ベクトル空間がサイズの等しい生成系と独立系を持つならば、両者はともに基底をなす

【注意】このエントリは誤りを含んでいます。

ベクトルの順序対を\( (v_1,v_2,v_3)\)などで表し、それによって生成される部分空間を\(\langle v_1v_2v_3\rangle\)と書く。

【定理】\(S\)を体\(K\)上の線形空間とする。\(V=(v_1,v_2,\ldots,v_n)\)が\(S\)を生成し、\(W=(w_1,w_2,\ldots,w_n)\)が\(S\)において線形独立であるとき、\(V\)は\(S\)において線形独立であり、\(W\)は\(S\)を生成する。すなわち、\(V\)も\(W\)も\(S\)の基底をなす。

(証明)\(n=3\)の場合について示すが、一般の\(n\)に対しても全く同様に証明できる。\(V\)が\(S\)を生成することから、\[w_1=a_1v_1+a_2v_2+a_3v_3\quad(a_1,a_2,a_3\in K)\tag{*}\]と書ける。\(W\)の線形独立性から\(w_1\notin\langle w_2w_3\rangle\)ゆえ\(\langle w_2w_3\rangle\neq S\)、いっぽう\(\langle V\rangle=S\)だから、\(v_1,v_2,v_3\)の中には\(\langle w_2w_3\rangle\)に属さないものが少なくともひとつ存在する。いま、たとえば\(v_1,v_2\)がこれを満たし、\(v_3\)だけは\(\langle w_2w_3\rangle\)に属している場合を考える。\(v_3=\alpha w_2+\beta w_3\quad(\alpha,\beta\in K)\)とおけば、\( (*)\)は\[w_1=a_1v_1+a_2v_2+a_3(\alpha w_2+\beta w_3)\]となり、\(W\)の線形独立性から\(a_1\neq0\)または\(a_2\neq0\)である。たとえば\(a_2\neq0\)であったとすると、\( (*)\)を\(v_2\)について解くことができ、\[v_2=\left(-\frac{a_1}{a_2}\right)v_1+\frac{1}{a_2}w_1+\left(-\frac{a_3}{a_2}\right)v_3\]となるから、\( (v_1,w_1,v_3)\)は\(S\)を生成する。また\( (w_2,w_3)\)の線形独立性と\(v_2\notin\langle w_2w_3\rangle\)から、\( (v_2,w_2,w_3)\)は\(S\)において線形独立である。すなわち、生成系\(V\)と独立系\(W\)から、それぞれ\(v_2\)と\(w_1\)を選んで入れ替えても、やはりもとの生成/独立の性質を保つのである。ここでは\(w_1\)の交換相手としてたまたま\(v_2\)が適任である場合を考えたが、同様に考えることにより、このような\(w_1\)の交換相手は必ず見つかることが分かる。これを繰り返して、【追記】ここが誤っています。\(w_2,w_3\)の相手を選んで順次交換すれば、\(W\)は\(S\)を生成し、\(V\)は\(S\)において線形独立であることが示される。■

【系1】
(1)\(S\)がサイズ\(n\)の生成系を持つとき、\(S\)の独立系のサイズは\(n\)以下である。
(2)\(S\)がサイズ\(n\)の独立系を持つとき、\(S\)の生成系のサイズは\(n\)以上である。
(証明)(1)\(n\)個を超えるベクトルの組\(W^+\)は\(S\)において線形従属であることを示す。\(W^+\)の先頭から\(n\)個を切り出して\(W\)とする。\(W\)が線形従属ならば\(W^+\)も線形従属である。\(W\)が線形独立ならば上の定理により\(W\)は\(S\)を生成するから、そこにベクトルを追加した\(W^+\)は線形従属である。
(2)\(n\)個未満のベクトルの組\(V^-\)は\(S\)を生成しないことを示す。\(V^-\)に任意にベクトルを追加して\(n\)個にしたものを\(V\)とする。\(V\)が\(S\)を生成しないならば、\(V^-\)も生成しない。\(V\)が\(S\)を生成するならば、上の定理により\(V\)は\(S\)において線形独立であるから、そこからベクトルを取り除いた\(V^-\)は\(S\)を生成しない。■

