逆説的集合

砂田利一『バナッハ・タルスキーのパラドックス』付録の補題6の証明が理解できなかったので書き直してみた。

補題】群$G$の作用する空間$X$において、$X$の部分集合$E$が、どのふたつも互いに素な$E$の部分集合$A_1,\ldots,A_m, B_1,\ldots,B_n$によって$E=\bigcup_{i=1}^m g_iA_i=\bigcup_{j=1}^n h_jB_j$(ただし$g_1,\ldots,g_m,h_1\ldots,h_n\in G$)と書かれるとき、互いに素な$E$の部分集合$A,B$で$A\approx E\approx B$を満たすものが存在する。

【証明】$\bigoplus_{i=1}^m A_i$と$\bigoplus_{j=1}^n B_j$は互いに素な$E$の部分集合であるが、これらがともに$E$と分割合同であることを示す。

$m=3$の場合について示すが、一般の$m$についても同様である。

\[E=g_1A_1\cup g_2A_2\cup g_3A_3=g_1A_1+(g_2A_2\backslash g_1A_1)+(g_3A_3\backslash g_2A_2\backslash g_1A_1)\]である。すると\[\underbrace{g_1^{-1}(g_1A_1)}_{=A_1}\cup\underbrace{g_2^{-1}(g_2A_2\backslash g_1A_1)}_{\subseteq A_2}\cup\underbrace{g_3^{-1}(g_3A_3\backslash g_2A_2\backslash g_1A_1)}_{\subseteq A_3}\subseteq A_1+A_2+A_3\]であり、左辺は直和となるので、$E$はこれと分割合同である。したがって$E\preceq A_1+A_2+A_3$である。いっぽう$A_1+A_2+A_3\subseteq E$から$A_1+A_2+A_3\preceq E$ゆえ、補題4(バナッハ・シュレーダー・ベルンシュタインの定理)により$E\approx A_1+A_2+A_3$である。$\bigoplus_{j=1}^n B_j$についても同様である。

20220824輪講のノート

連立方程式の同値変形について

テキストp56の方程式③($a=3x+5$)が表す直線を、教科書の図に描き込んでみてください。

●円の方程式について

$xy$平面において、中心$(3,-2)$半径$5$の円を$C$とします。

すると、$xy$平面上のすべての点は円$C$の「内部にある/周上にある/外部にある」のいずれかに分類されます。

個々の点がどれに属すかを知りたければ、その点と$C$の中心$(3,-2)$との距離を測り、「$5$より小さいか/$5$に等しいか/$5$より大きいか」を調べればよい。

例えば$(2,1)$なら、距離は$\sqrt{(2-3)^2+(1-(-2))^2}=\sqrt{10}<5$であるので、$C$の内部に位置します。$(0,2)$であれば$\sqrt{(0-3)^2+(2-(-2))^2}=\sqrt{25}=5$なので、$C$の周上にあります。$(-2,2)$ならどこにあるでしょうか?

いわゆる「円の方程式」とは、「点がその円の周上にあるかどうかを判定するための必要十分条件」を等式で書いたものにほかなりません。上の例であれば「点$(x,y)$が円$C$の周上にあるかどうか」は「$\sqrt{(x-3)^2+(y-(-2))^2}=5$かどうか」に懸かっているので、これが円$C$の方程式となります。ルートが煩わしければ$(x-3)^2+(y-(-2))^2=5^2$と書いても同値です。

輪講では円の方程式をさんざん扱ったあとに2点間の距離の話題が出てきたので順番が前後してしまいましたが、本来は円の方程式そのものが2点間の距離の求め方に根差しているのであり、さらにさかのぼればこれは三平方の定理ピタゴラスの定理)に帰着されることに留意してください。

20220727輪講のノート

●Theme3について:p57の(i),(ii)は、「(i)ならば(ii)」の関係がある(なぜか?)ので、実は(i)さえ考えれば(ii)は必要ありません。実際、p60の最後の数直線では(i)の範囲が(ii)の範囲に完全に含まれています。

●この問題の同値変形のポイントはp57の5°(I)の\[\sqrt{X}>Y\Longleftrightarrow(Y\geq0\wedge X>Y^2)\vee(Y<0\wedge x\geq0)\]です。これを理解することが重要ですが、p60末尾の6°にある通り、$X\geq0$という前提のもとで同値変形するほうが簡便です。その場合にどうなるか、次項の中で説明しています。

●テキストの解答よりもできるだけ簡略になるように努めた解答を以下に示します。

$x=15-a^2,y=14+2a-a^2$と略記すると、求めるべき条件は\[x>0かつy>0かつ\sqrt{x}+\sqrt{y}>3\]と書ける。そこで$\sqrt{x}+\sqrt{y}>3$を$x>0,y>0$のもとで同値変形すればよい。

