Heine-Borelの定理(改)

齋藤正彦『数学の基礎』p64、第2章§5の問題6、a)⇒f)の証明(p251)に冗長さを感じたので、自分で証明を書いてみた。同じ目的で以前に http://y-bonten.hatenablog.com/entry/2014/09/05/045328 を書いたのだが、これも煩雑であったので改良した。

\(\bf R\)についてのHeine-Borelの被覆定理、すなわち「閉区間の任意の開被覆は有限部分被覆を持つ」を、Weierstrassの上限公理から導く。

(証明)≪注意≫以下では区間の右端は左端より大きいとは限らないとする。例えば\([\alpha,\beta]\)とは\(\{x\in{\bf R}\mid \alpha\leq x\leq\beta\}\)の略記であり、\(\alpha=\beta\)のときは一点集合に、\(\alpha > \beta\)のときは空集合になる。また\(\{x\in{\bf R}\mid x < \beta\}\)を\( (\leftarrow,\beta)\)と書く。

\([a,b]\)を\(\bf R\)の閉区間とし、\(\mathcal U\)をその開被覆とする。\([a,x]\)が\(\mathcal U\)の有限個の要素で覆えるような\(x\)の集合を\(Y\)とし、\(b\in Y\)を示す。

\(a > b\)のときは\([a,b]=\varnothing\)なので\(b\in Y\)である。以下では\(a\leq b\)としておく。\(a\in[a,b]\)より、\(\mathcal U\)には\(a\)を要素に持つ開区間が少なくともひとつ存在し、そのひとつだけで\([a,a]\)を覆えるから\(a\in Y\)である。さらに\(Y_{\leq b}=Y\cap(\leftarrow,b]\)とおけば\(a\in Y_{\leq b}\)であり、したがって\(Y_{\leq b}\)は空でなく、また上界\(b\)を持つから、Weierstrassの上限公理により上限\(c\)を持つ。

\(Y_{\leq b}\)は下に閉なる集合だから、\(c\)より小さいものはすべて\(Y_{\leq b}\)に属し、したがって\( (\leftarrow,c)\subset Y\)である。いっぽう\(c\)より大きいものは\(Y_{\leq b}\)に属さないから、\(Y\cap(c,b]=\varnothing\)である。

\(c\)が\(Y_{\leq b}\)の上界であることから\(a\leq c\)、また最小上界であることから\(c\leq b\)なので\(c\in[a,b]\)であり、それゆえ\(c\in V\in {\mathcal U}\)を満たす\(V\)が存在する。\(\bf R\)の開区間は最小元・最大元を持たないから、\(u < c < e\)なる\(u,e\in V\)をとることができる。\((\leftarrow,c)\subset Y\)から\(u\in Y\)、すると\([a,u]\)の有限被覆に\(V\)を付け加えれば\([a,e]\)を覆うので\(e\in Y\)である。これと\( (c,b]\cap Y=\varnothing\)から\(b < e\)を得るが、\(Y\)は下に閉なので\(b\in Y\)である。■

追記:上の証明の「\(\bf R\)の開区間は最小元・最大元を持たないから」以降は一般の全順序(\(S\)とする)においては通用しない。これを修正したものを示す。なお、以下で行っている場合分けは、「全順序\(S\)の開区間が最小元(最大元)\(c\)を持つときには、それが\(S\)の最小元(最大元)になっているか、さもなくば\(c\)の左隣(右隣)の元が存在する」という補題に基づいている。この補題の証明は完備全順序における開区間は基本開区間である - y_bonten's blogを参照。

\(V\subset Y\)を示すため、任意の\(v\in V\)をとり\(v\in Y\)を導く。
(1)\(c\)が\(V\)の最小元であるとき:
・(1a)\(c\)が\(S\)の最小元でもあるとき:\([a,v]=[c,v]\)は\(V\)ひとつで被覆される。
・(1b)\(c\)の左隣の元\(c^-\in S\)が存在するとき:\(c^-\in(\leftarrow,c)\subset Y\)から、\([a,c^-]\)の有限被覆に\(V\)を付け加えれば\([a,v]\)が覆われる。
(2)\(c\)が\(V\)の最小元でないとき:\(u < c\)なる\(u\in V\)をとることができる。\(u\in(\leftarrow,c)\subset Y\)から、\([a,u]\)の有限被覆に\(V\)を付け加えれば\([a,v]\)が覆われる。
以上により、いずれの場合においても\(v\in Y\)である。

\(V\subset Y\)と\(Y\)が下に閉であることを用い、\(b\leq v\)なる\(v\in V\)が存在することを言えば\(b\in Y\)が導かれる。

(1)\(c\)が\(V\)の最大元であるとき:
・(1a)\(c\)が\(S\)の最大元でもあるとき:\(b\leq c\)である。
・(1b)\(c\)の右隣の元\(c^+\in S\)が存在するとき:\(b\leq c\)または\(c^+\leq b\)であるが、後者においては\(c^+\in[a,b]\)ゆえ\(c^+\in V^+\in\mathcal{U}\)なる\(V^+\)が存在し、\([a,c]\)の有限被覆に\(V^+\)を付け加えれば\([a,c^+]\)が覆われて\(c^+\in Y\)となる。これは\(Y\cap(c,b]=\varnothing\)に矛盾する。
(2)\(c\)が\(V\)の最大元でないとき:\(c < e\)なる\(e\in V(\subset Y)\)が存在するが、\(Y\cap(c,b]=\varnothing\)から\(b < e\)である。
(1)では\(c\)が、(2)では\(e\)が上記\(v\)の要件を満たす。■

なお、どのような場合でも結局のところ\(b=c\)となることを付記しておく。