『数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数』第4章について

数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数』(結城浩著、SBクリエイティブ)の第4章の後半、アルキメデスの方法の議論の流れを整理したメモ。

4.9節の終盤(p188)で「僕」は

《辺の数を2倍にしたときに、辺の長さを計算する方法》を見つければいい

と言っている。読者はその議論が早速始まると期待するかもしれないが、次の4.10節で「僕」は

今から考えたいのはね、《内接正n角形の一辺の長さ》と、《外接正n角形の一辺の長さ》の関係だよ

と宣言する(p189)。つまり、\(n\)から\(2n\)に渡る前に、先に\(n\)の中で閉じた話が4.11節まで続く。

内接辺\(a\)と外接辺\(a'\)は、両方とも求める必要があるにもかかわらず、ここで「僕」が両者の【関係】に着目した理由ははっきりとは分からないが、一方から他方を機械的に求める方法を得ておけば、以降は片方だけに集中できるという目論見があったのかもしれない。実際、「僕」は\(a'\)を\(a\)で表すことを選び、\(a'=a/p\)という関係を得たが、案の定ユーリから

《\(a\)から\(a'\)を求める方法》なのに、わけわかんない\(p\)が出てきて、それで求まったの?

というツッコミが入る。そこで今度は\(a\)と\(p\)の関係として\(p^2+a^2=1\)が用いられるが、私はてっきりこのあと\(p=\sqrt{1-a^2}\)として\(p\)を消去し、\(a'=a/\sqrt{1-a^2}\)という、誰からも文句の出ない形で《\(a\)から\(a'\)を求める方法》を書き表すのだろうと思っていた。しかし「僕」は反対に\(a\)を\(p\)で表すことを選び、

そう考えれば、\(p\)はとても大切な数だね。\(p\)がわかれば\(a\)もわかる。それから、\(p\)と\(a\)がわかれば\(a'\)もわかるから

と位置づける。つまり、\[\left\{\begin{array}{l}a=\sqrt{1-p^2}\\a'\left(=\frac{a}{p}\right)=\frac{\sqrt{1-p^2}}{p}\end{array}\right.\]というふうに、すべてを\(p\)に帰着させる覚悟を決めたようだ。

そうと決めれば、あとはいよいよ\(n\)から\(2n\)にわたる議論を、\(p\)を中心に据えて展開すればよい。

正\(n\)角形にとっての\(p\)は、正\(2n\)角形にとっての\(q\)なんだよ。

という、この一文こそが4.12節の、そしてこの議論全体のキモである。内接正n角形における\(p\)の列を\(P_n\)と書けば、下図のように、\(P_n\)の漸化式(\(p\)から\(q\)を求める方法)をメインエンジンとして、各\(P_n\)から\(L_n\)および\(M_n\)を求める、というのが議論の全貌である。

f:id:y_bonten:20140429190333j:plain
(緑色の数字は「まとめ」の番号に対応)

ここで注意すべきことは、「この方針はあくまで『僕』が選んだものであって、\(L_n,M_n\)を求めるための唯一の方法というわけではない」ということである。先入観を持たずに「自分だったらどう求めるか」を追究してみるのも面白いと思う。

「僕」は決して初めからこの方針を明確に持っていたわけではなく、いろんな長さの関係を模索していくうちに方針が固まってきた、という印象を受ける。それは無駄なく整理した形で与えられた議論と比べて、「分かりにくい」と受け取る人もいれば、リアリティを感じ取る人もいることだろう。