有限加法族だがσ加法族でない例

集合\(X\)の部分集合族\(\mathscr{B}\)が「補集合をとる操作」と「有限個(ゼロ個でもよい)の合併をとる操作」について閉じているとき、\(\mathscr{B}\)は\(X\)上の有限加法族であるという。さらに\(\mathscr{B}\)が「可算個の合併をとる操作」についても閉じているとき、\(X\)上のσ加法族であるという。上記の定義は「合併」を「交叉」に替えても同値であることに注意。

σ加法族は有限加法族でもあるが、有限加法族だからといってσ加法族とは限らない。その例を挙げる。

\(0,1\)のみを値にとる数列\(\mathbb{N}\to\{0,1\}\)全体の集合を\(X\)とすると、\(X\)は非可算集合である。「先頭の3項が\(010,101\)のいずれか」というように、数列の先頭から有限個の項について指定を行ったときの真理集合の全体を\(\mathscr{B}\)とする。自然数\(n\)の各々に対して、先頭の\(n\)項に対する指定の方法は、\(2^n\)通りのパターンの各々について許されるか否かを選べるので\(2^{2^n}\)通り(有限個)あるから、\(\mathscr{B}\)は可算集合である。

2つの指定があったとき、短い項数に対する指定は長い項数のほうに翻訳することができる。例えば「先頭の2項が\(01\)である」は「先頭の3項が\(010,011\)のいずれかである」と言い換えられる。このように揃えれば、2つの指定を「または」で繋いだものは必ず1つの指定にまとめることができる。このことに注意すれば、\(\mathscr{B}\)が\(X\)上の有限加法族であることが確かめられる。

いっぽう、\(X\)の一点集合は\(\mathscr{B}\)の元の可算交叉で書ける。例えば\(x=0100110\cdots\)という数列に対しては、「先頭の1項が\(0\)である」「先頭の2項が\(01\)である」「先頭の3項が\(010\)である」と追い詰めてゆけばよい。したがって、もしも\(\mathscr{B}\)がσ加法族であれば、\(X\)のすべての一点集合を元に持つことになり、\(\mathscr{B}\)は非可算集合となって矛盾する。