『チャート式 大学教養 微分積分』ノート(随時更新)

●公式の正誤表(初版用)はこちら:https://www.chart.co.jp/goods/item/contents/41750.html
――この記事では初版に対して記述するが、公式正誤表にある誤りについては言及しない。ただし、最新の版では正誤表にない修正も加えられているので、その箇所は言及する。

●本書に合わせて、自然数に\(0\)は属さないものとする。

●「\(a_{N以降}\)は」という表記は「\(n\geq N\)なるすべての自然数\(n\)について、\(a_n\)は」の略記である。

●全体について
――姉妹書『大学教養 微分積分』の著者である加藤文元先生は、本書においては「監修者」である。本書は姉妹書の演習書という位置づけであるが、編著者は「数研出版編集部」である。

●第1章第1節について
――タイトルは「実数の連続性」であるが、本書のこの節だけを読んでも「実数の連続性とは何か」、それ自体については学べない。このタイトルは姉妹書の当該ページとの対応を表すものだと考えればよい。

●基本例題001
――CHARTを利用してもよいが、まずは上界・下界の定義に従って判定できたほうがよい。例えば\(-2.1\)が\(S=(-2,3]\)の下界であるかどうかは、「すべての\(x\in S\)について\(-2.1\leq x\)である」かどうかによる。いま\(-2.1 < -2 < x\)であるので、これは成り立つ。また\(2.9\)が\(S\)の上界であるかどうかは、「すべての\(x\in S\)について\(x\leq 2.9\)である」かどうかによる。ところが\(2.9 < 3\in S\)である(\(3\)という反例がある)ので、これは成り立たない。反例は\(2.900001\)などでもよい。

CHARTの命題は姉妹書でも証明されておらず、心置きなく使いたければ自分で証明してみる必要がある。

完備とは限らない順序体を議論領域とする(つまり\(\mathbb{R}\)のみならず\(\mathbb{Q}\)などでも以下の議論は通用する)。\(p < q\)とし、区間\( (p,q), (p,q],[p,q),[p,q]\)についてまとめて考える。

(命題)\(p\)(\(q\))は上記4区間の下限(上限)である。

(証明)順序体の元\(s\)が「これらの区間の下界(上界)であること」と「\(p\)以下である(\(q\)以上である)こと」とが同値であることを示せばよい。
(\(\Leftarrow\);CHARTの命題)\(s\leq p\)のとき、任意の\(x\in[p,q]\)について\(s\leq p\leq x\)が成り立つので\(s\)は\([p,q]\)の下界である。上記4区間はすべて\([p,q]\)に包含されるので、\(s\)はこれらすべての下界となる。
(\(\Leftarrow\)の裏)\(p < s\)のとき、\(s > (p+\min\{q,s\})/2\in(p,q)\)により、\(s\)は\( (p,q)\)の下界ではない。上記4区間はすべて\( (p,q)\)を包含するので、\(s\)はこれらのいずれの下界でもない。
以上により、\(p\)は上記4区間の下限である。\(q\)が上限であることについても同様である。■

●基本例題002
――「解答」では問題文で問われた順序のとおりに「有界かどうか」を先に述べてから上界・下界の具体例を挙げている。実際に取り組む際には「このような上界(下界)がある。したがって上に(下に)有界である」という順序で考えればよい。

――\(A\)の「偶数全体が\(\mathbb{R}\)において有界でない」ことの根拠をさらに問われれば、「\(\mathbb{R}\)において偶数全体は上界を持たない、または下界を持たない」ことを言えばよい。実際にはいずれも持たないが、例えば「上界を持たない」のほうは「いかなる偶数をも下回らないような(単一の)実数は存在しない」、あるいは「どんな実数に対しても、それより大きい偶数が(そのつど)存在する」と言い換えられる。これらは確かに正しいが、「さらにその根拠は?」と問われれば、実数のアルキメデス性の議論などに踏み込んで行くことになる。

