順序体の定義

順序体の定義のいくつかの流儀が互いに同値であることを示す。

§1.正錐による定義

「体\(F\)は順序体をなす」とは、以下の条件をすべて満たすような\(P\subset F\)が存在することを言う。

(1)\(\forall x,y\in P[x+y\in P]\)
(2)\(\forall x,y\in P[xy\in P]\)
(3)\(\forall z\in F[z\in P\vee -z\in P]\)(\(0=-0\)から、これは\(0\in P\)を含意する。)

(4)\(-1\notin P\)
(5)\(\forall z\in F[z^2\in P]\)

上の条件のうち、実は(5)は(2)(3)から導ける。あえて(5)を立てたのは、上記のうち(3)だけを満たさないものが議論されることもあるためである。

(証明)任意の\(z\in F\)に対し、(3)から\(z\)か\(-z\)の少なくとも一方は\(P\)に属す。いずれにせよ\(z^2=zz=(-z)(-z)\)は(2)から\(P\)に属す。■

次に、(2)(3)のもとで、(4)は
(4')\(\forall z\in F[(z\in P\wedge-z\in P)\rightarrow z=0]\)
と同値であることを示す。以下では(2)(3)から導かれた(5)も活用する。

(証明)(4)⇒(4'):\(F\)の要素\(z\)が\(z\in P\)かつ\(-z\in P\)かつ\(z\neq 0\)を満たすと仮定すると矛盾することを示す。(5)から\((1/z)^2\in P\)、さらに(2)を繰り返し適用すれば\((-z)z(1/z)^2\in P\)が言える。しかしこれを計算すると\(-1\)となり(4)に矛盾する。■
(4')⇒(4):(5)から\(1=1^2\in P\)、これと(4')から\(-1\notin P\)である。■

以上により、体\(F\)が順序体をなすための条件は(1)かつ(2)かつ(3)かつ(4')としてもよい。(3)かつ(4')をまとめれば、これは「任意の\(z\in F\)に対して、\(\{z,-z\}\)の要素のうち正確にひとつが\(P\)の要素となっている」という条件である。

なお、\(P\)に対して\(-P=\{x\in F|\exists t\in P[x=-t]\}\)という集合を考えれば、\(-z\in P\Leftrightarrow z\in -P\)であることが示される。これを用いると(3)は\(F=P\cup(-P)\)、(4')は\(P\cap(-P)=\{0\}\)と書ける。

§2. 体の演算と両立する(同期する)順序による定義

「体\(F\)は順序体をなす」とは、以下の条件をすべて満たすような全順序関係\(\leq\)が存在することを言う。
(ア)\(\forall a,b,c\in F[a\leq b\rightarrow a+c\leq b+c]\)
(イ)\(\forall a,b,c\in F[a\leq b\wedge 0\leq c\rightarrow ac\leq bc]\)

\(P=\{x\in F|0\leq x\}\)と置けば、\(P\)は§1の定義における条件をすべて満たす。
(証明)(1)(2):\(0\leq x\)かつ\(0\leq y\)と仮定し、(ア)(イ)の\(a,b,c\)として\(0,x,y\)を選ぶと\(y\leq x+y\)および\(0\leq xy\)が言える。前者と\(0\leq y\)および順序関係の推移性から(1)が、また後者からただちに(2)が導かれる。■
(3):全順序関係の比較可能性から、任意の\(z\in F\)に対して\(0\leq z\)または\(z\leq 0\)である。(ア)を用いて後者の両辺に\(-z\)を加えると\(0\leq -z\)である。■
(4'):\(z\in F\)が\(0\leq z\)および\(0\leq -z\)を満たすと仮定する。(ア)によって後者の両辺に\(z\)を加えると\(z\leq 0\)となる。すると順序関係の反対称性から\(z=0\)である。■

逆に、§1で定義した\(P\)に対し、2項関係\(\leq\)を\(x\leq y\Leftrightarrow y-x\in P\)で定義すれば、この関係は(ア)(イ)を満たす全順序関係をなす。
(証明)反射性:(3)から\(x-x=0\in P\)である。■
反対称性:\(y-x\in P\)かつ\(x-y\in P\)と仮定すると、後者は\(-(y-x)\in P\)と書き直せるから、(4')により\(x-y=0\)、したがって\(x=y\)である。■
推移性:\(y-x\in P\)かつ\(z-y\in P\)と仮定すると、(1)から\(z-x=(z-y)+(y-x)\in P\)である。■
比較可能性:任意の\(x,y\in F\)に対し、(3)から\(y-x\in P\)と\(-(y-x)\in P\)の少なくとも一方が成り立つ。後者は\(x-y\in P\)である。■
(ア):\(b-a\in P\)と仮定すると、\((b+c)-(a+c)=b-a\in P\)である。■
(イ):\(b-a\in P\)かつ\(c-0\in P\)と仮定すると、(2)から\(bc-ac=(b-a)c\in P\)である。■