選択公理からZornの補題を導く

前エントリでも参照した縫田さんによる証明をもとに自分なりに書き直したもの。途中で一か所、超限帰納法を使っているが、これは最小原理を用いて書き直すことができる。

\( (X, < )\)を任意の空でない半順序集合とする。

\(X\)の元\(x\)と\(X\)の鎖\(C\)について、「\(x\notin C\)かつ\(x\)は\(X\)における\(C\)の上界である」、あるいは同じことであるが「任意の\(c\in C\)について\(c < x\)が成り立つ」ことを「\(x\)は\(C\)の外部上界である」と言うことにする。鎖\(C\)のすべての外部上界の集合を\(U_C\)と表す。特に\(U_\varnothing=X\)である。

鎖\(C\)が外部上界を持たないとき、\(C\)は上界を全く持たないか、または自身のうちに唯一の上界\(m\)を(最大元として)持っている。後者のとき\(m\)は\(X\)の極大元となる。そこで、このような「外部上界を持たない鎖」を選択公理のもとで構成すれば、Zorn補題が導かれたことになる。

\(X\)の鎖で外部上界を持つもの全体の集合\(\mathcal K\)の元\(K_1,K_2\)に対し、同値関係\(K_1\sim K_2\)を「\(U_{K_1}=U_{K_2}(\neq\varnothing)\)が成り立つ」と定める。選択公理のもとで、\(\mathcal K\)を\(\sim\)で割った同値類の各々に対し、その代表元の外部上界から元を一つ選ぶ関数\(f\)をとることができる。以下では\(f([K]_\sim)\)を単に\(f(K)\)と記す。

\(X\)の部分集合であるような整列集合\(W\)とその元\(w\)に対し、\(\{x|x\in W\wedge x < w\}\)を「\(W\)の\(w\)による始切片」と呼び、\(s_{W}(w)\)で表す。これは\(w\)を外部上界とする鎖になるので\(\mathcal K\)に属す。\(W'\)が\(W\)の始切片であるか、または\(W'=W\)であるとき、「\(W'\)は\(W\)の広義切片である」と呼ぶことにする。

\(X\)の部分集合\(A\)に対し、「\(A\)は\(f\)継続的である」とは、「\( (A, < )\)は整列集合であり、かつ任意の\(a\in A\)に対し\(a=f(s_A(a))\)が成り立つ」ことと定める。整列集合の最小元による始切片は空集合となるから、\(f\)継続的集合は\(f(\varnothing)\)を最小元として持つ。

すべての\(f\)継続的な集合の和集合を\(G\)とすれば、実はこれが所望していた「外部上界を持たない鎖」となるのである。これを示すには、\(G\)自身が\(f\)継続的であることを示せばよい。なぜなら、もし\(G\)が\(f\)継続的でしかも外部上界を持つならば、\(G\)に\(f(G)\notin G\)を付け加えた集合も\(f\)継続的となってしまい、\(G\)の定義に反するからである。そこで、\(f\)継続的な集合の性質として、次の補題を示しておく。

補題ア】\(F_1, F_2\)がともに\(f\)継続的であるとき、(1)\(F_1=F_2\)、(2)\(F_2\)は\(F_1\)の始切片である、(3)\(F_1\)は\(F_2\)の始切片である、のいずれかが成り立つ。

【証明】\(F_1\cap F_2\)が、(A)\(F_1\)と\(F_2\)の両方の広義切片となること、および(B)両方に対して同時に(真の)始切片にはなり得ないことを示せばよい。

