順序完備でない全順序には、開区間だが基本開区間でないものが存在する

齋藤正彦『数学の基礎』p34、第1章§3問題7の解答。テキストの解答のように2段階で集合を構成する必要はないのではないか?という疑問を持っている。

補題1】全順序集合において、空でなく下に有界な基本開区間は下限を持つ。
(証明)\(I\)は全順序集合\( (X, < )\)の空でない基本開区間であり、下界を持つと仮定する。以下では「\(I\)の下界\(\gamma\)が\(I\)に属すならば、\(\gamma\)は\(I\)の最小元であり、下限でもある」という事実を頻繁に用いる。
(1)\(I=\{x\in X\mid a < x\}\)(\(a\in X\))のとき:\(I\)は\(a\)を下界に持つ。
(1-ア)\(a\)よりも大きい下界が存在しないとき:\(a\)が下限となる。
(1-イ)\(a\)よりも大きい下界\(\gamma\)が存在するとき:\(\gamma\in I\)だから\(\gamma\)は\(I\)の最小元・下限である。
(2)\(I=\{x\in X\mid a < x < b\}\)(\(a,b\in X\))のとき:\(I\)は\(a\)を下界に持つ。
(2-ア)\(a\)よりも大きい下界が存在しないとき:\(a\)が下限となる。
(2-イ)\(a\)よりも大きい下界\(\gamma\)が存在するとき:\(I(\neq\varnothing)\)の要素をひとつとって\(c\)とすれば\(a < \gamma\leq c < b\)が成り立つから\(\gamma\in I\)である。
(3)\(I=\{x\in X\mid x < b\}\)(\(b\in X\))のとき:\(I\)の下界のひとつを\(\gamma\)とすると、(2-イ)同様に\(c\in I\)に対し\(\gamma\leq c < b\)から\(\gamma\in I\)である。
(4)\(I=X\)のとき:\(I\)の下界のひとつを\(\gamma\)とすると\(\gamma\in X=I\)である。■

全順序集合\( (X, < )\)とその部分集合\(A\)に対し、\[A^ < =\{x\in X\mid\exists a\in A[a < x]\}=\bigcup_{a\in A}\{x\in X\mid a < x\}\]とする。

補題2】\(A^ < \)は開区間である。
(証明)定義によってすでに\(A^ < \)は基本開区間の合併で表されているので、あとは\(A^ < \)が区間をなすことを示す。\(p,r\in A^ < ,q\in X,p < q < r\)と仮定すると、\(p' < p\)なる\(p'\in A\)が存在し、\(p' < p < q\)から\(q\in A^ < \)である。■

【定理】順序完備でない全順序集合には、開区間だが基本開区間でないものが存在する。

(証明)\( (X, < )\)を順序完備でない全順序集合とする。\(X\)の部分集合で、下に有界であるが下限をもたない非空集合\(A\)が存在する。\(a\in A\)とすると、\(A\)は最小元を持たないから\(a' < a\)なる\(a'\in A\)が存在し、\(a\in A^ < \)である。したがって\(A\subseteq A^ < \)だから、\(A^ < \)の下界は\(A\)の下界でもある。逆に\(m\in X\)が\(A\)の下界であるとする。任意の\(b\in A^ < \)に対し\(b' < b\)なる\(b'\in A\)が存在し、\(m\leq b' < b\)となるから、\(m\)は\(A^ < \)の下界でもある。以上により、\(A\)と\(A^ < \)の下界の集合は一致するから、\(A^ < \)もまた下に有界だが下限を持たない。これと\(A^ <(\supseteq A)\neq\varnothing\)および補題1から\(A^ <\)は基本開区間ではなく、しかし補題2から開区間である。■