一般に$X\geq0$のもとで\[\sqrt{X}>Y\Longleftrightarrow Y<0またはX>Y^2\]であるので、$x>0,y>0$のもと\[\sqrt{x}+\sqrt{y}>3\Longleftrightarrow\sqrt{y}>3-\sqrt{x}\]\[\Longleftrightarrow3-\sqrt{x}<0またはy>(3-\sqrt{x})^2\]\[\Longleftrightarrow3-\sqrt{x}<0または6\sqrt{x}>x-y+9\]\[\Longleftrightarrow3-\sqrt{x}<0またはx-y+9<0または36x>(x-y+9)^2\]となる。$x,y$を$a$に書き戻して各条件を満たす範囲を求めると
\[x>0\Longleftrightarrow 15-a^2>0\Longleftrightarrow-\sqrt{15}< a<\sqrt{15}\tag{1}\]\[y>0\Longleftrightarrow14+2a-a^2
>0\Longleftrightarrow1-\sqrt{15}< a<1+\sqrt{15}\tag{2}\]\[3-\sqrt{x}<0\Longleftrightarrow3<\sqrt{15-a^2}\Longleftrightarrow a^2 < 6\Longleftrightarrow-\sqrt{6} < a < \sqrt{6}\tag{3}\]\[x-y+9 < 0\Longleftrightarrow10-2a < 0\Longleftrightarrow a>5\tag{4}\]\[36x>(x-y+9)^2\Longleftrightarrow 36(15-a^2)>(10-2a)^2\]\[\Longleftrightarrow\frac{1-3\sqrt{5}}{2}< a<\frac{1+3\sqrt{5}}{2}\tag{5}\]
以上により、求めるべき条件$(1)\wedge(2)\wedge[(3)\vee(4)\vee(5)]$は\[\frac{1-3\sqrt{5}}{2} < a <\frac{1+3\sqrt{5}}{2}\]となる。

20220713輪講のノート

●p49、Theme 1について:

$k$の値に応じて$k$と$6k$との大小関係がどうなるか、これは$y=k$および$y=6k$のグラフを描けば一目瞭然です。

●p46、IV[A](2)$\exists x\in\mathbb{R}[a < x\wedge x < b]\Leftrightarrow a < b$の証明について。

($\Rightarrow$):$a < x$かつ$x < b$なる$x\in\mathbb{R}$の存在を仮定しますから、そのような$x$をひとつとることができます。そこから$a < b$を導くには、「実数の大小関係」という順序関係の、どの性質が効いてくるでしょうか。順序関係の定義を確認してください。

($\Leftarrow$):今度は存在を示すことがゴールですから、しかるべき$x$を具体的に構成できればよいことになります。$a < b$なる2実数$a,b$が与えられたときに、$a$より大きく$b$より小さい実数をどのように作ればよいでしょうか。

●p50、Notes 1°の同値関係\[\exists x[a < x < c\wedge b < x < d]\quad \Longleftrightarrow\quad a < c\wedge a < d\wedge b < c\wedge b < d\]について:

$\Longleftrightarrow$の左辺の$\exists x[\ldots]$の中身を「$a < x\wedge b < x$」かつ「$x < c\wedge x < d$」というふうに分けて考えると、前者は${\rm max}\{a,b\} < x$、後者は$x < {\rm min}\{c, d\}$とまとめることができます。したがって左辺全体では\[\exists x[{\rm max}\{a,b\} < x < {\rm min}\{c, d\}]\]となります。いっぽう右辺は${\rm max}\{a,b\} < {\rm min}\{c, d\}$とまとめることができ(要確認)、これらは前項で学んだ事実から同値となります。

●p51、Theme 2について:

・(1)~(4)のケースの包含関係を、次のような三角オイラー図で表したとき、各ケースはどれに相当するでしょうか。また、テキストで挙げられている反例はどの領域に属すでしょうか。

・$f$の値域を${\rm ran}(f)$と書くことにし、これと区間$(-\infty, M]$($M$以下の実数全体)との包含関係を考えます。
(i)${\rm ran}(f)\subseteq (-\infty, M]$
(ii)${\rm ran}(f)\supseteq (-\infty, M]$
(iii)${\rm ran}(f)=(-\infty, M]$
に相当する条件は(1)~(4)のどれでしょうか。

20220622輪講のノート

『ろんりの相談室』問題13.5(1)

