各元を変えない元

集合\(S\)上に二項演算\(\cdot\)が入っている。以下\(x\cdot y\)を\(xy\)と略す。
\(x\in S\)に対し、\(xy=yx=x\)を満たす\(y\in S\)を「\(x\)を変えない元」と呼ぶことにする。ある元を変えない元は複数あるかもしれないし、存在しないかもしれない。また、ある元を変えない元が他の要素をも変えないかどうかは場合によって様々である。

「\(S\)の単位元」とは、「\(S\)のどの元をも変えない元」のことである。

【定理】\( (S,\cdot)\)の単位元は1個以下である。
(証明)\(e,f\)が共に\(S\)の単位元であるとすると、\(e=ef=f\)である。■

【定理】\( (S,\cdot)\) が可換半群であり、\(S\)のすべての要素が、自身を変えない元をそれぞれちょうど一つずつ有すならば、\(S\)は単位元を持つ。
(証明)任意の\(a,b\in S\)をとり、\(a\)を変えない唯一の元を\(\alpha\)、\(b\)を変えない唯一の元を\(\beta\)とすると、\(\alpha\)も\(\beta\)も\(ab\)を変えない(それを確かめる計算で交換律・結合律を用いる)。したがって\(\alpha=\beta\)である。■

この定理の「\(S\)は可換」という条件を外すと反例が出る。
(反例)\(S=\{a,b\}(a\neq b), (\cdot):(x,y)\mapsto x\)とすると、\(S\)は半群をなし、各元は自身を変えない唯一の元として振る舞う。