ワイエルシュトラスの公理

実数の完備性を定義する流儀のひとつであるワイエルシュトラスの公理は、「上界を持ち空でない任意の集合が上限を持つ」と書かれるが、これは上下を入れ替えて「下界を持ち空でない任意の集合が下限を持つ」と書いても同値である。この同値性を証明する過程は、上界・下界や上限・下限の定義を確認するのに好適な題材である。

\(X\)の下界全体の集合を\(L(X)\)と書くことにする。

補題:\(L(X)\)が上限\(a\)を持つならば、\(a\)は\(X\)の下限である。

\(x\)が\(X\)の要素であると仮定する。\(L(X)\)の定義から、その任意の要素\(l\)に対し\(l\leq x\)であるので、\(x\)は\(L(X)\)の上界のひとつである。いま\(a\)は\(L(X)\)の上限すなわち最小上界であるから\(a\leq x\)である。

以上から\(a\)は\(X\)の下界のひとつであり、\(L(X)\)に属する。もとより\(a\)は\(L(X)\)の上界のひとつだったから、\(a\)は\(L(X)\)の最大元となる。これは\(a\)が\(X\)の最大下界すなわち下限であることを意味する。■

定理:「(*)上界を持ち空でない任意の集合が上限を持つ」⇒「下界を持ち空でない任意の集合が下限を持つ」

\(X\)は下界を持ち空でない集合であると仮定し、(*)のもとで\(X\)が下限を持つことを導く。

\(X\)が下界を持つことから\(L(X)\)は空集合でなく、また\(X(\neq \emptyset)\)の要素は\(L(X)\)の上界となるから\(L(X)\)は上界を持つ。したがって(*)から\(L(X)\)は上限を持つ。すると補題からそれは\(X\)の下限でもある。■

以上の議論の上下を入れ替えれば、全く同様にして「定理」の逆も言える。