自然数の全体は集合をなす

集合\(x\)について、「\(x\)は順序数である」とは「\(x\)は関係\(\in\)で整列順序をなす推移的集合である」、「\(x\)は自然数である」とは「\(x\)自身とその要素のすべてが、『空集合か後続順序数』である」という意味であるとする。

無限公理:\(\varnothing\in X\)かつ「\(x\in X\)ならば\(x\cup\{x\}\in X\)」を満たす集合\(X\)が存在する。

無限公理により存在が保証された集合のひとつを\(X\)と名付ければ、分出公理により\(N=\{n\in X|nは自然数\}\)は集合をなす。\(N\)が「すべての自然数の集合」と呼ばれるためには、\(N\)が自然数を取りこぼしていないことを示さねばならない。そのためには、任意の自然数\(n\)に対して\(n\in X\)であることを示せばよい。

ゲーデルと20世紀の論理学』第4巻p77では、このことは「自然数全体のクラス」が集合をなすことが示される前に証明する必要があるので、整列集合上の超限帰納法を(単純には)適用できないという趣旨の注意喚起がある。Kunen『集合論』p25では、この不都合を避けた証明を「不格好な論法」として紹介している。以下はそれをさらに書き直したもの。

補題】任意の自然数\(n\)に対し、\(n\subset X\)である。
(証明)任意の自然数\(n\)をとり、\(\forall m\in n[m\in X]\)を導こう。\(n\)は関係\(\in\)について整列順序をなしているので、この関係を「\( < \)」と書くことにする。超限帰納法の原理を用いて、任意の\(m\in n\)をとって\(\forall l\in n[l < m\rightarrow l\in X]\)を仮定し、\(m\in X\)を導けばよい。
\(n\)が自然数であることから、\(m\)は空集合か後続順序数である。前者ならば\(X\)の定義から\(m\in X\)である。後者の場合、\(l\cup\{l\}=m\)なる順序数\(l\)が存在する。\(n\)が推移的集合であることと\(l\in m\)から\(l\in n\)であり、また\(l < m\)だから、 帰納法の仮定により\(l\in X\)、したがって\(X\)の定義から\(m\in X\)である。■

【定理】任意の自然数\(n\)に対し、\(n\in X\)である。
(証明)\(n=\varnothing\)のとき、\(X\)の定義から\(n\in X\)である。\(n\)が後続順序数のとき、\(m\cup\{m\}=n\)なる順序数\(m\)が存在する。\(m\in n\)と補題から\(m\in X\)、したがって\(X\)の定義から\(n\in X\)である。■

クラトフスキ順序対

クラトフスキ順序対\(\langle x,y\rangle=\{\{x\},\{x,y\}\}\)について、\(\langle a,b\rangle=\langle c,d\rangle\)のとき\(a=c\)かつ\(b=d\)であることを証明するのにはさまざまな方法がある。しかし「あれとこれが等しいとき・等しくないとき」といった場合分けをして集合の要素の個数に着目するような方法が果たして許されるのか、不安になる人もいることだろう。ここでは、外延性公理に密着した議論のみで証明を進める方法を示す。

補題】\(\{p,q\}=\{p,r\}\)ならば\(q=r\)である。
(証明)左辺の要素である\(q\)は右辺にも属すはずだから、\(q\in\{p,r\}\)すなわち\(q=p\)または\(q=r\)である。後者ならばただちに示されたことになるが、前者の場合、もとの等式は\(\{q\}=\{q,r\}\)となり、右辺の要素\(r\)が左辺にも属すことから\(\{q\}\ni r\)、したがってやはり\(q=r\)である。■

【定理】\(\{\{a\},\{a,b\}\}=\{\{c\},\{c,d\}\}\)のとき\(a=c\)かつ\(b=d\)である。
(証明)左辺の要素\(\{a\}\)は右辺にも属すことから\(\{a\}\in\{\{c\},\{c,d\}\}\)すなわち\(\{a\}=\{c\}\)または\(\{a\}=\{c,d\}\)が成り立つ。いずれにせよ右辺の要素\(c\)は左辺に属すことから\(\{a\}\ni c\)ゆえ\(a=c\)である。するともとの等式は\(\{\{a\},\{a,b\}\}=\{\{a\},\{a,d\}\}\)となるが、これに補題を適用すると\(\{a,b\}=\{a,d\}\)、再度適用すると\(b=d\)を得る。■

