区間縮小法の原理が成立するが、Cantorの共通部分定理が成立しない例

「幅がゼロに収束する閉区間の列のすべてに属す要素は高々1個であること」は、任意の順序体について成り立つ。したがって、Cantorの共通部分定理から区間縮小法の原理を導くことができる。では逆に、区間縮小法の原理からCantorの共通部分定理を導くことはできるだろうか?これは順序体にアルキメデス性を仮定すれば可能であるが、非アルキメデス的順序体のなかには反例が存在する。以下ではその一つである「形式的ローラン級数のなす順序体」について検討する。

\(K\)を順序体とする。\(K\)上の形式的ローラン級数\(K( (X))\)とは、\(K\)上の形式的冪級数に、有限個の負次数の項をも許したものである。すなわち、\(\displaystyle\sum_{j=-\infty}^{\infty}\alpha_jX^j\)(\(\alpha_j\in K\))と書かれる級数のうち、\(j < 0\)に対する\(\alpha_j\)が有限個を除いて\(0\)となっているものを言う。これは通常の多項式と同様の演算により体をなす。\(0\)を除く個々の級数に対し\(\alpha_j\neq0\)なる最小の\(j\)(すなわち最低次数)が必ず存在することに注意して、\(x,y\in K( (X))\)(ただし\(x\neq y\))に対し、\(x < y\)を「\(y-x\)の最低次の項の係数が正」と定義すれば、これは順序体をなす。以上についての証明は省略する。

(1)\(K( (X))\)においては区間縮小法の原理が成立する。
(証明)\(K( (X))\)の閉区間縮小列\([a_n,b_n]\)(\(n\in\mathbb{N}\))が\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}(b_n-a_n)=0\)を満たすと仮定し、すべての区間に属す要素を、以下のように構成する。

\(a_0=b_0=0\)のときは、すべての区間が一点集合\(\{0\}\)となる。
\(a_0,b_0\)の一方のみが\(0\)のときは他方の最低次数を\(q\)とし、どちらも\(0\)でないときは両者の最低次数の最小値を\(q\)とする。\(K( (X))\)の要素で次数\(q\)未満の項を持つものは、その最低次の項の係数の正負により、\(b_0\)より大きいか、\(a_0\)より小さいものとなる。したがって\(a_n,b_n\)の中には、次数\(q\)未満の項を持つものはひとつも存在しないことを注意しておく。

\(q\)以上の各整数\(j\)に対し、区間幅の収束性から、\(b_{m(j)}-a_{m(j)} < X^{j+1}\)を満たす\(m(j)\)をとることができる。\(a_{m(j)}\)と\(b_{m(j)}\)における\(j\)次の係数は等しくなるので、この共通の係数を\(\gamma_j\)とおき、\(c=\displaystyle\sum_{j=q}^{\infty}\gamma_j X^j\)とする。

以下ではこの\(c\)がすべての区間\([a_n,b_n]\)に属すことを示すが、そのために\(c\)に対する\(a_n,b_n\)の振る舞いを調べておく。

\(m(q)\)以降の\(n\)に対し、\(a_n\)の\(q\)次の係数はすべて\(\gamma_q\)である。実際、係数が\(\gamma_q\)より大きくなれば\(a_n > b_{m(q)}\)となるし、小さくなれば\(a_n < a_{m(q)}\)となって、いずれも区間の縮小性に反する。さらに\(m(q)\)以降かつ\(m(q+1)\)以降の\(n\)に対し、\(a_n\)の\(q+1\)次の係数はすべて\(\gamma_{q+1}\)であることが分かる。これを繰り返すことにより、\(q\)以上の任意の整数\(k\)の各々について、じゅうぶん大きな\(n\)をとれば、\(a_n\)の\(k\)次以下の係数をすべて\(c\)に一致させることができる。\(b_n\)についても同様である。

\(c < a_u\)なる\(u\in\mathbb{N}\)が存在すると仮定し、矛盾を導く。数列\(a_n\)は単調増加であるから、\(v\geq u\)なる任意の\(v\in\mathbb{N}\)に対し、\(a_v-c\geq a_u-c > 0\)である。いま\(a_u - c\)の最低次数を\(k(\geq q)\)とすると、\(a_v\)と\(c\)の\(k\)次以下の係数がすべて等しくなることは不可能となるが、これは前段落で調べたことと矛盾する。\(b_u < c\)なる\(u\in\mathbb{N}\)が存在すると仮定しても同様に矛盾が生じるので、\(c\)は全ての区間\([a_n,b_n]\)に属している。■

(2)\(K\)がアルキメデス的順序体であるとき、\(K( (X))\)においてCantorの共通部分定理は成立しない。
(証明)\(K( (X))\)の閉区間縮小列として\([n, (1/n)X^{-1}]\)(\(n=1,2,3,\ldots\))をとると、すべての区間に属す要素は存在しないことが容易に分かる。■