(A)\(F_1\cap F_2\)が\(F_1\)の広義切片となることを示すが、\(F_2\)についても同様である。\(x\in F_1\cap F_2\)と仮定し、\(s_{F_1}(x)\subseteq F_1\cap F_2\)(つまり\(s_{F_1}(x)\subseteq F_2\))を導けばよい。超限帰納法を用いて、\(y\in s_{F_1}(x)\)かつ\(s_{F_1}(y)\subseteq F_2\)と仮定し、\(y\in F_2\)を導く。\(y\in s_{F_1}(x)\)から\(y < x\)ゆえ、\(x\in F_2\)は\(s_{F_1}(y)\)の外部上界であり、したがって\(F_2\cap U_{s_{F_1}(y)}\)は空でないから、この集合は最小元\(z\)を持つ。以下、この\(z\in F_2\)が\(y\)に等しいことを示すことにより\(y\in F_2\)を導く。\(z\)の定義と\(s_{F_1}(y)\subseteq F_2\)から\(s_{F_1}(y)\subseteq s_{F_2}(z)\)、したがって\(U_{s_{F_1}(y)}\supseteq U_{s_{F_2}(z)}\)である。逆の包含\(U_{s_{F_1}(y)}\subseteq U_{s_{F_2}(z)}\)も以下のごとく成り立つ。\(z\)の最小性から\(s_{F_2}(z)\)は\(s_{F_1}(y)\)の外部上界を要素に持たない。それゆえ、任意の\(c\in s_{F_2}(z)\)について\(d\geq c\)なる\(d \in s_{F_1}(y)\)がそのつど存在する。すると\(s_{F_1}(y)\)の任意の外部上界\(v( > d)\)は\(v > c\)かつ\(w\notin s_{F_2}(z)\)を満たすから、\(s_{F_2}(z)\)の外部上界でもある。以上により\(U_{s_{F_1}(y)}=U_{s_{F_2}(z)}(\neq\varnothing)\)すなわち\(s_{F_1}(y)\sim s_{F_2}(z)\)であるから\(f(s_{F_1}(y))=f(s_{F_2}(z))\)となる。すると\(F_1,F_2\)の\(f\)継続性から\(y=z\)である。

(B)\(F_1\cap F_2\)が\(F_1\)の始切片であると仮定し、これが\(F_2\)の始切片でないことを導く。\(F_1\cap F_2=s_{F_1}(x_1)\)とおくと、\(F_1\)の\(f\)継続性から\(f(F_1\cap F_2)=x_1\in F_1\)、ところが\(f(F_1\cap F_2)\notin F_1\cap F_2\)だから\(f(F_1\cap F_2)\notin F_2\)である。すると\(F_2\)の\(f\)継続性から、\(F_1\cap F_2\)は\(F_2\)の始切片ではない。■

この補題アから、\(G\)に関する次の補題が得られる。

補題イ】任意の\(g\in G\)と、\(g\)を要素に持つ任意の\(f\)継続的集合\(F_1\)について、\(G\)の要素で\(g\)より小さいものは全て\(F_1\)に属す。
(証明)\(h\in G\)かつ\(h < g\)と仮定する。\(h\in F_2\)なる\(f\)継続的集合\(F_2\)がとれるが、補題アの(1)または(2)のときは\(F_2\subseteq F_1\)から\(h\in F_1\)となる。(3)のときは\(d\in F_2\)を用いて\(F_1=s_{F_2}(d)\)と書くことができ、\(g\in F_1\)から\(g < d\)である。すると\(h < g < d\)であるので\(h\in s_{F_2}(d)\)すなわち\(h\in F_1\)を得る。■

補題ア・イを用いて次の定理を示し、証明を完成する。
【定理】\(G\)は\(f\)継続的である。
(証明)(A)\(G\)は整列集合であること:まず\(G\)は\(X\)の鎖であることを示す。任意の\(x,y\in G\)について、\(x\in F_1, y\in F_2\)なる\(f\)継続的集合\(F_1,F_2\)が存在し、補題アから\(F_1,F_2\)の少なくとも一方は他方を包含する。したがって\(x,y\)は同一の鎖に属すから比較可能である。
次に、\(G\)の任意の空でない部分集合\(B\)が最小元を持つことを示す。\(B\)の元\(b\)をひとつとり、\(b\in G\)を要素に持つ\(f\)継続的集合のひとつを\(F\)とする。すると\(F\cap B\)は空でないから最小元\(b_0\)を持つ。この\(b_0\in B\)が\(B\)の最小元でもあることを示す。鎖\(G\)の部分集合である\(B\)も鎖なので、\(B\)が\(b_0\)よりも小さい元を排除できていればよい。そこで、\(h < b_0\)なる任意の\(h\in X\)をとり、\(h\notin B\)を示す。\(h\notin G\)のとき、ただちに\(h\notin B\)を得る。\(h\in G\)のときは補題イにより\(h\in F\)であるが、いっぽう\(b_0\)の最小性から\(h\notin F\cap B\)、したがって\(h\notin B\)である。
(B)任意の\(a\in G\)に対し\(a=f(s_G(a))\)が成り立つこと:\(a\)の属す\(f\)継続的集合\(F\)をとると、補題イにより\(s_G(a)\subseteq s_F(a)\)である。この逆の包含も\(F\subseteq G\)から成り立つので\(s_G(a)=s_F(a)\)であり、したがって\(f(s_G(a))=f(s_F(a))\)である。すると\(F\)の\(f\)継続性から右辺は\(a\)に等しい。■