(2020年9月19日追記)
補題を同値変形で示す。\[\{p,q\}=\{p,r\}\]\[\Leftrightarrow\{p,q\}\subseteq\{p,r\}\wedge\{p,q\}\supseteq\{p,r\}\]\[\Leftrightarrow q\in\{p,r\}\wedge\{p,q\}\ni r\]\[\Leftrightarrow(q=p\vee q=r)\wedge(p=r\vee q=r)\]\[\Leftrightarrow q=p=r\vee q=r\]\[\Leftrightarrow q=r\]

全員の得点が上がれば、どの順位の得点も上がっている

\(n\)人のクラスでテストを2回行なったところ、全員、2回目の得点のほうが1回目より高かったとする。このとき、1回目の最高点よりも2回目の最高点のほうが高くなることは直感的に明らかだろう。最高点をとったのが同じ学生Aなら直ちに言えるし、別の学生Bが取ったのであれば、やはり「(Aによる)1回目の最高点<Aの2回目の得点≦(Bによる)2回目の最高点」となる。では、最高点以外の、同じ順位の(同じ学生によるとは限らない)得点同士についても、一般に「1回目<2回目」が言えるだろうか?結論は「Yes」であるが、これをきちんと証明しよう。

【問】\(n\)を正の整数とする。\(a_1\leq a_2\leq\ldots\leq a_n\)かつ任意の\(1\leq k\leq n\)なる整数\(k\)について\(a_k < b_k\)が成り立っている。\(b_1,b_2,\ldots,b_n\)を小さい順に並べ替えたものを\(c_1,c_2,\ldots, c_n\)とすると、任意の\(1\leq k\leq n\)なる整数\(k\)について\(a_k < c_k\)となることを示せ。

【証明】\(k\)を任意に固定して考える。\(c_1,c_2,\ldots,c_k\)はすべて\(c_k\)以下であるから、\(b_1,b_2,\ldots,b_n\)は\(c_k\)以下の項を少なくとも\(k\)個持っている。したがって、\(b_k\)以降がすべて\(c_k\)の値を超えるという事態は起こりえない。そこで、\(b_t\leq c_k\)かつ\(k\leq t\leq n\)なる整数\(t\)をひとつとると、\(a_k\leq a_t < b_t\leq c_k\)である。■

平方数以外の自然数の平方根は無理数である

平方数でない自然数平方根が既約分数\(a/b\)で表されると仮定して矛盾を導く。
\(a/b\)の整数部分を\(n\)とすると、小数部分は\((a/b)-n\)であり、\(0\)と\(1\)の間にある。これを\(a/b\)の分母・分子に乗じると、両者とも前より\(0\)に近い数となり、\[\frac{a}{b}=\frac{a[(a/b)-n]}{b[(a/b)-n]}=\frac{b(a/b)^2-an}{a-bn}\]となる。いま\( (a/b)^2\)が整数であることから、分母も分子も整数であり、これは