――「指針」の「\(B\)の要素は有理数であるが、上界・下界とも\(B\)に属している必要はない」について:上界・下界がその集合に属している必要がないのは当然であり、特に属しているときは最大元・最小元と呼ばれる。ここは「上界・下界とも有理数である必要はない」という意図だったのかもしれない。そもそも上界・下界の概念は台集合を定めて初めて意味をなすのであり、ここでは暗黙に台集合を\(\mathbb{R}\)としているのだとみなせば、確かに有理数である必要はない。もちろん台集合を\(\mathbb{Q}\)とするのであれば、上界の例として\(\sqrt{2}\)を挙げるのは不適切である。

●基本例題003
――上界・下界の定義に関わらず、「\(S\)は上に有界である」とは「\(S\)の上界が存在する」という意味なので、これはただちに\(U(S)\neq\varnothing\)と同値であることが分かる。「解答」のように証明しても構わないが、あまりに明らかな感がある。姉妹書で「練習」として課されている問題はすべて扱う方針のようなので仕方ないのかもしれない。

――「解答」の第2傍注について:「\(S\)に属するすべての数\(x\)について\(x\leq a\)」が成り立つような実数\(a\)の全体を\(U(S)\)と表しているのであり、「」内の途中で(1)(2)に分かれていることに注意。

●基本例題004
――\(B^*=\{x\mid x<\sqrt{2},x\in\mathbb{R}\}\)とすると\(B=B^*\cap\mathbb{Q}\)であるが、台集合を\(\mathbb{R}\)で考える限り\(U(B)\)も\(U(B^*)\)も同じ集合になる。\(\sqrt{2}\)は\(B^*\)のみならず\(B\)に対しても上限となっている。これは「\(\sqrt{2}\)より少しでも小さい実数には、必ずそれより大きい\(B\)の要素が存在する」という事実によっており、\(\mathbb{R}\)における\(\mathbb{Q}\)の稠密性から導かれる。

●基本例題005
――一般の順序集合では、その部分集合が上界(下界)を持つからと言って上限(下限)を持つとは限らない。「上界(下界)を持つ非空集合は必ず上限(下限)を持つ」という性質こそが「実数の連続性(完備性)」である。この例題は基本例題004が解けていればほぼ終了している。

●基本例題006
――数直線を見るとスンナリ納得してしまいそうになるが、きちんと論証しておく。順序集合の任意の部分集合\(S\)について、\[S\subseteq[c,d]\Leftrightarrow\forall x\in S[c\leq x\leq d]\]であるから、「閉区間\([c,d]\)に包含される」とは「\(c, d\)をそれぞれ下界・上界に持つ」を言い換えたものにほかならない。いま\( (a,b)\subseteq[c,d]\)であるので\(c,d\)はそれぞれ\( (a,b)\)の下界・上界である。\(a,b\)はそれぞれ\( (a,b)\)の下限(最大下界)・上限(最小上界)であるから(※これは基本例題001のノートで証明した)、\(c\leq a\)かつ\(b\leq d\)である。

●基本例題007
――例えば(1)の\(1\leq 3-(2/n) < 3\)は、それのみでは単に「不等式が成立している」、つまり「\(A\)の値域が区間\([1,3)\)に包含されている」という内容しか持たない。上限が\(3\)であることを言うには、「\(3\)が上界であること」と「\(3\)より少しでも小さいものは上界でないこと」を言う必要があり、上の不等式から分かるのは前者だけである。後者については\(\epsilon > 0\)に対して\(2/\epsilon\)より大きい\(n\)をとれば\(3-\epsilon < 3-(2/n)\)となることから従う。下限が\(1\)であることを言うには、「\(1\)が下界であること」と「\(1\)より少しでも大きいものは下界でないこと」を言う必要があるが、前者は同じ不等式によって、後者は\(1\in A\)から従う。傍注はこの点を補足するための記述であると思われるが、上限・下限の定義に戻って考えればよい。

●基本例題008
――「(1)\(|\sqrt{2} - a| < 0.001\)、(2)\(a\in(\pi,\pi+0.01)\)を満たす有理数\(a\)をそれぞれひとつ求めよ。ただし\(1.4142 < \sqrt{2} < 1.4143\)と\(3.141 < \pi < 3.142\)を用いてよい。」という問題である。与えられた不等式は\(|\sqrt{2}-1.41425| < 0.00005\)および\(3.142\in(\pi,\pi+0.001)\)と変形できるので、(1)は要求の\(20\)倍、(2)は\(10\)倍の精度で答えることができる。

