「超限帰納法抜きで選択公理からZornの補題を証明してみた」の証明について

※このエントリには誤りが含まれています。「鎖\(C\)に属さない\(p\)が\(C\)の上界でない」ことから、「\(C\)は\(p\)より大きい要素を持つ」としてしまいました。実際には\(C\)が\(p\)と比較不能な要素を持つケースもあります。修正を検討中です。

※反例がありました:\(c_1 < c_3\)で、\(c_2\)が\(c_1,c_3\)のいずれとも比較不能であるとき、\(C_1=\{c_1\},C_2=\{c_2\},C_3=\{c_3\}\)について、\(C_1\sim^*C_2\)かつ\(C_2\sim^*C_3\)であるにも関わらず\(C_1\sim^*C_3\)でない、すなわち\(\sim^*\)は推移的でない。このため、本エントリの記述はすべて意味を失いました。なお、次エントリの証明で類似の議論を行なっている箇所では、単一の鎖の中での議論なので問題は生じません。

縫田光司さんによる http://www2u.biglobe.ne.jp/~nuida/m/doc/ACtoZorn_ja_v2.pdf において導入される同値関係\(\sim\)がややイメージしづらかったので、より分かりやすい表現で置き換えることを試みた。

【定義】半順序集合\((X, < )\)における鎖\(C_1,C_2\)について、関係\(C_1\sim^{*} C_2\)を「\(C_1\backslash C_2\)は\(C_2\)の上界を持たず、\(C_2\backslash C_1\)は\(C_1\)の上界を持たない」と定める。

【定理1】関係\(\sim^{*}\)は同値関係である。

(証明)反射性・対称性については省略し、推移性を示す。\(C_1\sim^{*} C_2\)かつ\(C_2\sim^{*} C_3\)だが\(C_1\sim^{*} C_3\)でないような鎖\(C_1,C_2,C_3\)が存在すると仮定して矛盾を導く。
\(C_1\backslash C_3\)が\(C_3\)の上界を持つと仮定して矛盾が得られれば、\(C_3\backslash C_1\)が\(C_1\)の上界を持つ場合についても全く同様に示すことができる。
\(C_2\sim^{*} C_3\)により、\(C_3\)の上界は\(C_2\backslash C_3\)には属さないから、\(C_1\backslash(C_2\cup C_3)\)が\(C_3\)の上界を持つ。そのひとつを\(p\)とする。\(C_1\sim^{*} C_2\)により、\(p\in C_1\backslash C_2\)は\(C_2\)の上界たり得ない。したがって\(p < q\in C_2\)なる\(q\)が存在する。\(q\in C_3\)とすると\(p\)が\(C_3\)の上界であることに反し、かといって\(q\notin C_3\)とすると\(C_2\backslash C_3\)が\(C_3\)の上界\(q\)を持つことになり、\(C_2\sim^{*} C_3\)に反する。■

【定理2】\(X\)における鎖\(C_1,C_2\)が\(C_1\sim^{*} C_2\)を満たすとき、\(U_{C_1}=U_{C_2}\)である。

(証明)\(x\in U_{C_1}\)と仮定して\(x\in U_{C_2}\)を導く。\(x\notin C_1\)であり、また\(C_1\sim^{*} C_2\)から\(x\notin C_2\backslash C_1\)である。したがって\(x\notin C_2\)である。あとは\(x\)が\(C_2\)の上界であることを示せばよいが、そのために\(x < y\in C_2\)なる\(y\)が存在すると仮定して矛盾を導く。\(y\in C_1\)とすると\(x\)が\(C_1\)の上界であることに反し、かといって\(y\notin C_1\)とすると\(C_2\backslash C_1\)が\(C_1\)の上界\(y\)を持つことになり、\(C_1\sim^{*} C_2\)に反する。以上により\(U_{C_1}\subseteq U_{C_2}\)である。全く同様にして\(U_{C_2}\subseteq U_{C_1}\)も得られる。■

定理1・2により、\(\sim\)と同様に\(\sim^{*}\)を用いて同値類や選択関数\(f\)を定めることができる。補題3の証明中で示された\(s_C(d)\sim C'\)は、実際には\(s_C(d)\sim_{\rm pre} C'\)が成り立つことまで示されており、\(\sim_{\rm pre}\)は\(\sim^{*}\)の特別な場合であるから、\(s_C(d)\sim^{*} C'\)も示されていることになる。したがって補題4以降の証明もそのまま成立する。