20190217集合論ゼミの補足

(内輪向けのメモです。)

選択公理ステートメントの流儀(1)「非交叉族・選択集合」流と(2)「族・選択関数」流とが同値であることを示す。

●(2)→(1)の証明:
空集合を持たず、どの2要素(集合)も交わらない族\(\mathcal{F}\)を任意にとり、その選択関数のひとつを\(g\)とする。\(g\)の値域\[g[\mathcal{F}]=\{g(X)\mid X\in\mathcal{F}\}\]が\(\mathcal{F}\)の選択集合となっていることを示すため、任意の\(X\in\mathcal{F}\)をとり、\(g(X)\)が\(g[\mathcal{F}]\cap X\)の唯一の要素であることを導く。
\(g[\mathcal{F}]\)の定義から\(g(X)\in g[\mathcal{F}]\)、いっぽう\(g\)が\(\mathcal{F}\)の選択関数であることから\(g(X)\in X\)、したがって\(g(X)\in g[\mathcal{F}]\cap X\)である。
一意性をいうために\(y\in g[\mathcal{F}]\cap X\)と仮定し、\(y=g(X)\)を導く。
\(y\in g[\mathcal{F}]\)により、\(y\)は何らかの\(Z\in\mathcal{F}\)を用いて\(g(Z)\)と書くことができる。すると\(g(Z)\in X\)であり、また\(g\)が\(\mathcal{F}\)の選択関数であることから\(g(Z)\in Z\)である。すなわち\(Z\)と\(X\)は\(g(Z)\)を共有するが、\(\mathcal{F}\)は交わる集合を有さないから\(Z=X\)、したがって\(g(Z)=g(X)\)である。

●(1)→(2)の証明:
補題】\(C\)が集合族\(\mathcal{G}\)の選択集合であるとき、\(C\cap\bigcup\mathcal{G}\)もまた\(\mathcal{G}\)の選択集合である。
(証明)任意の\(X\in\mathcal{G}\)に対し\(X\subseteq\bigcup\mathcal{G}\)であるから、\(X\)と\(C\)が一点で交わるなら\(X\)と\(C\cap\bigcup\mathcal{G}\)も同じ一点で交わる。■
(注)「\(\bigcup\mathcal{G}\)に属さない要素を持つかどうか」は「\(\mathcal{G}\)の選択集合かどうか」に影響しない。余計なものがいくら混じっていても選択集合であることに変わりはないが、多くの人は「選択集合」と言えば\(C\cap\bigcup\mathcal{G}\)のような「余計なものが混じっていない選択集合」を想像するであろう。

(証明)空集合を持たない任意の族\(\mathcal{F}\)をとり、\[\mathcal{F}^*=\{\{X\}\times X\mid X\in\mathcal{F}\}\]とおく。\(\mathcal{F}^*\)は空集合を持たず、どの2要素も交わらないので、選択集合が存在する。そのひとつをとって\(\bigcup\mathcal{F}^*\)との共通部分を\(C\)とすると、補題により\(C\)も\(\mathcal{F}^*\)の選択集合である。この\(C\)が\(\mathcal{F}\)の選択関数となっていることを示す。まず\(C\subseteq\bigcup\mathcal{F}^*=\{(X,x)\mid x\in X\in\mathcal{F}\}\subseteq\mathcal{F}\times\bigcup\mathcal{F}\)だから、\(C\)は\(\mathcal{F},\bigcup\mathcal{F}\)上の二項関係である。任意の\(X\in\mathcal{F}\)をとると、\(C\subseteq\bigcup\mathcal{F}^*\)により\[C\cap(\{X\}\times\bigcup\mathcal{F})=C\cap(\{X\}\times X)\]が成り立ち、\(C\)が\(\mathcal{F}^*\)の選択集合であることから右辺は一点集合ゆえ左辺も一点となる。以上により\(C\)は\(\mathcal{F}\)から\(\bigcup\mathcal{F}\)への関数となっており、しかも各\(X\in\mathcal{F}\)を\(X\)の要素にうつすから、\(\mathcal{F}\)の選択関数である。■

●証明を理解するために、有限集合の例で考えると:
\(P=\{a,b,c\},Q=\{c,d\}\)とし、\(\mathcal{F}=\{P,Q\}=\{\{a,b,c\},\{c,d\}\}\)とする。\[\mathcal{F}^*=\{\{P\}\times P,\{Q\}\times Q\}=\{\{P\}\times\{a,b,c\},\{Q\}\times\{c,d\}\}\]\[=\{\{(P,a),(P,b),(P,c)\},\{(Q,c),(Q,d)\}\}\]\(\{P\}\times P\)と\(\{Q\}\times Q\)とは交わっていない。\[\bigcup\mathcal{F}=\{a,b,c,d\},\]\[\bigcup\mathcal{F}^*=\{(P,a),(P,b),(P,c),(Q,c),(Q,d)\}\]であることにも注意する。\(\mathcal{F}^*\)の選択集合、すなわち\(\{P\}\times P\)と一点で交わり、しかも\(\{Q\}\times Q\)とも一点で交わるものとしては、例えば\[\{(P,b),(Q,c)\}\]がある。この集合は余計なものを入れていないので\(\bigcup\mathcal{F}^*\)に包含されている。「関数の集合論的実装」という観点で見ると、この集合は\(\mathcal{F}\)から\(\bigcup\mathcal{F}\)への関数\(g\)で、\[P\mapsto b,\]\[Q\mapsto c\]という対応のものに相当する。\(g(P)=b\in P,g(Q)=c\in Q\)であるから、\(g\)は\(\mathcal{F}\)の選択関数となっている。