●基本例題009
――初版の「指針」では「ここでは数列の収束、発散についてのみ問われているから、\(\epsilon\)-\(N\)論法は必要ない。」と書かれていたが、最新の版では「から、\(\epsilon\)-\(N\)論法は必要ない。」の文言は削除されている。意図としては「収束性の判定には厳密には\(\epsilon\)-\(N\)論法を要するが、まだ学んでいなかったとしても、ここでは高校数学の復習のつもりで結論だけでも解答してみよう」という程度に取っておけばよいと思われる。以下、アルキメデスの原理に立ち返って\(\epsilon\)-\(N\)論法で示してみる。

(1)任意の実数\(a\)をとると、アルキメデスの原理により\(5N > 2-a\)なる自然数\(N\)をとることができ、\(N\)以上のすべての自然数\(n\)について\(2-5n\leq2-5N < a\)が成立する。したがって数列\(2-5n\)は負の無限大に発散する。

(2)任意の実数\(\epsilon > 0\)をとると、アルキメデスの原理により\(\epsilon N > 1/3\)なる自然数\(N\)をとることができ、\(N\)以上のすべての自然数\(n\)について\(0 < 1/(3n)\leq1/(3N)<\epsilon\)となる。したがって数列\(1/(3n)\)は\(0\)に収束する。

(3)任意の実数\(b\)をとると、アルキメデスの原理により\(N > b^2-1\)なる自然数\(N\)をとることができ、\(N\)以上のすべての自然数\(n\)について\(\sqrt{n+1}\geq\sqrt{N+1} > |b|\geq b\)となる。したがって数列\(\sqrt{n+1}\)は正の無限大に発散する。

(4)任意の実数\(\epsilon > 0\)をとると、アルキメデスの原理により\(\epsilon N > 1\)なる自然数\(N\)をとることができ、\(N\)以上のすべての自然数\(n\)について\(|(-1)^{n+1}(1/n)|=1/n\leq 1/N < \epsilon\)となる。したがって数列\( (-1)^{n+1}(1/n)\)は\(0\)に収束する。

なお、(2)の「\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1}{3}\cdot\frac{1}{n}=0\)と変形する」は不要である。

●基本例題010
――姉妹書の該当箇所ではすでに「定理2-1、数列の極限の性質」として、この例題を解くための根拠となる定理が提示されているが、証明はまだ行われていない。実質的には高校数学の復習になるが、これらの定理を暗黙に用いていたということを認識しながら解くとよい。ただし、(4)に関しては定理2-1の性質を使うだけでは極限を求めることができない。「非負数列\(a_n\)に対して\(a_n^2\to\alpha\)のとき\(a_n\to\sqrt{\alpha}\)」という事実が必要となるが、これは基本例題013で証明される。

●基本例題011
――与えられた\(\epsilon\)に対して適切な\(N\)を挙げる際には、\(N\)は充分大きければよいのであって、ギリギリのものを持ってくる必要はない。例えば\(n\geq 10000\)のとき\(|n/(n+1)-1|=1/(n+1)\leq1/10001 < 0.001\)であるから、\(\epsilon=0.001\)に対しては\(N\)として\(10000\)をとればよい。一般の\(\epsilon > 0\)に対しても\(10/\epsilon\)程度の\(N\)をとれば明らかに充分である。
 とはいえ、どこから大丈夫になるのかのラインも興味深いところである。\(|a_n-1| < \epsilon\)を同値変形すると\(n+1 > 1/\epsilon\Leftrightarrow n+1 >[1/\epsilon]\Leftrightarrow n\geq [1/\epsilon]\)となる。整数に関する限り、「実数\(\alpha\)を超えること」と「\([\alpha]\)を超えること」とは同値であることに注意。テキストの\([1/\epsilon-1]+1\)は\([1/\epsilon]\)と等しい。
 \(\epsilon=0.001\)の例に戻ると\(a_{999}=1/1000\)は「ギリギリアウト」ということになるが、それは本書や姉妹書の\(\epsilon\)-\(N\)論法がたまたま\(|a_n - \alpha| < \epsilon\)という流儀をとっているからであり、この不等号は「\(\leq\)」でも構わないので、「\(a_{999}\)は良くて\(a_{1000}\)はダメ」という違いにはあまり意味がない。