【系2】\(S\)がサイズ\(n\)の基底を持つとする。このとき、\(S\)の任意の基底のサイズは\(n\)である。
(証明)\(S\)がサイズ\(m\)の基底を持つと仮定すると、系1(1)(2)により\(m\leq n\)かつ\(m\geq n\)、したがって\(m=n\)である。■

n個のベクトルで生成されうる線形空間においては、任意の線形独立なn個のベクトルが基底をなす

ベクトルの順序対を\( (v_1,v_2,v_3)\)などで表す。

【定理】\(S\)を体\(K\)上の線形空間とする。\(V=(v_1,v_2,v_3)\)が\(S\)を生成し、\(W=(w_1,w_2,w_3)\quad(w_1,w_2,w_3\in S)\)が線形独立であるとき、\(W\)は\(S\)を生成する(したがって\(W\)は\(S\)の基底をなす)。

(証明)\(V\)が\(S\)を生成することから、\[w_1=a_1v_1+a_2v_2+a_3v_3\quad(a_1,a_2,a_3\in K)\]と書ける。\(W\)は線形独立なので\(w_1\neq 0\)、したがって\(a_1,a_2,a_3\)のなかには\(0\)でないものが存在する。いま、そのひとつとして\(a_2\)を選ぶことができたとする。すると\[v_2=\left(-\frac{a_1}{a_2}\right)v_1+\frac{1}{a_2}w_1+\left(-\frac{a_3}{a_2}\right)v_3\]となるから、\( (v_1,w_1,v_3)\)は\(S\)を生成する。したがって\[w_2=b_1v_1+b_2w_1+b_3v_3\quad(b_1,b_2,b_3\in K)\]と書ける。\(W\)は線形独立なので、\(b_1,b_3\)のうち\(0\)でないものが存在する。いま、そのひとつとして\(b_3\)を選ぶことができたとする。すると\[v_3=\left(-\frac{b_1}{b_3}\right)v_1+\left(-\frac{b_2}{b_3}\right)w_1+\frac{1}{b_3}w_2\]となるから、\( (v_1,w_1,w_2)\)は\(S\)を生成する。したがって\[w_3=c_1v_1+c_2w_1+c_3w_2\quad(c_1,c_2,c_3\in K)\]と書ける。\(W\)は線形独立なので\(c_1\neq0\)、すると\[v_1=\frac{1}{c_1}w_3+\left(-\frac{c_2}{c_1}\right)w_1+\left(-\frac{c_3}{c_1}\right)w_2\]となるから、\( (w_3,w_1,w_2)\)は\(S\)を生成する。すなわち\(W\)は\(S\)を生成する。途中の\(0\)でない係数を選ぶ際に他のものを選んでも同様である。■

自然数の大小関係の比較可能性

加算の公理は\(x+0=x,x+S(y)=S(x+y)\)。\(x\leq y\)の定義は\(\exists z\in\mathbb{N}[x+z=y]\)。
補題1】任意の\(a\in\mathbb{N}\)に対し\(0+a=a\)が成り立つ。
(証明)帰納法による。\(0+0=0\)。また\(0+a=a\)のもと\(0+S(a)=S(0+a)=S(a)\)。■

補題2】任意の\(a,b\in\mathbb{N}\)に対し\(a+S(b)=S(a)+b\)が成り立つ。
(証明)\(a\)を任意に固定し、\(b\)に関する帰納法を用いる。\(a+S(0)=S(a+0)=S(a)=S(a)+0\)。また\(a+S(b)=S(a)+b\)のもと、\(a+S(S(b))=S(a+S(b))=S(S(a)+b)=S(a)+S(b)\)。■

