最小の帰納的集合は順序数である

【定義】対の公理と和集合の公理により、任意の集合\(s\)の各々に対して\(s\cup\{s\}\)なる集合が存在するので、これを\(s'\)と書く。すなわち\[r\in s'\Leftrightarrow (r\in s\vee r=s)\]が成り立つ。

【定義】\(y\)が次の条件\(\varphi(y)\)を満たすことを、「\(y\)は帰納的集合である」という。\[\varphi(y):\varnothing\in y\wedge\forall z[z\in y\rightarrow z'\in y]\]

【公理】(無限公理)帰納的集合が存在する。

【定義】無限公理により存在が保証された帰納的集合のひとつを\(I\)とすると、分出公理により\[\{x\in I\mid\forall y[\varphi(y)\rightarrow x\in y]\}\] という集合が存在し、これは\(I\)のとり方によらない。この集合を\(N\)と名付ける。

【命題】\(N\)は最小の帰納的集合である。
(証明)\(N\)が任意の帰納的集合に包含されること:任意の帰納的集合\(J\)と任意の\(x\in N\)をとれば\(x\in J\)、したがって\(N\subseteq J\)である。
\(N\)自身が帰納的集合であること:\(\varphi(y)\)を満たす任意の\(y\)をとると\(\varnothing\in y\)、特に\(\varnothing\in I\)。したがって\(\varnothing\in N\)である。次に\(z\in N\)を仮定し\(z'\in N\)を導く。\(\varphi(y)\)を満たす任意の\(y\)をとると、\(z\in N\)から\(z\in y\)、これと\(\varphi(y)\)から\(z'\in y\)、特に\(z'\in I\)。したがって\(z'\in N\)である。■

上の命題により、\(N\)上で数学的帰納法が使えるようになる。

【定義】\(S\)が\(\neg\exists x\in S[x\in t]\)なる要素\(t\)を持つとき、\(t\)を\(S\)の\(\in\)左終端と呼ぶ。ある集合の任意の非空部分集合が\(\in\)左終端を持つとき、この集合は「\(\in\)に関して整礎である」という。

【命題】\(N\)は\(\in\)に関して整礎である。
(証明)\[\alpha(n):n\in S\subseteq Nを満たす任意のSが\in左終端を持つ\]とおき、\(\forall n\in N[\alpha(n)]\)を示せばよい。さらに\[\beta(n):\forall k\in n'[\alpha(k)]\]とおく。\(n\in n'\)により、各\(\beta(n)\)は\(\alpha(n)\)を含意するので、\(\forall n\in N[\beta(n)]\)を帰納法で証明することにする。まず\(\beta(\varnothing)\)は\(\alpha(\varnothing)\)のことであるが、\(\varnothing\in S\subseteq N\)を満たす任意の\(S\)は\(\varnothing\)を\(\in\)左終端に持つことから、これは成立する。次に\(\beta(n)\)を仮定して\(\beta(n')\)を導くが、\(n''=n'\cup\{n'\}\)により、\(\alpha(n')\)さえ導ければよい。そこで、\(n'\in S\subseteq N\)を満たす任意の\(S\)をとる。\(r\in n'\)かつ\(r\in S\)なる\(r\)が存在するとき、\(\beta(n)\)により\(\alpha(r)\)が成立するので、\(S\)は\(\in\)左終端を持つ。そのような\(r\)が存在しないときは、\(n'\)が\(S\)の\(\in\)左終端となる。■

【定義】集合\(t\)が「\(k\in t\)ならば\(k\subseteq t\)」を満たすとき、「\(t\)は推移的集合である」という。以下では推移的集合のことをtransetと記す。

【命題】上の定義の「\(k\in t\)ならば」を「\(k\in t'\)ならば」に替えても同値である。
(証明)\(t\subseteq t\)は常に成立するため。■

【命題】集合\(t\)がtransetであるとき、\(t'\)もtransetである。
(証明)\(t\)がtransetであると仮定すると、任意の\(k\in t'\)に対し\(k\subseteq t\subseteq t'\)となるから、\(t'\)もtransetである。■

