分離集合による連結性の定義(2)

前エントリに引き続き、今度は位相空間の部分集合が「連結でない」ことを定義しよう。
【定義】位相空間\(Y\)とその部分集合\(X\)について、\(X\)を\(Y\)の部分空間と見たときに\(X\)が連結でないことを、「\(X\)は\(Y\)において連結でない」という。

この定義のままでは、(0)~(3)版なら(3)に「\(X\)の開集合」、(0)(1)(4)版なら(4)に「\({\rm Cl}_X\)」すなわち「\(X\)における閉包」という概念が残っている。これを\(Y\)における概念に置き換えて同値な命題に書き直すことができれば、部分空間を意識しない定義も可能となる。よく知られているように、(0)~(3)による定義は次のように書き換えられる:「
(0)\(X\cap P\neq\varnothing,X\cap Q\neq\varnothing\)
(1)\(P\cup Q\supset X\)
(2)\(X\cap P\cap Q=\varnothing\)
(3)\(P,Q\)は\(Y\)の開集合
をすべて満たす\(P,Q\)が存在する」。これが部分空間による定義と同値であることの証明は教科書に載っているので省略するが、ここでは\(X\)の開集合が(そのままでは)\(Y\)の開集合になるとは限らないこと、一方で部分空間の定義から、\(Y\)の開集合と\(X\)の共通部分は\(X\)の開集合になることを注意しておく。

これに対し(0)(1)(4)版ではもう少し単純な書き換えが可能で、「
(0)\(A\neq\varnothing,B\neq\varnothing\)
(1)\(A\cup B=X\)
(4)\(A\cap{\rm Cl}_Y(B)=\varnothing\)かつ\({\rm Cl}_Y(A)\cap B=\varnothing\)
をすべて満たす\(A,B\)が存在する」とするだけで良いのである。なぜなら、次が成り立つからである:

【定理1】位相空間\(Y\)とその部分空間\(X\)において、\(X\)の部分集合\(A,B\)が\(X\)で分離していることと\(Y\)で分離していることとは同値である。

同じ集合でも、どの位相空間で考えるかによって閉包は一般には異なる。したがって、分離関係の成否が位相空間に関わらず保たれることは全く自明ではない。定理1を証明するには、そもそも閉包というものが部分空間でどのように変わるのかについて理解を深めねばならない。これを考えるために、下のような問題を設定する。

【問題】\(Y\)の部分集合\(C\)(\(C\subset X\)とは限らない)の閉包を単純に\(X\)で切り出せば、\(X\cap C\)の\(X\)における閉包に等しくなるのか?すなわち、\[{\rm Cl}_X(X\cap C)=X\cap{\rm Cl}_Y(C)\]は成り立つか?

これには反例がある。\(\bf R\)の標準位相において、\(C=\{x|x < -1\vee1 < x\}\)の閉包は\(\{x|x\leq-1\vee1\leq x\}\)であり、\(-1\)と\(1\)は境界点である。しかし部分空間\(X=\{x|-1\leq x\}\)で考えると、\(-1\)は\(X\)に属すにも関わらず\(X\cap C=\{x|1 < x\}\)の境界点ではなくなり、\(X\cap C\)の閉包は\(\{x|1\leq x\}\)となる。この例では\({\rm Cl}_X(X\cap C)\subsetneq X\cap{\rm Cl}_Y(C)\)となっている。

上の問題に対する答えとして、次の定理がある。

【定理2】位相空間\(Y\)とその部分空間\(X\)において、任意の\(C\subset Y\)について\({\rm Cl}_X(X\cap C)\subset X\cap{\rm Cl}_Y(C)\)である。さらに\(C\subset X\)のときは\({\rm Cl}_X(X\cap C)\big(={\rm Cl}_X(C)\big)=X\cap{\rm Cl}_Y(C)\)である。

この定理は「部分空間における閉包は『単純に切り出したもの』に比べて(上の例のように)狭くなることはあっても広くなることはない」ということを、さらに「\(C\subset X\)の場合には『単純に切り出す』だけでよい」ことを主張している。

(証明)\({\rm Cl}_Y(C)\)が\(Y\)の閉集合であることと\(X\)が\(Y\)の部分空間であることから、\(X\cap{\rm Cl}_Y(C)\)は\(X\)の閉集合である。\(C\subset{\rm Cl}_Y(C)\)から\(X\cap C\subset X\cap{\rm Cl}_Y(C)\)、この両辺の\(X\)における閉包を取ると、右辺は閉集合ゆえ変わらず、\({\rm Cl}_X(X\cap C)\subset X\cap{\rm Cl}_Y(C)\)を得る。■
さらに\(C\subset X\)という仮定を追加して、上に示した包含関係の逆向き、すなわち\({\rm Cl}_X(C)\supset X\cap {\rm Cl}_Y(C)\)を示す。\({\rm Cl}_X(C)\)は\(X\)の閉集合だから、\(X\cap F\)(ただし\(F\)は\(Y\)の閉集合)と表すことができる。すると\(C\subset{\rm Cl}_X(C)=X\cap F\subset F\)となるが、この最左辺と最右辺の\(Y\)における閉包をとると、最右辺は閉集合ゆえ変わらず、\({\rm Cl}_Y(C)\subset F\)、したがって\(X\cap{\rm Cl}_Y(C)\subset X\cap F={\rm Cl}_X(C)\)である。■

定理2により定理1を証明して議論を終える。
(証明)\(A,B\subset X\)と仮定する。定理2の後半から、\(A\cap{\rm Cl}_X(B)=A\cap(X\cap{\rm Cl}_Y(B))=(A\cap X)\cap{\rm Cl}_Y(B)=A\cap{\rm Cl}_Y(B)\)、同様に\({\rm Cl}_X(A)\cap B={\rm Cl}_Y(A)\cap B\)である。■