デデキントの切断公理からワイエルシュトラスの公理を導く

【注意】より一般的な議論を http://y-bonten.hatenablog.com/entry/2015/05/19/030805 で行っているため、このエントリは意義が薄くなっています。

稠密全順序集合に対して、デデキントの切断公理
「任意の切断に対して、その補集合が最小元を持つ」
から、ワイエルシュトラスの公理
「空でなく上界を持つ任意の集合が上限を持つ」
を導く。
ここで「切断」という語を用いる際には、上組や下組が空集合となることを許さず、下組が最大元を持つことを許さないという制限のもと、下組のほうを「切断」と呼ぶ流儀をとる。正確に言えば、稠密な全順序集合\(S\)の部分集合\(L\)で
(i)\(\forall x\in L\ \forall y\in S[y\leq x\rightarrow y\in L]\)(下組の任意要素<上組の任意要素)
(ii)\(\forall x\in L\ \exists z[z\in L\wedge x < z]\)(下組は最大元を持たない)
(iii)\(\emptyset\subsetneq L\subsetneq S\)
を満たすものを「\(S\)の切断」と呼ぶ。

両公理とも\(\bf R\)について述べた公理であるが、これらはあくまで\(\bf R\)の完備性という側面を特徴づけているだけであることに注意が必要である。この公理を満たすだけでよいなら、例えば\([0,1]\)区間の実数など、\(\bf R\)以外にもモデルが存在する。ところが、一方から他方を導く証明が書かれる際には、通常は\(\bf R\)にしか関心がないため、\(\bf R\)の順序体としての性質を適宜用いることが多い。ここでは稠密全順序一般について公理から公理に渡れることを納得したいので、他の性質は使わないように証明してみる。また、証明の中でデデキントの切断公理を用いるのをできるだけ遅くし、どこまでが稠密全順序(\({\bf Q}\)はそのひとつ)一般に成り立つ事柄であるのかを明瞭にする。

【証明】稠密な全順序集合\(S\)と、その部分集合で空でなく上界を持つもの\(A\)に対し、\(A\)の上界でないものの集合\(\{x\in S|\exists a\in A[x < a]\}\)を\(NUB(A)\)とする。\(S\)がデデキントの切断公理を満たすとき、\(S-NUB(A)\)が最小元を持つことを示せばよい。

\(x\in NUB(A)\)と仮定する。\(NUB(A)\)の定義から\(x < a\)を満たす\(a\in A\)がとれる。\(y\leq x\)を満たす任意の\(y\in S\)について、\(y(\leq x)< a\)から\(y\in NUB(A)\)である。ゆえに\(NUB(A)\)は切断の性質(i)を満たす。また\(S\)の稠密性から、\(x < z < a\)を満たす\(z\in S\)をとることができ、\(z\in NUB(A)\)である。ゆえに\(NUB(A)\)は(ii)も満たす。

\(A\)が上界を持つことから\(NUB(A)\neq S\)である。
\(NUB(A)\neq\emptyset\)のとき、\(NUB(A)\)は(iii)を満たすので、\(NUB(A)\)は\(S\)の切断をなすことが分かる。したがって\(S\)がデデキントの切断公理を満たすならば\(S-NUB(A)\)は最小元を持つ。
\(NUB(A)=\emptyset\)のときは、\(S\)の任意の要素\(s\)が\(A\)の上界になっているという状況にほかならない。いま\(A(\neq\emptyset)\)の要素\(a\)をひとつとると\(a\leq s\)である。すなわち、\(NUB(A)=\emptyset\)となるのは\(S\)が最小元\(a\)を持ち\(A=\{a\}\)である場合に限られ、このとき\(S-NUB(A)(=S)\)は最小元を持つ。■