(x)g(x)-\int f(x)g'(x)\ dx\]などとなり、このような形で教科書にも載っているが、これをそのまま暗記しようとするのは得策ではない。気の利いた人なら、とりあえず\( (x) \)が何度も現れて煩雑なので\[\int (f')g\ dx=fg-\int f(g')\ dx\]と適当に略すし、\(fg\)を\(\displaystyle\int(fg)'\ dx\)と頭の中で読みかえることもできる:\[\int (f')g\ dx=\int(fg)'\ dx-\int f(g') dx\]そしてそういう人は、いちいち\(\displaystyle\int\cdots dx\)で囲まれた各項の核心を抽出して、この等式の中に\[(f')g=(fg)'-f(g')\]という骨組みを見ている。言うまでもなく、これは「積の微分」の等式を少し書き直しただけのものである。

「前置き」に述べた、「\( (\cdots)'\)の形に押し込める変形をもって『積分した』とする」流儀に従うなら、この「積の微分」の原理さえ忘れなければ見通しよく部分積分ができる。要するに、\((f')g\)という形を見たとき、これを単純に\( (fg)'\)と押し込めてしまうことができれば積分は直ちに終了するが、そんなことをしたら怒られる。そこで余分な\( f(g')\)を差し引いて帳尻を合わせるのである。こういう発想は、\( a^2+b^2=(a+b)^2-2ab\)とか、二次式の平方完成などで高校生にはお馴染みだろう。もちろん、帳尻合わせの項の積分が残っているから、いつもうまくいくとは限らない。

例1:\(\displaystyle\int(ax+b)\sin xdx=-(ax+b)\cos x+a\sin x+C\)
(計算)
\[(ax+b)\sin x=(ax+b)(-\cos x)'=[(ax+b)(-\cos x)]'-(ax+b)'(-\cos x)\]\[=[-(ax+b)\cos x]'+a\cos x=[-(ax+b)\cos x+a\sin x]'\]
(手順)
(1)\(ax+b\)か\(\sin x\)のどちらかを\( (\cdots)'\)に押し込める。どちらを選べばいいか迷う暇があったら両方試してくれ。そのうち慣れる。ここでは\(\sin x\)を\( (-\cos x)'\)に変えた。\[(ax+b)\sin x=(ax+b)(-\cos x)'\](2)「そうだったらいいのにな」と歌いながら、全体を押し込めて誤った変形をし、最後にマイナスを付ける。\[(ax+b)(-\cos x)'=[(ax+b)(-\cos x)]'-\](3)\([\cdots]'\)の微分計算、「前だけ微分+後ろだけ微分」を想像する。後ろだけ微分したら左辺になるので、前だけ微分したものを差し引けば帳尻が合う。 \[(ax+b)(-\cos x)'=[(ax+b)(-\cos x)]'-(ax+b)'(-\cos x)\](4)帳尻合わせの項の微分を実行して整理する。ついでに\([\cdots]'\)内のマイナス記号も先頭に持ってきたが、まぁそれはどうでもよい。\[=[-(ax+b)\cos x]'+a\cos x\](5)残った項が首尾よく\( (a\sin x)'\)と押し込められるので、前の項と連結する。ここは一気にやってしまおう。\[=[-(ax+b)\cos x+a\sin x]'\](6)これで完成したので、今度は検算してみる。検算はできるだけ暗算でやってみよう。第1項のうち「後ろだけ微分」のほうが元の関数に戻り、「前だけ微分」を第2項の微分が打ち消す様子を想像できるだろうか。そして、「その検算過程は、ついさっきまでやっていた計算とそっくりである」ということが実感できるだろうか。
(7)同じ計算を、今度は途中を省略してやってみよう。(2)の後にいきなり(4)か(5)あたりまで飛んでもよい。

例2:\(\displaystyle\int x\log x=\frac{x^2}{2}\log x-\frac{x^2}{4}+C\)
(計算)\[x\log x=\left(\frac{x^2}{2}\right)'\log x=\left(\frac{x^2}{2}\log x\right)'-\frac{x^2}{2}(\log x)'\]\[=\left(\frac{x^2}{2}\log x\right)'-\frac{x^2}{2}\cdot\frac{1}{x}=\left(\frac{x^2}{2}\log x\right)'-\frac{x}{2}=\left(\frac{x^2}{2}\log x-\frac{x^2}{4}\right)'\]例1と同様の手順を確認しよう。今回は\(f(g')\)でなく\( (f')g\)の形になっているが、全く同じことである。

例3:\(\displaystyle\int x^2\cos xdx=x^2\sin x+2x\cos x-2\sin x+C\)
(計算)\[x^2\cos x=x^2(\sin x)'=(x^2\sin x)'-(x^2)'\sin x=(x^2\sin x)'-2x\sin x\]\[=(x^2\sin x)'+2x(\cos x)'=(x^2\sin x+2x\cos x)'-(2x)'\cos x=(x^2\sin x+2x\cos x)'-2\cos x\]\[=(x^2\sin x+2x\cos x-2\sin x)'\]これだけの行数だが部分積分を2回行っていることに注目。慣れればもっと省略できる。検算も気持ちよくスパスパ消えていくことを体験してほしい。

例4:\(\displaystyle\int e^x\cos2xdx=\frac{1}{5}e^x(\cos2x+2\sin2x)+C\)
(計算)\[e^x\cos2x=(e^x)'\cos2x=(e^x\cos2x)'-e^x(\cos2x)'=(e^x\cos2x)'+2e^x\sin2x\]\[=(e^x\cos2x)'+(2e^x)'\sin2x=(e^x\cos2x+2e^x\sin2x)'-2e^x(\sin2x)'\]\[=(e^x\cos2x+2e^x\sin2x)'-4e^x\cos2x\]部分積分を2回行なって\(e^x\cos2x\)が再発したので、これについて解けば\[e^x\cos2x=\frac{1}{5}(e^x\cos2x+2e^x\sin2x)'=\left(\frac{1}{5}e^x(\cos2x+2\sin2x)\right)'\]を得る。

普段から原理を理解したうえで部分積分を行なっていれば、通常の積分記号を用いた計算と何ら変わりのないことをやっているだけだということが分かるはずである。