$左辺\subseteq 右辺$を示すため、$x\in A\cap\bigcup\mathcal{B}$を任意にとり、$x\in\bigcup\{A\cap B\mid B\in\mathcal{B}\}$を導く。$x\in\bigcup\mathcal{B}$から、$x\in B_0$なる$B_0\in\mathcal{B}$がとれる。これと$x\in A$により$x\in A\cap B_0$である。したがって$\exists B\in\mathcal{B}[x\in A\cap B]$すなわち$x\in\bigcup\{A\cap B\mid B\in\mathcal{B}\}$が成り立つ。

(6/23追加)
$左辺\supseteq 右辺$を示すため、$x\in\bigcup\{A\cap B\mid B\in\mathcal{B}\}$を任意にとり、$x\in A\cap\bigcup\mathcal{B}$を導く。仮定により$x\in A\cap B_1$なる$B_1\in\mathcal{B}$がとれる。したがってまず$x\in A$である。また$x\in B_1$から$\exists B\in\mathcal{B}[x\in B]$すなわち$x\in\bigcup\mathcal{B}$となる。

(6/30追加)
問題13.5(2)
$左辺\subseteq 右辺$を示すため、$x\in A\cup\bigcap\mathcal{B}$を任意にとり、$x\in\bigcap\{A\cup B\mid B\in\mathcal{B}\}$を導く。そのために、さらに$B\in\mathcal{B}$を任意にとり、$x\in A\cup B$を導く。最初の仮定から$x\in A$と$x\in\bigcap\mathcal{B}$の少なくとも一方が成り立つが、前者のときは直ちに、後者のときも$x\in B$から、いずれにせよ$x\in A\cup B$が従う。

$左辺\supseteq 右辺$を示すため、$x\in\bigcap\{A\cup B\mid B\in\mathcal{B}\}$を任意にとり、$x\in A\cup\bigcap\mathcal{B}$を導く。$x\in A$のときは直ちに導かれるので、以下では$x\notin A$とする。$B\in\mathcal{B}$を任意にとると、仮定により$x\in A\cup B$であり、いま$x\notin A$であるので$x\in B$である。以上により$x\in\bigcap\mathcal{B}$だから$x\in A\cup\bigcap\mathcal{B}$でもある。

20220601輪講のノート

●次の数列$a_n$($n=1,2,3,\cdots$)\[n\mapsto\left\{\begin{array}{ll}1&(n=1,10,100,\ldotsのとき)\\1/n&(それ以外のとき)\end{array}\right.\]は$0$に収束しない(つまり、$n$を限りなく大きくしても$0$には限りなく近づかない)ことを$\epsilon N$論法を用いて説明してください。すなわち\[\exists\epsilon > 0\forall N\in\mathbb{N}\exists n\in\mathbb{N}[n\geq N\wedge |a_n-0|\geq\epsilon]\]が成り立つことを示してください。(ヒント:$\exists\epsilon > 0$という命題を証明したいので、何か具体的な正の実数$\epsilon$について$\forall N\in\mathbb{N}$以下が成り立つことを言えばよい。)

●数列の収束先の一意性証明:$|a-a'|=t > 0$と仮定して矛盾を導く。「$n\to\infty$のとき$a_n\to a$」から、$|a_{N_0以降}-a| < t/2$なる$N_0$がとれる。同様に$|a_{N_1以降}-a'| < t/2$なる$N_1$がとれる。$N={\rm max}\{N_0,N_1\}$とすると$|a_N-a| < t/2$かつ$|a_N-a'| < t/2$である。すると$|a-a'|\leq|a_N-a|+|a_N-a'|<(t/2)+(t/2)=t$つまり$t < t$となって矛盾する。

|N|=|Q|

$0$でない有理数$q$は既約分数$m_q/n_q$(ただし$m_q$は$0$以外の整数、$n_q$は正の整数)という形で一意に表すことができ、$q$の正負と$m_q$の正負は一致する。

$g:\mathbb{Q}\to\mathbb{N}$を次のように定義する。\[g(q)=\left\{\begin{array}{ll}2^{m_q}\cdot3^{n_q}&\mbox{($q > 0$のとき)}\\0&\mbox{($q=0$のとき)}\\5^{-m_q}\cdot3^{n_q}&\mbox{($q < 0$のとき)}\end{array}\right.\]

$g$が単射であることを示すために、$g(q)=g(q')$なる任意の$q,q'\in\mathbb{N}$をとって$q=q'$を導く。上記の指数部はいずれも$1$以上の整数であるから、素因数分解の一意性などにより、$g$の値が場合分けを越えて重複することはない。いま$g(q)=g(q')$であるから、$q,q'$の符号($-/0/+$)は一致する。$q=q'=0$のときは直ちに、それ以外のときは素因数分解の一意性から$(m_q,n_q)=(m_{q'},n_{q'})$ゆえ$q=q'$が従う。