●基本例題012
――「指針」ではすべてを\(\lim_{n\to\infty}(1/n)=0\)に帰着させているので、あとはアルキメデスの原理からこれを導けば論理的には事足りるが、続く「解答」では(1)(2)(3)に対してアルキメデスの原理を個別に適用している。なお、はさみうちの原理は(アルキメデス的でなくても)すべての順序体において成立する。

●基本例題013
――あえて「親切さ」を考慮せずに純粋な解答として成立するものを以下に示す。

(解答)問題文のヒントにより\(\alpha\geq0\)であることを用いる。
\(\alpha = 0\)のとき:任意の\(\epsilon > 0\)をとる。\(\epsilon^2 > 0\)と\(a_n^{\ 2}\to0\)から、\(|a_{N以降}^{\ 2}| < \epsilon^2\)なる自然数\(N\)がとれる。この\(N\)に対し\(|a_{N以降}| < \epsilon\)が成り立つから、\(a_n\to0\)である。
\(\alpha > 0\)のとき:\(0 < \epsilon < \sqrt{\alpha}\)なる任意の\(\epsilon\)をとる。\(\sqrt{\alpha}\ \epsilon > 0\)と\(a_n^{\ 2}\to\alpha\)から、\(\alpha-\sqrt{\alpha}\ \epsilon < a_{N以降}^{\ 2} < \alpha+\sqrt{\alpha}\ \epsilon\)なる自然数\(N\)がとれる。\( (\sqrt{\alpha}-\epsilon)^2\leq\sqrt{\alpha}(\sqrt{\alpha}-\epsilon)=\alpha-\sqrt{\alpha}\ \epsilon\)などを考慮すると\((\sqrt{\alpha}-\epsilon)^2 < a_{N以降}^{\ 2} < (\sqrt{\alpha}+\epsilon)^2\) が成り立ち、各辺の「\(2\)乗の中身」は非負であることに注意すれば\(\sqrt{\alpha}-\epsilon < a_{N以降} < \sqrt{\alpha}+\epsilon\)、したがって\(a_n\to\sqrt{\alpha}\)である。■

――「指針」の下から7行目の「よって、」は最新の版では削除されている。

――公式正誤表の「\(0\leq a_n < \epsilon\)」→「\(-\epsilon\leq a_n < \epsilon\)」の意図は不明。

●基本例題014
(正誤表の更新により、以下のコメントは古いものとなります)
――(3)の[1][2]内、「すなわち、\(n\geq N\)であるすべての自然数\(n\)について」の「自然数」は、それぞれ「偶数」と「奇数」に直して読む。

――(2)(3)の「ところが、(中略)無数に存在する」という箇所の論理は、\(|a_{N以降} - \alpha| < \epsilon\)の対偶、すなわち\[|a_n-\alpha|\geq\epsilon\Longrightarrow n < N\]を用いている。\(n < N\)なる自然数は有限個しかないから、\(|a_n-\alpha|\geq\epsilon\)を満たす項が無限個あっては矛盾する。\(\epsilon\)-\(N\)論法は「\(a_n\)は有限個を除いて\(\alpha\)から\(\epsilon\)未満に収まる」、つまり「\(a_n\)のうち\(\alpha\)から\(\epsilon\)以上はずれる項は有限個である」とも言い換えられるので、こちらで考えれば理解しやすいと思われる。

――(3)では\(n\)の偶奇の両方で矛盾することを述べているが、これは一方のみで充分である。そもそも場合分けが馴染まない文脈であり、\(|a_{N以降} - \alpha| < \epsilon\)から、【特に】任意の偶数\(n\geq N\)に対し\(|a_n - \alpha| = |n-\alpha|< \epsilon\)が成り立つ、というだけである。その対偶は「\(|n-\alpha|\geq \epsilon\)を満たす任意の偶数\(n\)について\(n < N\)」であり、上述のとおり矛盾する。