【命題】\(N\)の各要素はいずれもtransetである。
(証明)帰納法による。まず\(\varnothing\)はtransetである。\(n\in N\)がtransetであると仮定すると、上の命題により\(n'\)もtransetである。■

この命題を活用して、\(N\)における「\('\)」の性質についての補題を得ておく。

【命題】任意の\(p,q\in N\)に対し、次が成り立つ。
(1)\(p'\neq\varnothing\)
(2)\(\varnothing\in p'\)
(3)\(p=q\Leftrightarrow p'=q'\)
(4)\(p\in q\Leftrightarrow p'\in q'\)
(証明)(1)\(p\notin\varnothing\)および\(p\in p'\)による。
(2)\(p\)についての帰納法による。まず\(\varnothing\in\varnothing'\)は成り立つ。\(\varnothing\in p'\)は\(\varnothing\in p''\)を含意する。
(3)「→」は等号公理により直ちに示される。「←」を示すため、\(p'=q’\)と仮定する。\(p\in p'=q'\)であり、\(q\)がtransetであることから\(p\subseteq q\)である。まったく同様にして\(q\subseteq p\)が導かれるので、\(p=q\)となる。
(4)任意の\(p\in N\)を選んで固定し、\(q\)についての帰納法で示す。まず\(p\in\varnothing\Leftrightarrow p'\in\varnothing'\)は両辺とも偽になるので成立する。\(p\in q\Leftrightarrow p'\in q'\)と仮定すると、(3)と辺々「\(\vee\)」で結ぶことにより\(p\in q'\Leftrightarrow p'\in q''\)となる。■

【命題】\(N\)は二項関係\(\in\)に関して無反射的全順序をなす。
(証明)推移性:\(N\)の任意の要素\(l,m,n\)をとり、\(l\in m\in n\)と仮定すると、\(n\)がtransetであることから\(l\in n\)である。
無反射性:帰納法による。まず\(\varnothing\notin\varnothing\)である。\(n\notin n\)と仮定すると、「\('\)」の性質(4)により\(n'\notin n'\)となる。

一般に推移的かつ無反射的な二項関係は反対称的でもある。したがって\(N\)における\(\in\)も反対称的である。

弱い三分性:\(m\in N\)を任意にとって固定し、\(\psi(n):m\in n\vee m=n\vee n\in m\)とおいて、\(n\)についての帰納法を用いる。\(\psi(n)\)は\[\psi_1(n):m \in n'\vee n\in m\]とも\[\psi_2(n):m\in n\vee n\in m'\]とも書けるので、そのつど便利なものを用いる。まず、「\('\)」の性質(2)により、\(\psi_2(\varnothing)\)の後件が成り立つ。次に、\(\psi_1(n)\)を仮定して\(\psi_2(n')\)を導く。\(m\in n'\)のとき、これは\(\psi_2(n')\)の前件にほかならない。\(n\in m\)のとき、「\('\)」の性質(4)から\(n'\in m'\)、これは\(\psi_2(n')\)の後件に当たる。■

「反対称性」「無反射性」「弱い三分性」をまとめたものが「強い三分性」(\(m\in n,m=n,n\in m\)のうち、ちょうどひとつが成り立つ)に相当する。

いっぽう、下の命題も成り立つ。

【命題】\(N\)はtransetである。
(証明)帰納法による。まず\(\varnothing\subseteq N\)である。任意の\(n\in N\)をとって\(n\subseteq N\)を仮定すると、\(n'=n\cup\{n\}\subseteq N\)となる。■

\(N\)と同様に、いくつかの性質を同時に満たすものに名前を付ける。

【定義】\(\in\)に関して、次の性質を同時に満たす集合を「順序数」と呼ぶ。
(1)無反射的な整列順序をなす、すなわち
(1-a)整礎であり、
(1-b)無反射的全順序をなす。
(2)transetである。

以上により、「\(N\)は順序数である」とまとめることができる。