雪江『代数学1群論入門』命題1.1.6

雪江明彦『代数学1群論入門』命題1.1.6の証明を書き直してみた。$P$から$Q$への単射が存在することを$P\preceq Q$と書き、$P\preceq Q\preceq P$が成り立つことを「$P,Q$の濃度が等しい」という。自然数$n$とは「$n$未満の自然数全体」のこととし、「集合$C$が有限集合である」とは$C$と濃度の等しい($n\preceq C\preceq n$なる)自然数$n$が存在することをいう。

【命題1.1.6(1)】有限集合とその真部分集合の濃度が等しくなることはない。

(証明)有限集合$B$に対して$B\preceq
A\subsetneq B$なる$A$が存在すると仮定して矛盾を導く。

仮定から、ある自然数$k$に対して下のような単射列が存在する:\[k\xrightarrow{\alpha} B\xrightarrow{\beta} A\xrightarrow{\gamma} B\xrightarrow{\delta} k\]ただし$\gamma$は包含写像とする。$c\in B\backslash A(\neq\varnothing)$とし、写像$h:k+1\to B$を「$k$を$c$に、$k$未満は$\gamma\circ\beta\circ\alpha$と同じようにうつす」と定義すると、これは単射である。すると$\delta\circ h$は$k+1$から$k$への単射となるが、そのような写像は$k$に関わらず存在しないことを帰納法により示す。まず$1$から$0$への写像は存在しない。任意の自然数$n$をとり、$n+2$から$n+1$への単射$s$が存在すると仮定して、$n+1$から$n$への単射を構成する。$n+1$において$s(n+1)$と$n$を入れ換える置換を$t$とすると(もともと$s(n+1)=n$のときは何もしない)、どの$x\in n+1$についても$t(s(x))\in n$となるので、単射$n+1\ni x\mapsto t(s(x))\in n$が得られる。■

【命題1.1.6(2)】$X,Y$は濃度の等しい有限集合、$f$は$X$から$Y$への写像であるとする。$f$が単射であることと全射であることとは同値である。

(証明)$f$を単射とすると、$Y(\preceq X)\preceq f[X]\subseteq Y$と$Y$の有限性により、命題(1)から$f[X]=Y$である。

逆に$f$を全射とする。$Y$の要素$y$ごとに、$f(x)=y$となる$x$がそのつど存在するので、そのひとつを選ぶ写像$g:Y\to X$を考えると、これは単射である。すると$X(\preceq Y)\preceq g[Y]\subseteq X$と$X$の有限性により、命題(1)から$g[Y]=X$となるので$f$は単射である。実際、もしも異なる$a,b\in X$が$f$で同じ値にうつるならば、$a,b$の少なくとも一方は$g[Y]$に属さない。■