20181125集合と位相ゼミの補足

話題の依存関係は「(2)(3)と(4)は独立しており、ともに(1)に依存する。(5)はどの話とも独立している」です。

・(1)→(2)(3)
・(1)→(4)
・(5)

(1):
包含写像と相対位相の関係を整理しておきます。

準備として、包含写像による逆像が一般的にどう書かれるのか、念のため定義に戻って納得しておくことにします。

まず逆像一般の話として、\(f:P\to Q\)による\(B\subseteq Q\)の逆像\(f^{-1}[B]\)を考えたとき、\(f\)が全射でない限り\(B\)は\(f\)の値域外の要素を有するかもしれません。しかし逆像を考える際には、そんなことはいちいち気にせずに定義に従って\(f(x)\in B\)となる\(x\in P\)をすべて集めればよいだけです。例えば2次関数\(\mathbb{R}\to\mathbb{R},x\mapsto x^2\)による\(\{4\}\)の逆像は\(\{2,-2\}\)ですが、\(\{4,-1\}\)の逆像も同じになります。

包含写像\(i:A\to X\)(ただし\(A\subseteq X\))による\(B\subseteq X\)の逆像\(i^{-1}[B]\)は、まず逆像の定義により\(\{x\in A\mid i(x)\in B\}\)と書かれます。いま\(x\in A\)に対し\(i(x)=x\)だから、この集合は\(\{x\in A\mid x\in B\}\)すなわち\(A\cap B\)と書き直されます。上記同様に、\(B\)は\(i\)の値域(すなわち\(i[A]=A\))外の要素を有するかもしれず、その逆像は\(B\)を\(A\)で切り出したものになることが容易に頷けます。

このように\(i^{-1}[\cdot]\)は\(X\)の部分集合を\(A\)でトリミングする作用を持っていると考えられます。いっぽう\(i[\cdot]\)は\(A\)の部分集合をそのまま\(X\)という舞台に載せる役割を果たします。

(2):
この「トリミング」という発想はまさに、部分空間・相対位相の考え方と同一です。そこで、包含写像を用いて相対位相の定義を書き直すことができます。\(X\)に位相\(\mathcal{O}_X\)が入っているとき、\( (X,\mathcal{O}_X)\)から\(A\)に下ろした相対位相\(\mathcal{O}_A^X\)とは、\(X\)の開集合\(O_X\in\mathcal{O}_X\)を各々\(A\)で切り出した\(A\cap O_X=i^{-1}[O_X]\)をすべて集めたものにほかなりません。したがって相対位相は\[\mathcal{O}_A^X=\{i^{-1}[O_X]:O_X\in\mathcal{O}_X\}\]と書くことができます。

(3):
(2)を用いて定理2.13.8を理解するために、写像の連続性について再考しておきます。

集合\(P,Q\)に対し、\(Q\)に入った位相\(\mathcal{O}_Q\)と写像\(f:P\to Q\)を固定し、\(f\)が連続写像であるためには\(P\)にどんな位相\(\mathcal{O}_P\)が入っていればよいかを考えます。「連続」=「開集合の逆像は開」を用いると、この条件は\[\{f^{-1}[O_Q]:O_Q\in\mathcal{O}_Q\}\subseteq\mathcal{O}_P\]と書けます。この左辺はそれ自体が位相をなすことが容易に確かめられ(確かめてください)、「\( (Q,\mathcal{O}_Q)\)の\(f\)による誘導位相」と呼ばれます。すなわち誘導位相は、与えられた終域位相と写像に対して、「その写像を連続にするために始域に入れるべき最弱の位相」と言うことができます。

これと(2)の「包含写像で定義した相対位相」を見比べると、相対位相\(\mathcal{O}_A^X\)は\( (X,\mathcal{O}_X)\)の包含写像による誘導位相であることが分かります。すなわち\(O_A^X\)は包含写像を連続にするために\(A\)に入れるべき最弱の位相です。

(4):
(1)でまとめた\(i^{-1}[\cdot]\)および\(i[\cdot]\)の作用を\(A\)の部分集合に限定して適用すると、集合そのものは変化させずに「\(A\)上で考えるか、\(X\)上で考えるか」だけを渡ることになります。すると、命題2.12.4の「→」は包含写像の開(閉)写像性にほかならず、また「←」は包含写像の連続性によっていることが分かります。以前にこの命題を扱った際、\(A\)が開(閉)集合でなくても「←」は成り立つことを見ましたが、これは「\(A\)が開(閉)集合でなくても包含写像は連続である」という事実に対応します。

(5):
個々の点における写像の連続性の言い換え(命題2.13.4)を用いると、定理2.13.11(連続写像の合成は連続)の証明が簡明になります。多くの教科書では、むしろ「言い換えたあとのほう」を定義として採用していると思います。

(証明)任意の点\(a\in X\)をとる。\( (g\circ f)(a)=g(f(a))\in Z\)の任意の近傍\(V\)をとると、\(g\)の連続性から\(g^{-1}[V]\)は\(f(a)\in Y\)の近傍である。すると\(f\)の連続性から\(f^{-1}[g^{-1}[V]]=(g\circ f)^{-1}[V]\)は\(a\)の近傍である。したがって\(g\circ f\)は\(a\)において連続である。■