――以上のように「解答」の証明はさまざまな問題を抱えているが、最大限好意的に解釈して修正するとすれば次のようになる:数列\((-1)^n\ n\)が実数\(\alpha\)に収束すると仮定し、任意の実数\(\epsilon > 0\)をとると、\(|(-1)^n\ n-\alpha|\geq\epsilon\)となる\(n\)は高々有限個であり、そのうち偶数のもの、つまり\(|n-\alpha|\geq\epsilon\)を満たす偶数\(n\)も高々有限個である。しかし実際にはこの不等式を満たす偶数は無限個あるから矛盾である。■

――正誤表にある解答は(1)(2)(3)ともに共通の方法を用いている:(1)(2)(3)の各数列を\(a_n\)とおく。任意の実数\(\alpha\)と任意の自然数\(N\)をとると、\(a_N,a_{N+1}\)の少なくとも一方は\(\alpha\)から\(|a_{N+1}-a_N|/2\)(その値は(1)\(1/2\)、(2)\(1\)、(3)\(N+1/2\))以上離れている(さもないと三角不等式に反する)。つまり\(N\)がどんなに大きくとも\(a_N\)以降に\(\alpha\)との差が一定値以上の項が見つかるから、数列(1)(2)(3)はいかなる値にも収束しない。■

●基本例題015
――(1)(3)の数列は振動するが、それを示すためには「収束せず、しかも正の無限大にも負の無限大にも発散しない」ことを言えばよい。収束しないことは前問で見たので、ここでは正負の無限大に発散しないことを示す。任意の自然数\(N\)をとると、\(a_N, a_{N+1}\)の一方は正、他方は負である。つまり、\(N\)がどんなに大きくとも、\(a_N\)以降に\(0\)以下の項が見つかってしまうので、数列\(a_n\)は正の無限大に発散しない。同様に、\(N\)がどんなに大きくとも、\(a_N\)以降に\(0\)以上の項が見つかってしまうので、数列\(a_n\)は負の無限大に発散しない。

――「解答」(1)を表面的に読むだけでは「\(-1/2\)と\(1/2\)を往復するから、数列は振動する」という程度の理解にとどまってしまう恐れがあるが、発散の定義に従って考えるべきである。

●基本例題016
――(1)の後半は「任意の実数\(m\)をとると、アルキメデスの原理により\(2N > 1-m\)なる自然数\(N\)がとれる。すると\(1-2N < m\)となるから、この数列は下に有界でない」としてもよい。

――(1)の「解答」にある「また、\(m=1-2n\)とすると\(n=(1-m)/2\)」のような、「どこからその式が出たのか」という情報は、数学の論証としては必要ではない。

――(3)は「\(0 < n < n+1\)の各辺を\(n+1( > 0)\)で割ると\(0 < n/(n+1) < 1\)」としてもよい。

――「検討」を言い換えると、「上に(下に)有界であることを示すには、上界(下界)をひとつ見つければ充分であり、必ずしも最小上界(最大下界)を提示しなくてもよい」ということ。

●基本例題017
――この命題は姉妹書の定理2-6を弱めた命題になっており、しかも同定理の証明における補題の役割も果たしている。姉妹書では出題されていない問であるが、ぜひ取り組んでおきたい。

――この命題を言い換えると「上(下)に有界な収束列の極限値は上界以下(下界以上)」となる。極限値が少しでも上界を上回る(下界を下回る)と、数列が上界(下界)に阻まれて極限値に寄り付けなくなってしまう。

――「解答」と同じように対偶を証明する方針をとれば、姉妹書の定理2-6の証明も簡潔になる:\(b < \alpha\)と仮定すると、\(b < a_{N以降} < \alpha\)となる自然数\(N\)がとれる。すると\(a_n\leq b\)を満たす自然数\(n\)は\(N\)未満のため有限個である。 ■

●基本例題018
――ここでの「次のことを利用して」とは「天下りに認めて」という意味ではなく、「問題文の仮定から導かれることであるが、それらを用いるというヒントに従って」ということである。(i)は\(b_n\to\beta\)の定義そのもの、(ii)は\(\beta\neq0\)すなわち\(|\beta| > 0\)から\(\epsilon\)-\(N\)論法における\(\epsilon\)として\(|\beta|/2\)を選ぶことができることから従う。