【定理】任意の\(x,y\in\mathbb{N}\)に対し、\(y\leq x\vee x\leq y\)が成り立つ。
(証明)\(y\in\mathbb{N}\)を任意に固定し、\(\varphi_y(x):y\leq x\vee x\leq y\)とおく。\(x\)についての帰納法により、\(\forall x[\varphi_y(x)]\)を導く。
[I]補題1により、\(0+y=y\)から\(0\leq y\)、したがって\(\varphi_y(0)\)が成立する。
[II]\(\varphi_y(x)\)を仮定し、\(\varphi_y(S(x))\)を導く。
(ア)\(y\leq x\)のとき:\(y+z=x\)(\(z\in\mathbb{N}\))とおける。\(y+S(z)=S(y+z)=S(x)\)により\(y\leq S(x)\)。
(イ)\(x\leq y\)のとき:\(x+w=y\)(\(w\in\mathbb{N}\))とおける。
(イの1)\(w=0\)のとき:\(x+0=y\)から、\(y+S(0)=S(y+0)=S(y)=S(x+0)=S(x)\)、したがって\(y\leq S(x)\)。
(イの2)\(w\neq0\)のとき:\(w=S(v)\)なる\(v\in\mathbb{N}\)がとれる。補題2を用いて\(S(x)+v=x+S(v)=x+w=y\)、したがって\(S(x)\leq y\)。
以上により、いずれの場合も\(y\leq S(x)\)か\(S(x)\leq y\)の少なくとも一方が成り立つから、\(\varphi_y(S(x))\)が成立する。 ■

定義に従ってx^xを微分する

\(x^x(x > 0)\)の導関数を、定義に従って求める。
\(M > 0\)とする。\(\displaystyle\frac{M^h-1}{h}=\frac{e^{h\ln M}-1}{h\ln M}\cdot\ln M\)より、\(\displaystyle\lim_{h\to0}M=\alpha\)のとき\(\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{M^h-1}{h}=\ln\alpha\)である。

\(h\neq0\)のもと\[\frac{(x+h)^{x+h}-x^x}{h}=x^x\cdot\frac{[(1+\frac{h}{x})^\frac{x}{h}(x+h)]^h-1}{h}\]右辺の\([]\)内は\(h\to0\)で\(ex\)に収束するから、\(\displaystyle\frac{d}{dx}x^x=x^x\ln(ex)=x^x(1+\ln x)\)である。

順序完備でない全順序には、開区間だが基本開区間でないものが存在する

齋藤正彦『数学の基礎』p34、第1章§3問題7の解答。テキストの解答のように2段階で集合を構成する必要はないのではないか?という疑問を持っている。

補題1】全順序集合において、空でなく下に有界な基本開区間は下限を持つ。
(証明)\(I\)は全順序集合\( (X, < )\)の空でない基本開区間であり、下界を持つと仮定する。以下では「\(I\)の下界\(\gamma\)が\(I\)に属すならば、\(\gamma\)は\(I\)の最小元であり、下限でもある」という事実を頻繁に用いる。
(1)\(I=\{x\in X\mid a < x\}\)(\(a\in X\))のとき:\(I\)は\(a\)を下界に持つ。
(1-ア)\(a\)よりも大きい下界が存在しないとき:\(a\)が下限となる。
(1-イ)\(a\)よりも大きい下界\(\gamma\)が存在するとき:\(\gamma\in I\)だから\(\gamma\)は\(I\)の最小元・下限である。
(2)\(I=\{x\in X\mid a < x < b\}\)(\(a,b\in X\))のとき:\(I\)は\(a\)を下界に持つ。
(2-ア)\(a\)よりも大きい下界が存在しないとき:\(a\)が下限となる。
(2-イ)\(a\)よりも大きい下界\(\gamma\)が存在するとき:\(I(\neq\varnothing)\)の要素をひとつとって\(c\)とすれば\(a < \gamma\leq c < b\)が成り立つから\(\gamma\in I\)である。
(3)\(I=\{x\in X\mid x < b\}\)(\(b\in X\))のとき:\(I\)の下界のひとつを\(\gamma\)とすると、(2-イ)同様に\(c\in I\)に対し\(\gamma\leq c < b\)から\(\gamma\in I\)である。
(4)\(I=X\)のとき:\(I\)の下界のひとつを\(\gamma\)とすると\(\gamma\in X=I\)である。■