約分ができてしまったヽ(; ゚д゚)ノ
ことを意味する。■

2質点の弾性衝突

3次元空間における2質点の衝突を考える。両質点の質量を\(m,M\)とし、各々の衝突前の速度を\(v_0,V_0\)、衝突後の速度を\(v,V\)とする。速度はベクトルであるが矢印等を省略する。
運動量保存により\[m(v_0-v)=M(V-V_0)\]が成立する。上の両辺は\(m\)から\(M\)に渡った運動量を表しており、これを\(p\)とする。このもとで、運動エネルギー保存\[\frac{m}{2}(|v_0|^2-|v|^2)=\frac{M}{2}(|V|^2-|V_0|^2)\]と、「近づく速さ=遠ざかる速さ」\[|v_0-V_0|=|V-v|\]とが必要十分であることを、両等式をそれぞれ変形することにより示す。
前者は\[\frac{m}{2}(v_0-v)\cdot(v_0+v)=\frac{M}{2}(V-V_0)\cdot(V+V_0)\]\[p\cdot\frac{v_0+v}{2}=p\cdot\frac{V+V_0}{2}\]\[p\cdot(v_0-V_0)=p\cdot(V-v)\tag{*}\]と変形できる。いっぽう後者は\[|v_0-V_0|^2=|V-v|^2\]\[|v_0-V_0|^2-|V-v|^2=0\]\[ [(v_0-V_0)+(V-v)]\cdot[(v_0-V_0)-(V-v)]=0\]\[ [(v_0-v)+(V-V_0)]\cdot[(v_0-V_0)-(V-v)]=0\]\[\left(\frac{1}{m}+\frac{1}{M}\right)p\cdot[(v_0-V_0)-(V-v)]=0\]と変形できる。これと(*)を見比べれば必要十分であることが分かる。
(*)は、両質点の相対速度の撃力方向成分は衝突の前後で反転することを意味している。撃力と垂直な成分は衝突によって変化しないであろうから、これは相対速度の大きさが不変であることと必要十分であることが頷ける。■

ベクトルx(≠0)をベクトルyにうつす線形写像

【問題】体\(K\)上、\(n\)次元(\(n\)は1以上で有限)のベクトル空間\(V\)とその元\(\vec{x}\neq\vec{0},\vec{y}\)に対し、\(\vec{x}\)を\(\vec{y}\)にうつす線形写像\(V\to V\)を作れ。
【解答】\(V\)が\(n\)次元であることから、あるベクトルの組\(\vec{w_1},\vec{w_2},\ldots,\vec{w_n}\)が存在して、任意の\(\vec{v}\in V\)について、その各々に対し\(\displaystyle\vec{v}=\sum_{i=1}^n\alpha_i\vec{w_i}\)なる\(\alpha_i\in K\)の組が一意に定まる。このようなベクトルの組(すなわち基底)をひとつとって固定しておき、\(\vec{v}\)をこの基底で上のように表したときの各\(\alpha_i\)を\(\alpha_i(\vec{v})\)と書くことにする。任意の\(\vec{u},\vec{v}\in V\)および\(a,b\in K\)に対して、\(a\vec{u}+b\vec{v}\)は\(\displaystyle\sum_{i=1}^n\alpha_i(a\vec{u}+b\vec{v})\vec{w_i}\)とも\(\displaystyle a\sum_{i=1}^n\alpha_i(\vec{u})\vec{w_i}+b\sum_{i=1}^n\alpha_i(\vec{v})\vec{w_i}\)とも書くことができ、後者は\(\displaystyle\sum_{i=1}^n[a\alpha_i(\vec{u})+b\alpha_i(\vec{v})]\vec{w_i}\)とまとめられるから、係数の一意性により各\(\alpha_i(\cdot)\)は\(V\)から\(K\)への線形写像である。
\(\vec{x}\neq\vec{0}\)から、\(\alpha_i(\vec{x})\neq0\)を満たす\(i\)(\(1\leq i\leq n\))が少なくともひとつ存在するので、そのような\(i\)を任意に選んで\(p\)とする。写像\[V\to V;\ \vec{v}\mapsto\frac{\alpha_p(\vec{v})}{\alpha_p(\vec{x})}\vec{y}\]は線形写像であり、\(\vec{x}\)を\(\vec{y}\)に移す。

ベクトル空間がサイズの等しい生成系と独立系を持つならば、両者はともに基底をなす

【注意】このエントリは誤りを含んでいます。

ベクトルの順序対を\( (v_1,v_2,v_3)\)などで表し、それによって生成される部分空間を\(\langle v_1v_2v_3\rangle\)と書く。