――\(|b_{N_1以降}-\beta| < |\beta/2|\)の両辺を\(|b_{N_1以降}| > 0\)で割り、\(\beta/(2b_{N_1以降})\)についての不等式と見て解くと\(1/3 <\beta/(2b_{N_1以降}) < 1\)となる。同値変形としてはこうなるが、ここでは評価のために\(|\beta/(2b_{N_1以降})| < 1\)ということだけを用いている。

――\(|b_{N以降}-\beta| < (|\beta|^2/2)\epsilon\)の両辺を\(|b_{N以降}\cdot\beta| > 0\)で割ると\(|1/b_{N以降}-1/ \beta| < |\beta/(2b_{N以降})|\epsilon < 1\cdot\epsilon\)となる、と考えてもよい。

●基本例題019
――(1)の「解答」ではすべての項が正であることだけを帰納法(の簡易版)で示しており、本題は\(a_2\)以降と\(a_1\)とに場合分けしている。帰納法で本題を直接示すこともできる:まず\(a_1=2\geq\sqrt{2}\)である。任意の自然数\(k\)をとり、\(a_k\geq\sqrt{2}\)を仮定して\(a_{k+1}\geq\sqrt{2}\)を導く。\(a_k\)は正ゆえ\(2/a_k\)も正であり、相加平均と相乗平均の関係から\(a_{k+1}=(1/2)(a_k+2/a_k)\geq\sqrt{a_k\cdot 2/a_k}=\sqrt{2}\)である。■

――「相加平均」の原義を考えると「\(\cdots\geq(1/2)\cdot2\sqrt{\cdots}\)」の\((1/2)\cdot2\)は不要にも思われる。

――(2)は「\(a_n\geq\sqrt{2}\)より\(1/a_n\leq1/\sqrt{2}\leq a_n/2\)、したがって\(a_{n+1}-a_n=1/a_n-a_n/2\leq0\)」と考えてもよい。

――(1)(2)により、この数列は\(\sqrt{2}\)以上の何らかの値に収束することが確実であるが、ちょうど\(\sqrt{2}\)に収束することまでは言えていない。(3)ではそれを示しており、その中で(1)を用いているが(2)は特に必要ない。

――(3)は「\(a_n\geq\sqrt{2}\)より\( (a_{n+1}-\sqrt{2})-(a_n-\sqrt{2})/2=1/a_n-1/\sqrt{2}\leq0\)」と考えてもよい。ちなみに、この結果は(2)も含意している。

――誘導に従わずに\(0 < a_n-\sqrt{2}\leq (2-\sqrt{2})/2^{n-1}\)を帰納法で示す方法もある:まず\(0 < a_1-\sqrt{2}=2-\sqrt{2}\)である。任意の自然数\(k\)をとり、\(0 < a_k-\sqrt{2}\leq(2-\sqrt{2})/2^{k -1}\)を仮定して\(0 < a_{k+1}-\sqrt{2}\leq(2-\sqrt{2})/2^k\)を導く。仮定の不等式と\(0 < a_k-\sqrt{2} < a_k\)を辺々乗じて\(2a_k > 0\)で割ると\(0 < (a_k-\sqrt{2})^2/(2a_k) < (2-\sqrt{2})/2^k\)、この中辺は\(a_{k+1}-\sqrt{2}\)に等しい。■

――さらに、(1)(2)を用いて次のように解くこともできる:(1)(2)により数列\(a_n\)は\(\sqrt{2}\)以上の値に収束するので、その極限値を\(\alpha\)とおく。数列\(b_n\)を\(b_n=a_{n+1}\)と定義すると\(b_n\to\alpha\)であり、\(b_n=(a_n+2/a_n)/2\)から\(\alpha=(\alpha+2/\alpha)/2\)である。これを満たす\(\alpha\geq\sqrt{2}\)は\(\sqrt{2}\)である。■

