区間縮小法の原理/Cantorの共通部分定理

順序体\(K\)の要素からなる数列\(\langle a_n\rangle,\langle a_n\rangle\)が、すべての\(n\in{\bf N}\)について\(a_n < b_n\)となっているとする。これらの数列がさらに以下の条件を満たすとき、集合\(X=\{x\in K|\forall n\in{\bf N}[a_n\leq x\leq b_n]\}\)の要素がいくつになるか考察する。

(1)\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}(b_n-a_n)=0\):

\(X\)の要素が1個以下であること(一意性)を示す。\(\alpha\in X,\beta\in X\)と仮定すると、\(a_n\leq\alpha\leq b_n\)かつ\(a_n\leq\beta\leq b_n\)が任意の\(n\in{\bf N}\)について成り立つ。すると\(b_n-a_n\geq|\beta-\alpha|\)となる。
いっぽう条件(1)から、任意の\(\epsilon > 0\)に対して、ある\(m\in{\bf N}\)が存在して、「\(n > m\)ならば\(|b_n-a_n| < \epsilon\)」となるようにできる。したがって、もしも(正とは限らない)\(\epsilon\)が「任意の\(n\in{\bf N}\)について\(|b_n-a_n| \geq \epsilon\)」を成立させるならば、それは\(\epsilon\leq0\)を満たすはずである。これを適用すれば\(|\beta-\alpha|\leq0\)すなわち\(\alpha=\beta\)である。■

上記の証明で注意すべきことをいくつか。まず仮定の(1)は区間\([a_n,b_n]\)の幅がゼロに収束することだけを言っているのであり、後述の(2)のように区間が次々に包含されてゆく必要はなく、あちこちに飛び回ってもよい。いっぽう、結論はあくまで要素が1個「以下」であることに過ぎず、\(X\)が空集合となる可能性もある。最後にもっとも注意してほしいことは、この証明では順序完備性を用いておらず、一般の順序体(たとえば\(\bf Q\)でもよい)について成り立つということである。

(2)\(\langle a_n\rangle\)は単調増加、\(\langle b_n\rangle\)は単調減少:

\(K\)が順序完備であるならば、\(X\)は少なくとも1個の要素を持つ(空集合でない)ことを示す。

\(\langle a_n\rangle\)の項全体の集合を\(A\)とし、任意の\(b_n(n\in{\bf N})\)をとる。任意の\(a_k(k\in{\bf N})\)に対し、\(k\leq n\)のときは\(a_k\leq a_n < b_n\)、また\(n < k\)のときは\(a_k < b_k\leq b_n\)であるから、\(b_n\)は\(A\)の上界である。したがって\(A\)は空でなく上界を持つから、ワイエルシュトラスの公理により最小上界\(c\)を持つ。最小上界の定義から、任意の\(n\in{\bf N}\)に対し\(a_n\leq c\leq b_n\)が成り立ち、\(c\)は\(X\)の要素である。■

この証明では(2)は仮定しているが(1)は仮定していない。すなわち\([a_n,b_n]\)は区間縮小列をなすが、その幅はゼロに収束するとは限らない。いっぽう結論からは\(X\)は\(c\)以外にも要素を持つ可能性を否定できない。また、ワイエルシュトラスの公理を用いるために順序完備性を仮定していることに注意しよう。

(1)(2)の両方を仮定すれば、「\(K\)が順序完備ならば\(X\)はただ一つの要素を持つ」という命題が得られ、通常はこれを「区間縮小法の原理」と呼ぶ。しかし「(1)ならば(高々)一意」というのは完備順序体に限った話ではないので、(2)だけを仮定して「\(K\)が順序完備ならば\(X\neq\varnothing\)」だけを結論とする形で述べられることもある。この形は「Cantorの共通部分定理」と呼ばれることが多いと思われる。