全順序集合\( (X, < )\)とその部分集合\(A\)に対し、\[A^ < =\{x\in X\mid\exists a\in A[a < x]\}=\bigcup_{a\in A}\{x\in X\mid a < x\}\]とする。

補題2】\(A^ < \)は開区間である。
(証明)定義によってすでに\(A^ < \)は基本開区間の合併で表されているので、あとは\(A^ < \)が区間をなすことを示す。\(p,r\in A^ < ,q\in X,p < q < r\)と仮定すると、\(p' < p\)なる\(p'\in A\)が存在し、\(p' < p < q\)から\(q\in A^ < \)である。■

【定理】順序完備でない全順序集合には、開区間だが基本開区間でないものが存在する。

(証明)\( (X, < )\)を順序完備でない全順序集合とする。\(X\)の部分集合で、下に有界であるが下限をもたない非空集合\(A\)が存在する。\(a\in A\)とすると、\(A\)は最小元を持たないから\(a' < a\)なる\(a'\in A\)が存在し、\(a\in A^ < \)である。したがって\(A\subseteq A^ < \)だから、\(A^ < \)の下界は\(A\)の下界でもある。逆に\(m\in X\)が\(A\)の下界であるとする。任意の\(b\in A^ < \)に対し\(b' < b\)なる\(b'\in A\)が存在し、\(m\leq b' < b\)となるから、\(m\)は\(A^ < \)の下界でもある。以上により、\(A\)と\(A^ < \)の下界の集合は一致するから、\(A^ < \)もまた下に有界だが下限を持たない。これと\(A^ <(\supseteq A)\neq\varnothing\)および補題1から\(A^ <\)は基本開区間ではなく、しかし補題2から開区間である。■

完備全順序における開区間は基本開区間である

齋藤正彦『数学の基礎』p34、第1章§3問題6-1の解答を自分で書いてみた。

補題1】\(A\)は全順序集合\( (X, < )\)の基本開区間の合併で表される集合で、最小元\(p\)を持つとする。\(p\)が\(X\)の最小元でないとき、\(p\)の「左隣の」元、すなわち\(p^- < p\)かつ\(\neg\exists x\in X[p^- < x < p]\)を満たす\(p^-\in X\)が存在する。
(証明)\(\{x\in X\mid x < p\}\)を\(P\)と置けば、\(P\neq\varnothing\)かつ\(P\cap A=\varnothing\)である。\(A\)を基本開区間の合併として書いたとき、そこに\(X\)が入っていれば\(P\)と交わってしまう。また\(x < b\)型のもの\(B\)が入っていれば、\(p\)と\(b\)の大小にかかわらず、\(P\)と\(B\)の少なくとも一方が他方を包含する。いま\(P\neq\varnothing\)であったので、\(B\)が\(P\)と交わるのを避けるには\(B=\varnothing\)でなければならない。以上により\(A\)は、左端を持つ基本開区間(\(a < x\)型および\(a < x < b\)型)のみによる合併として書き表せる。もしもこれらの左端がすべて\(p\)以上だとすると\(p\in A\)に反するから、\(p\)より小さい左端\(p^-\)を持つ基本開区間が入っている。もしも\(p^-\)と\(p\)の間に元が存在すれば、それは\(P\)と\(A\)に共有されることとなって矛盾するから、\(p^-\)は\(p\)の「左隣の」元である。■

同様にして、\(X\)の基本開区間の合併で表される集合が最大元\(q\)を持つとき、\(q\)は\(X\)の最大元であるか、さもなくば「右隣の」元\(q^+\in X\)を持つ。

補題2】全順序集合\( (X, < )\)において、基本開区間に登場する任意の不等号を「\( < \)」から「\(\leq\)」に変えたもの、すなわち\(\{x\in X\mid a\leq x\leq b\},\{x\in X\mid a\leq x < b\},\)\(\{x\in X\mid a < x\leq b\},\{x\in X\mid a\leq x\},\{x\in X\mid x\leq b\}\)は、それが基本開区間の合併で表されるならば、単一の基本開区間に書き直すことができる。
(証明)\(\{x\in X\mid a\leq x\leq b\}\)は、\(a > b\)のとき空集合となる。\(a\leq b\)のとき、\(a,b\)は各々この区間の最小元・最大元となる。すると、\(a\)が\(X\)の最小元か否か、\(b\)が\(X\)の最大元か否かによって、補題1からこの区間は\(\{x\in X\mid a^- < x < b^+\},\{x\in X\mid x < b^+\},\{x\in X\mid a^- < x\},X\)のいずれかに等しくなり、いずれも基本開区間である。他のものについても同様である。■

