吉田『ルベーグ積分入門』例2.1.3

吉田伸生『ルベーグ積分入門』例2.1.3の証明を、$\sigma$加法族や可測写像と無関係な部分を切り分けて書き直してみた。

一般に$f:S\to\mathbb{C}$に対し\[f=\sum_{\alpha\in f(S)}\alpha\cdot1_{f^{-1}(\{\alpha\})}\]であり\[\mathscr{G}=\{f^{-1}(\{\alpha\});\alpha\in f(S)\}\]は$S$の分割となる。このような表示が一意であることを示すため、$f:S\to\mathbb{C}$が$\Lambda\subseteq\mathbb{C}$と$S$の分割$\{A_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$によって\[f=\sum_{\lambda\in\Lambda}\lambda\cdot1_{A_\lambda}\]と書かれると仮定すると、各$\lambda\in\Lambda$について「$x\in A_\lambda\Leftrightarrow f(x)=\lambda$」すなわち$A_\lambda=f^{-1}(\{\lambda\})$が成り立ち、$\Lambda=f(S)$となる。

上の事実により、「$f(S)$が有限集合であること」と「相異なる*1 $\alpha_1,\ldots,\alpha_n\in\mathbb{C}$と$S$の分割$\{A_j\}_{j=1}^n$を用いて$f=\sum_{j=1}^n\alpha_j\cdot1_{A_j}$と書けること」とは同値である。

いま$f$が$(S,\mathscr{A})$から$(\mathbb{C},\mathscr{B}(\mathbb{C}))$への可測写像であると仮定すると、各$\alpha\in f(S)$に対し$f^{-1}(\{\alpha\})$は一点集合(したがって閉集合)の逆像ゆえ$\mathscr{A}$-可測であるから$\mathscr{G}\subseteq\mathscr{A}$である。

逆に$\mathscr{G}\subseteq\mathscr{A}$と仮定し、$f$が可測写像であることが導かれるかどうか調べる。まず各$\alpha\in f(S)$に対し$f\upharpoonright_{f^{-1}(\{\alpha\})}$は値を$\alpha$にとる定値写像となるので可測写像である。これと$\mathscr{G}\subseteq\mathscr{A}$および$\bigcup\mathscr{G}=S$から、$f(S)$が高々可算ならば例2.1.2により$f$も可測写像となる。

以上の議論をまとめると、「$f$が可測な単関数であること」と「(相異なる)*2
$\alpha_1,\ldots,\alpha_n\in\mathbb{C}$と$S$の分割$\{A_j\}_{j=1}^n\subseteq\mathscr{A}$を用いて$f=\sum_{j=1}^n\alpha_j\cdot1_{A_j}$と書けること」とは同値となる。

*1: $\alpha_1,\ldots,\alpha_n$に同じものが含まれていたとしても、それらに対応する$A_j$を統合することにより、相異なる有限個の$\alpha_j$とそれに対応する$A_j$で表し直すことができる。したがって、この「相異なる」は削除しても同値であるが、表示の一意性は失われる。

*2:前脚注と同様に$A_j$を統合する際、σ加法族が可算和で閉じることから、$\mathscr{A}$-可測性は保たれる。