清水明『新編量子論の基礎』、エルミート共役に関する等式の導出

清水明『新編量子論の基礎』3.5節(第7版p41~p42)における、エルミート共役に関する等式の導出が少し理解しづらかったため、自分で書き直してみた。

エルミート共役の定義に直接かかわる(3.42)式を根幹に置いて、種々の等式を導出する。記号の混乱を避けるために、\(A\)を\(X\)と書き換えておく。\[\langle\psi|X\psi'\rangle=\langle X^\dagger\psi|\psi'
\rangle\tag{*}\]
・(3.44)式の導出:\(\langle\psi|A\psi'\rangle+\langle\psi|B\psi'\rangle\)を、二通りの方法で変形する。
まず内積の双線形性を用いてから(*)を用いると\[\langle\psi|A\psi'\rangle+\langle\psi|B\psi'\rangle=\langle\psi|(A+B)\psi'\rangle=\langle(A+B)^\dagger\psi|\psi'\rangle\]操作の順番を逆転させて変形すると\[\langle\psi|A\psi'\rangle+\langle\psi|B\psi'\rangle=\langle A^\dagger\psi|\psi'\rangle+\langle B^\dagger\psi|\psi'\rangle=\langle(A^\dagger+B^\dagger)\psi|\psi'\rangle\]両者を見比べることにより\[(A+B)^\dagger=A^\dagger+B^\dagger\]を得る。

注:この段落は誤っています。
教科書には「演算子の線形性と内積の性質から明らかに」とある。後者は上述の「内積の双線形性」を指しているのであろうが、前者は誤解しないように注意する必要がある。\(A+B\)というのは「\(|\psi\rangle\in\mathcal{H}\)に\(A|\psi\rangle+B|\psi\rangle\)を対応させる写像」を意味する記号であり、線形性のおかげで\((A+B)|\psi\rangle=A|\psi\rangle+B|\psi\rangle\)となるわけではない。上の計算における\(|(A+B)\psi'\rangle\)も、\(|A\psi'+B\psi'\rangle\)の略記に過ぎない。ただし、そのあとで(*)を適用するためには「\(A+B\)もまた演算子(線形写像)である」ということを暗に用いている。これを言うためには\(A,B\)の線形性にまで遡る必要がある。注:ここまで

・(3.46)式の導出:\(c\langle\psi|A\psi'\rangle\)を、二通りの方法で変形する。
まず\(c\)を\(A\)の近くに移してから(*)を用いると\[c\langle\psi|A\psi'\rangle=\langle\psi|cA\psi'\rangle=\langle(cA)^\dagger\psi|\psi'\rangle\]操作の順番を逆転させて変形すると\[c\langle\psi|A\psi'\rangle=c\langle A^\dagger\psi|\psi'\rangle=\langle c^*A^\dagger\psi|\psi'\rangle\]両者を見比べることにより\[(cA)^\dagger=c^*A^\dagger\]を得る。

・(3.45)・(3.48)・(3.47)式の導出:(*)の\(X\)として\(A\)を選んで複素共役をとると\[\langle A\psi'|\psi\rangle=\langle\psi'|A^\dagger\psi\rangle\]いま左辺も右辺も計算済のものを書いたが(計算といっても内積の前後をひっくり返すだけである)、右辺だけ計算したものが(3.45)式である。また、この等式は(3.48)式とも同等である。よく見ると\(\psi\)と\(\psi'\)が逆であるが、頭に「任意の\(|\psi\rangle,|\psi'\rangle\)について」と付いているので、どのみち同じことなのである。
(*)の\(X\)として\(A^\dagger\)を選び、右辺に適用すると\(\langle(A^\dagger)^\dagger\psi'|\psi\rangle\)と変形できる(ここでも、\(\psi\)と\(\psi'\)が逆になっているが気にしなくてよい)。これと左辺を見比べることにより、(3.47)式\[A=(A^\dagger)^\dagger\]を得る。