補題2から次の定理(この問題の解答)を得る。なお、「(区間の定義から)区間の下界でも上界でもないものはその区間に属す」ということを用いるので先に注意しておく。

【定理】\(A\)は全順序集合\((X, < )\)における開区間であるとする。\(X\)が下限性質・上限性質を備えるとき、\(A\)は\(X\)の基本開区間である。
(証明)\(A=\varnothing\)のとき、これは基本開区間である。以下では\(A\neq\varnothing\)とする。
(1)\(A\)が下界・上界をともに持つとき:\(X\)の下限性質・上限性質から、\(A\)は下限\(p\)および上限\(q\)を持つ。任意の\(x\in X\)をとると、\(x < p\)または\(q < x\)のとき\(x\notin A\)、また\(p < x < q\)のとき\(x\)は\(A\)の下界でも上界でもないから\(x\in A\)である。したがって、あとは\(p,q\)が\(A\)に属すかどうかによって\(A\)が定まる。例えば\(p\in A\)かつ\(q\notin A\)ならば\(A=\{x\in X\mid p\leq x < q\}\)となる。どの場合についても補題2から\(A\)は基本開区間である。
(2)\(A\)が下界を持つが上界を持たないとき:\(A\)は下限\(p\)を持つ。任意の\(x\in X\)をとると、\(x < p\)のとき\(x\notin A\)、また\(p < x\)のとき\(x\)は\(A\)の下界でも上界でもないから\(x\in A\)である。したがって\(A=\{x\in X\mid p < x\}\)あるいは\(A=\{x\in X\mid p\leq x\}\)となり、いずれにせよ基本開区間である。
(3)\(A\)が下界を持たないが上界を持つとき:(2)と同様である。
(4)\(A\)が下界も上界も持たないとき:任意の\(x\in X\)について、\(x\)は\(A\)の下界でも上界でもないから\(x\in A\)である。したがって\(A=X\)であり、これは基本開区間である。■

Heine-Borelの定理(改)

齋藤正彦『数学の基礎』p64、第2章§5の問題6、a)⇒f)の証明(p251)に冗長さを感じたので、自分で証明を書いてみた。同じ目的で以前に http://y-bonten.hatenablog.com/entry/2014/09/05/045328 を書いたのだが、これも煩雑であったので改良した。

\(\bf R\)についてのHeine-Borelの被覆定理、すなわち「閉区間の任意の開被覆は有限部分被覆を持つ」を、Weierstrassの上限公理から導く。

(証明)≪注意≫以下では区間の右端は左端より大きいとは限らないとする。例えば\([\alpha,\beta]\)とは\(\{x\in{\bf R}\mid \alpha\leq x\leq\beta\}\)の略記であり、\(\alpha=\beta\)のときは一点集合に、\(\alpha > \beta\)のときは空集合になる。また\(\{x\in{\bf R}\mid x < \beta\}\)を\( (\leftarrow,\beta)\)と書く。

\([a,b]\)を\(\bf R\)の閉区間とし、\(\mathcal U\)をその開被覆とする。\([a,x]\)が\(\mathcal U\)の有限個の要素で覆えるような\(x\)の集合を\(Y\)とし、\(b\in Y\)を示す。

\(a > b\)のときは\([a,b]=\varnothing\)なので\(b\in Y\)である。以下では\(a\leq b\)としておく。\(a\in[a,b]\)より、\(\mathcal U\)には\(a\)を要素に持つ開区間が少なくともひとつ存在し、そのひとつだけで\([a,a]\)を覆えるから\(a\in Y\)である。さらに\(Y_{\leq b}=Y\cap(\leftarrow,b]\)とおけば\(a\in Y_{\leq b}\)であり、したがって\(Y_{\leq b}\)は空でなく、また上界\(b\)を持つから、Weierstrassの上限公理により上限\(c\)を持つ。

