どうしても部分積分が苦手な人のために ~積分記号なしで積分する~

(前置き)
\(f(x)\)の原始関数とは、\(f(x)=F'(x)\)を満たす\(F(x)\)のことである。例えば\[\cos x=(\sin x)'\]であるので、\(\sin x\)は\(\cos x\)の原始関数(のひとつ)である。

つまり、与えられた関数を\( (\cdots)'\)の形に押し込めてしまえば、原始関数のひとつが求まったことになる。通常はこれを\(\int\cos xdx=\sin x+C\)(\(C\)は積分定数)と書くが、分かったうえで書く分には、最初の\(\cos x=(\sin x)'\)をもって「積分しました」と主張しても構わないであろう。

(本題)
部分積分は、あえて公式として書けば\[\int f'(x)g(x)dx=f(x)g(x)-\int f(x)g'(x)\ dx\]などとなり、このような形で教科書にも載っているが、これをそのまま暗記しようとするのは得策ではない。気の利いた人なら、とりあえず\( (x) \)が何度も現れて煩雑なので\[\int (f')g\ dx=fg-\int f(g')\ dx\]と適当に略すし、\(fg\)を\(\displaystyle\int(fg)'\ dx\)と頭の中で読みかえることもできる:\[\int (f')g\ dx=\int(fg)'\ dx-\int f(g') dx\]そしてそういう人は、いちいち\(\displaystyle\int\cdots dx\)で囲まれた各項の核心を抽出して、この等式の中に\[(f')g=(fg)'-f(g')\]という骨組みを見ている。言うまでもなく、これは「積の微分」の等式を少し書き直しただけのものである。

「前置き」に述べた、「\( (\cdots)'\)の形に押し込める変形をもって『積分した』とする」流儀に従うなら、この「積の微分」の原理さえ忘れなければ見通しよく部分積分ができる。要するに、\((f')g\)という形を見たとき、これを単純に\( (fg)'\)と押し込めてしまうことができれば積分は直ちに終了するが、そんなことをしたら怒られる。そこで余分な\( f(g')\)を差し引いて帳尻を合わせるのである。こういう発想は、\( a^2+b^2=(a+b)^2-2ab\)とか、二次式の平方完成などで高校生にはお馴染みだろう。もちろん、帳尻合わせの項の積分が残っているから、いつもうまくいくとは限らない。

例1:\(\displaystyle\int(ax+b)\sin xdx=-(ax+b)\cos x+a\sin x+C\)
(計算)
\[(ax+b)\sin x=(ax+b)(-\cos x)'=[(ax+b)(-\cos x)]'-(ax+b)'(-\cos x)\]\[=[-(ax+b)\cos x]'+a\cos x=[-(ax+b)\cos x+a\sin x]'\]
(手順)
(1)\(ax+b\)か\(\sin x\)のどちらかを\( (\cdots)'\)に押し込める。どちらを選べばいいか迷う暇があったら両方試してくれ。そのうち慣れる。ここでは\(\sin x\)を\( (-\cos x)'\)に変えた。\[(ax+b)\sin x=(ax+b)(-\cos x)'\](2)「そうだったらいいのにな」と歌いながら、全体を押し込めて誤った変形をし、最後にマイナスを付ける。\[(ax+b)(-\cos x)'=[(ax+b)(-\cos x)]'-\](3)\([\cdots]'\)の微分計算、「前だけ微分+後ろだけ微分」を想像する。後ろだけ微分したら左辺になるので、前だけ微分したものを差し引けば帳尻が合う。 \[(ax+b)(-\cos x)'=[(ax+b)(-\cos x)]'-(ax+b)'(-\cos x)\](4)帳尻合わせの項の微分を実行して整理する。ついでに\([\cdots]'\)内のマイナス記号も先頭に持ってきたが、まぁそれはどうでもよい。\[=[-(ax+b)\cos x]'+a\cos x\](5)残った項が首尾よく\( (a\sin x)'\)と押し込められるので、前の項と連結する。ここは一気にやってしまおう。\[=[-(ax+b)\cos x+a\sin x]'\](6)これで完成したので、今度は検算してみる。検算はできるだけ暗算でやってみよう。第1項のうち「後ろだけ微分」のほうが元の関数に戻り、「前だけ微分」を第2項の微分が打ち消す様子を想像できるだろうか。そして、「その検算過程は、ついさっきまでやっていた計算とそっくりである」ということが実感できるだろうか。
(7)同じ計算を、今度は途中を省略してやってみよう。(2)の後にいきなり(4)か(5)あたりまで飛んでもよい。

例2:\(\displaystyle\int x\log x=\frac{x^2}{2}\log x-\frac{x^2}{4}+C\)
(計算)\[x\log x=\left(\frac{x^2}{2}\right)'\log x=\left(\frac{x^2}{2}\log x\right)'-\frac{x^2}{2}(\log x)'\]\[=\left(\frac{x^2}{2}\log x\right)'-\frac{x^2}{2}\cdot\frac{1}{x}=\left(\frac{x^2}{2}\log x\right)'-\frac{x}{2}=\left(\frac{x^2}{2}\log x-\frac{x^2}{4}\right)'\]例1と同様の手順を確認しよう。今回は\(f(g')\)でなく\( (f')g\)の形になっているが、全く同じことである。

例3:\(\displaystyle\int x^2\cos xdx=x^2\sin x+2x\cos x-2\sin x+C\)
(計算)\[x^2\cos x=x^2(\sin x)'=(x^2\sin x)'-(x^2)'\sin x=(x^2\sin x)'-2x\sin x\]\[=(x^2\sin x)'+2x(\cos x)'=(x^2\sin x+2x\cos x)'-(2x)'\cos x=(x^2\sin x+2x\cos x)'-2\cos x\]\[=(x^2\sin x+2x\cos x-2\sin x)'\]これだけの行数だが部分積分を2回行っていることに注目。慣れればもっと省略できる。検算も気持ちよくスパスパ消えていくことを体験してほしい。

例4:\(\displaystyle\int e^x\cos2xdx=\frac{1}{5}e^x(\cos2x+2\sin2x)+C\)
(計算)\[e^x\cos2x=(e^x)'\cos2x=(e^x\cos2x)'-e^x(\cos2x)'=(e^x\cos2x)'+2e^x\sin2x\]\[=(e^x\cos2x)'+(2e^x)'\sin2x=(e^x\cos2x+2e^x\sin2x)'-2e^x(\sin2x)'\]\[=(e^x\cos2x+2e^x\sin2x)'-4e^x\cos2x\]部分積分を2回行なって\(e^x\cos2x\)が再発したので、これについて解けば\[e^x\cos2x=\frac{1}{5}(e^x\cos2x+2e^x\sin2x)'=\left(\frac{1}{5}e^x(\cos2x+2\sin2x)\right)'\]を得る。

普段から原理を理解したうえで部分積分を行なっていれば、通常の積分記号を用いた計算と何ら変わりのないことをやっているだけだということが分かるはずである。