●基本例題020
――「指針」にある収束数列の有界性をどこで使っているのか不明。

――「解答」の論理が読み取りにくいので、同じ方針で改めて書いてみる:数列\(a_n\)は\(2 < a_{全項}\ \)なる単調増加数列だから(詳細略)、数列\(b_n=1/a_n\)は\(0 < b_{全項} < 1/2\)なる単調減少数列、言い換えれば「\(0\)を下界に持ち、\(a_1 < 1/2\)を最大値とする単調減少数列」である。したがって実数の連続性により数列\(b_n\)は極限値\(\beta\)(ただし\(0\leq\beta <1/2\))を持つ。いま数列\(c_n\)を\(c_n=b_{n+1}\)で定義すると\(c_n\to\beta\)であり、\(c_n=1/[(1/b_n)^2-2]\)であるから、もしも\(\beta\neq0\)ならば\(\beta=1/[(1/\beta)^2-2]\)が成り立つはずである。しかしこれを満たす\(\beta\)(\(-1\)と\(1/2\))はいずれも上記\(\beta\)の範囲に適さないから\(\beta=0\)である。任意の\(M > 0\)をとると、いま示した\(b_n\to 0\)により、\(0 < b_{N以降} < 1/M\)つまり\(M < a_{N以降}\)を満たす自然数\(N\)がとれるから、数列\(a_n\)は正の無限大に発散する。■

――\(a_{n+1}/a_n=a_n-2/a_n > a-2/a>1\)を用いて直接示す方法もある。

●基本例題021
――(1)の単調増加性は\(0\leq a_{全項} < 2\)を帰納法で先に示しておけば\({a_{n+1}}^2-{a_n}^2=(a_n+2)-{a_n}^2=(2-a_n)(1+a_n) > 0\)と示すこともできる。

――(2)の「解答」の単調増加性の証明では\( (a_{k+1}+1)(a_k+1) > 0\)を暗に用いているが、その根拠への言及がない。

――(2)は\(|a_{全項}-1| < \sqrt{3}\)を帰納法で先に示しておく方法もある(これは上記の問題点も回避する):まず\(|a_1-1|=0 < \sqrt{3}\)である。\(|a_k -1| < \sqrt{3}\)を満たす任意の自然数\(k\)をとり、\(|a_{k+1}-1| < \sqrt{3}\)を導く。\(a_{k+1}=3-1/(a_k+1)\)により\(3-1/(2-\sqrt{3}) < a_{k+1} < 3-1/(2+\sqrt{3})\)、これを整理すればよい。単調増加性については、任意の自然数\(n\)について\(a_{n+1}-a_n=[3-(a_n-1)^2]/(a_n+1) > 0\)となる。■

●重要例題001
「指針(3) 区間\([a,\infty)\)は\(a\leq x\)と同値」
――\(x\in\mathbb{R}\)が「区間\([a,\infty)\)に属すこと」と「\(a\leq x\)を満たすこと」とが同値、つまり\([a,\infty)=\{x\in\mathbb{R}\mid a\leq x\}\)という意味であろう。

――(4)が下に有界でないことは次のように示すこともできる:\(f(x)=-x^2+2x+3\)とおくと、任意の\(b < 3\)に対し\(f(b-3)-b=-(b-3)(b-4) < 0\)すなわち\(f(b-3) < b\)となる。

「指針(5) 上の①~③のいずれにも該当しない」
――いずれにも該当しないからといって上にも下にも有界でないとは限らない。例えば次のように示すことができる:\(f(x)=x^3-1\)とおく。任意の\(b > 0\)に対し\( f(b+1)-b=b^3+3b^2+2b > 0\)すなわち\(f(b+1) > b\)、また任意の\(b < -1\)に対し\(f(b)=b^3-1 < b^3 < b\)である。

●重要例題002
――\(r > 0\)であることは前提として必須ではない。実際には仮定から\(r\geq 0\)が従うが、\(r=0\)の場合を排除する理由はない。

――任意に与えられた\(a,b,r\)(ただし\(a\neq b\))に対してアルキメデスの原理を適用すると考えれば、「任意の\(r\)に対し」という文言は無いほうがよい。

●重要例題003
――「検討」の議論は要するに「\(\mathbb{Q}\)(有理数全体)が減法で閉じている」ということを示している。