\(Y_{\leq b}\)は下に閉なる集合だから、\(c\)より小さいものはすべて\(Y_{\leq b}\)に属し、したがって\( (\leftarrow,c)\subset Y\)である。いっぽう\(c\)より大きいものは\(Y_{\leq b}\)に属さないから、\(Y\cap(c,b]=\varnothing\)である。

\(c\)が\(Y_{\leq b}\)の上界であることから\(a\leq c\)、また最小上界であることから\(c\leq b\)なので\(c\in[a,b]\)であり、それゆえ\(c\in V\in {\mathcal U}\)を満たす\(V\)が存在する。\(\bf R\)の開区間は最小元・最大元を持たないから、\(u < c < e\)なる\(u,e\in V\)をとることができる。\((\leftarrow,c)\subset Y\)から\(u\in Y\)、すると\([a,u]\)の有限被覆に\(V\)を付け加えれば\([a,e]\)を覆うので\(e\in Y\)である。これと\( (c,b]\cap Y=\varnothing\)から\(b < e\)を得るが、\(Y\)は下に閉なので\(b\in Y\)である。■

追記:上の証明の「\(\bf R\)の開区間は最小元・最大元を持たないから」以降は一般の全順序(\(S\)とする)においては通用しない。これを修正したものを示す。なお、以下で行っている場合分けは、「全順序\(S\)の開区間が最小元(最大元)\(c\)を持つときには、それが\(S\)の最小元(最大元)になっているか、さもなくば\(c\)の左隣(右隣)の元が存在する」という補題に基づいている。この補題の証明は完備全順序における開区間は基本開区間である - y_bonten's blogを参照。

\(V\subset Y\)を示すため、任意の\(v\in V\)をとり\(v\in Y\)を導く。
(1)\(c\)が\(V\)の最小元であるとき:
・(1a)\(c\)が\(S\)の最小元でもあるとき:\([a,v]=[c,v]\)は\(V\)ひとつで被覆される。
・(1b)\(c\)の左隣の元\(c^-\in S\)が存在するとき:\(c^-\in(\leftarrow,c)\subset Y\)から、\([a,c^-]\)の有限被覆に\(V\)を付け加えれば\([a,v]\)が覆われる。
(2)\(c\)が\(V\)の最小元でないとき:\(u < c\)なる\(u\in V\)をとることができる。\(u\in(\leftarrow,c)\subset Y\)から、\([a,u]\)の有限被覆に\(V\)を付け加えれば\([a,v]\)が覆われる。
以上により、いずれの場合においても\(v\in Y\)である。

\(V\subset Y\)と\(Y\)が下に閉であることを用い、\(b\leq v\)なる\(v\in V\)が存在することを言えば\(b\in Y\)が導かれる。

(1)\(c\)が\(V\)の最大元であるとき:
・(1a)\(c\)が\(S\)の最大元でもあるとき:\(b\leq c\)である。
・(1b)\(c\)の右隣の元\(c^+\in S\)が存在するとき:\(b\leq c\)または\(c^+\leq b\)であるが、後者においては\(c^+\in[a,b]\)ゆえ\(c^+\in V^+\in\mathcal{U}\)なる\(V^+\)が存在し、\([a,c]\)の有限被覆に\(V^+\)を付け加えれば\([a,c^+]\)が覆われて\(c^+\in Y\)となる。これは\(Y\cap(c,b]=\varnothing\)に矛盾する。
(2)\(c\)が\(V\)の最大元でないとき:\(c < e\)なる\(e\in V(\subset Y)\)が存在するが、\(Y\cap(c,b]=\varnothing\)から\(b < e\)である。
(1)では\(c\)が、(2)では\(e\)が上記\(v\)の要件を満たす。■

なお、どのような場合でも結局のところ\(b=c\)となることを付記しておく。