【定理】\(S\)を体\(K\)上の線形空間とする。\(V=(v_1,v_2,\ldots,v_n)\)が\(S\)を生成し、\(W=(w_1,w_2,\ldots,w_n)\)が\(S\)において線形独立であるとき、\(V\)は\(S\)において線形独立であり、\(W\)は\(S\)を生成する。すなわち、\(V\)も\(W\)も\(S\)の基底をなす。

(証明)\(n=3\)の場合について示すが、一般の\(n\)に対しても全く同様に証明できる。\(V\)が\(S\)を生成することから、\[w_1=a_1v_1+a_2v_2+a_3v_3\quad(a_1,a_2,a_3\in K)\tag{*}\]と書ける。\(W\)の線形独立性から\(w_1\notin\langle w_2w_3\rangle\)ゆえ\(\langle w_2w_3\rangle\neq S\)、いっぽう\(\langle V\rangle=S\)だから、\(v_1,v_2,v_3\)の中には\(\langle w_2w_3\rangle\)に属さないものが少なくともひとつ存在する。いま、たとえば\(v_1,v_2\)がこれを満たし、\(v_3\)だけは\(\langle w_2w_3\rangle\)に属している場合を考える。\(v_3=\alpha w_2+\beta w_3\quad(\alpha,\beta\in K)\)とおけば、\( (*)\)は\[w_1=a_1v_1+a_2v_2+a_3(\alpha w_2+\beta w_3)\]となり、\(W\)の線形独立性から\(a_1\neq0\)または\(a_2\neq0\)である。たとえば\(a_2\neq0\)であったとすると、\( (*)\)を\(v_2\)について解くことができ、\[v_2=\left(-\frac{a_1}{a_2}\right)v_1+\frac{1}{a_2}w_1+\left(-\frac{a_3}{a_2}\right)v_3\]となるから、\( (v_1,w_1,v_3)\)は\(S\)を生成する。また\( (w_2,w_3)\)の線形独立性と\(v_2\notin\langle w_2w_3\rangle\)から、\( (v_2,w_2,w_3)\)は\(S\)において線形独立である。すなわち、生成系\(V\)と独立系\(W\)から、それぞれ\(v_2\)と\(w_1\)を選んで入れ替えても、やはりもとの生成/独立の性質を保つのである。ここでは\(w_1\)の交換相手としてたまたま\(v_2\)が適任である場合を考えたが、同様に考えることにより、このような\(w_1\)の交換相手は必ず見つかることが分かる。これを繰り返して、【追記】ここが誤っています。\(w_2,w_3\)の相手を選んで順次交換すれば、\(W\)は\(S\)を生成し、\(V\)は\(S\)において線形独立であることが示される。■

【系1】
(1)\(S\)がサイズ\(n\)の生成系を持つとき、\(S\)の独立系のサイズは\(n\)以下である。
(2)\(S\)がサイズ\(n\)の独立系を持つとき、\(S\)の生成系のサイズは\(n\)以上である。
(証明)(1)\(n\)個を超えるベクトルの組\(W^+\)は\(S\)において線形従属であることを示す。\(W^+\)の先頭から\(n\)個を切り出して\(W\)とする。\(W\)が線形従属ならば\(W^+\)も線形従属である。\(W\)が線形独立ならば上の定理により\(W\)は\(S\)を生成するから、そこにベクトルを追加した\(W^+\)は線形従属である。
(2)\(n\)個未満のベクトルの組\(V^-\)は\(S\)を生成しないことを示す。\(V^-\)に任意にベクトルを追加して\(n\)個にしたものを\(V\)とする。\(V\)が\(S\)を生成しないならば、\(V^-\)も生成しない。\(V\)が\(S\)を生成するならば、上の定理により\(V\)は\(S\)において線形独立であるから、そこからベクトルを取り除いた\(V^-\)は\(S\)を生成しない。■

【系2】\(S\)がサイズ\(n\)の基底を持つとする。このとき、\(S\)の任意の基底のサイズは\(n\)である。
(証明)\(S\)がサイズ\(m\)の基底を持つと仮定すると、系1(1)(2)により\(m\leq n\)かつ\(m\geq n\)、したがって\(m=n\)である。■