娘への手紙

「ある数を3倍しても、同じ数に10を足しても、結果は同じになりました。もとの数は何だったでしょう?」

という問題を小学校1年生の娘に出した。娘は1から順に始めて「1×3=3、1+10=11だからダメ、2×3=6、2+10=12ダメ、……」と試してゆき、ほどなく5×3=5+10=15を見つけた。

以下の半分くらいはすでに本人に伝えたが、これから伝えたいことも含めて手紙にした。


よく見つけたね。

これ、答えが5でラッキーだったね。30とかだったら、今のを30回やらないといけなくて大変だ。

もし50まで試しても見つからなかったら、「そもそもそんな数なんて、ないんじゃないの?」と、不安になる。

でも、どこまで試しても「そんな数はない」と言い切ることはできない。「自分で見つけられなかっただけじゃないの?」って言われたら、言い返せない。

それに、「答えは5だけかな?」……そんなことを言われたら、また6も7も試さないといけなくなるね。

1から順番に試す方法は、

・ものすごくたくさん試さないと見つからないかもしれない
・いくら試して見つからなくても、「そんな数はない」とは言い切れない
・ひとつ見つかったとしても、「それ以外に答えはない」とは言い切れない

という心配がある。もし、

・ひとつひとつ試さなくてもよくて、
・答えがないときはそう言い切れて、
・答えがこれ以外にはない、ということも分かる

ような、そんな方法があったら便利だね。

あるんだ。

まだ説明していないけれど、そのうちどこかで習うかもしれない。

その解き方を身につけたら、ひとつひとつ試す人が馬鹿に見えるかもしれない。

これからいろんな先生に算数を習って、

「この方法でできるようになりなさい」

とか、

「こっちのほうが良い解き方です」

とか、そんな言葉を聞くこともあるだろう。

自分と違う方法を習ったら、どんどん身につければいい。

でも、これだけは忘れないでほしい。

算数にはいろんな解き方があって、正しければどんな方法でもいいんだ。

それぞれに良いところや弱いところがあったりするけれど、

「いちばんいい方法」がひとつだけきまっているわけじゃない。

「まだ習ってませーん」なんて言わずに1から順番に試したのは、

本当に、本当に賢いことなんだよ。

平方数でない自然数の平方根による、有理数の切断

デデキントによる議論を見通し良く。

\(D\)を平方数でない自然数とし、\[A_1=\{x\in\mathbb{Q}\mid x\leq0\vee x^2 < D\},\\A_2=\mathbb{Q}\backslash A_1=\{x\in\mathbb{Q}\mid x > 0\wedge x^2\geq D\}\]とする。\(A_1\)は最大元を持たず、\(A_2\)は最小元を持たないことを示す。

\(x\in\mathbb{Q}\)に対し\(\bar{x}=x(x^2+3D)/(3x^2+D)\)と定めると、\(\bar{x}^2-D=(x^2-D)^3/(3x^2+D)^2\)である。\(x^2+3D > 0,3x^2+D > 0\)により、\(x\)と\(\bar{x}\)の正負は一致し、また「\(x^2\)と\(D\)の大小」と「\(\bar{x}^2\)と\(D\)の大小」も一致する。これと\(A_1,A_2\)の定義から、\(x,\bar{x}\)は同時に\(A_1\)に属すか、または同時に\(A_2\)に属す。

さらに\(x-\bar{x}=2x(x^2-D)/(3x^2+D)\)であるから、「\(x\)と\(\bar{x}\)の大小」は「\(x(x^2-D)\)の正負」に一致する。

任意の\(a_1\in A_1\)をとる。
・\(a_1\leq0\)のとき:\(1\in A_1\)から、\(a_1\)は\(A_1\)の最大元ではない。
・\(a_1 > 0\)のとき:\(a_1^2 < D\)となるから\(a_1(a_1^2-D) < 0\)、したがって\(a_1 < \bar{a_1}\in A_1\)となり、やはり\(a_1\)は\(A_1\)の最大元でない。
以上により、\(A_1\)は最大元を持たない。

次に任意の\(a_2\in A_2\)をとると、\(a_2^2\geq D\)が成り立つが、実際は等号が成立することはなく\(a_2^2 > D\)であるので[*1]、これと\(a_2 > 0\)から\(a_2(a_2^2-D) > 0\)、したがって\(a_2 > \bar{a_2}\in A_2\)となり、\(a_2\)は\(A_2\)の最小元でない。ゆえに\(A_2\)は最小元を持たない。

中間値の定理の証明・改

高木『解析概論』の中間値の定理の証明が理解しづらかったため、書き直した。

同じ目的で
中間値の定理の証明 - y_bonten's blog
を書いていたが、これも煩雑であったので改良した。

【定理】(中間値の定理)\(a < b\)とする。区間\([a,b]\)において連続な関数\(F(x)\)について、\(F(a) < 0, F(b) > 0\)が成り立つとき、\(F(c)=0\)なる\(c\in(a,b)\)が存在する。

(証明)\(X=\{\xi\in[a,b]\mid\forall x\in[a,\xi]\ [F(x) < 0]\}\)とすれば、\(X\)は以下の性質を満たしている。
(1)\(a\in X,b\notin X\)
(2)\([a,b]\)において下に閉じている。
(3)最大元を持たない。

(1)(2)は\(X\)の定義から直ちに言える。(3)は、任意の\(p\in X\)に対し、\(p\in[a,b),F(p) < 0\)と\(F\)の連続性から、\(p\)のじゅうぶん小さな右近傍で\(F(x) < 0\)となり、\(p < q\)なる\(q\in X\)が存在することから従う。

以上により\([a,b]\)は、\(X\)と「\([a,b]\)における\(X\)の上界全体」とに切断されており、各々\(a,b\)を要素に持つ。\(\mathbb{R}\)の完備性により\(X\)は最小上界\(c\)(ただし\(c\in(a,b]\))を持ち、\([a,c)\subseteq X\)かつ\(c\notin X\)であるから\(F(c)\geq0\)である。

\(F(c) > 0\)と仮定すると矛盾することを示す。このとき、\(c\in(a,b]\)と\(F\)の連続性から、\(c\)のじゅうぶん小さな左近傍で\(F(x) > 0\)となる。すると\(d < c\)なる\(d\in[a,b]\backslash X\)が存在することになり、これは\(c\)が\(X\)の最小上界であることに反する。

以上により\(F(c)=0\)であり、\(F(b) > 0\)から\(c\neq b\)、これと\(c\in(a,b]\)から\(c\in(a,b)\)である。■

キューネン数学基礎論p46、演習I.7.21

\(R\)が\(A\)を整列順序づけすることから\[\forall x,y,z\in A[xRy\wedge yRz\rightarrow xRz]\]\[\forall x,y\in A[x=y,xRy,yRxのうちちょうどひとつが成立する]\]\[\forall Y\subseteq A\exists y\in Y\neg\exists z\in Y[zRy]\]が成り立つ。\(X\subseteq A\)のとき、上記の\(A\)を\(X\)に書き換えたものがすべて成立するから、\(R\)は\(X\)を整列順序づける。

キューネン数学基礎論p151、演習問題II.7.5

\(\mathfrak{A}\)を語彙\(\mathcal{L}\)に対する構造とし、その台集合を\(A\)とする。\(\mathcal{L}\)の項\(\tau\)に対し、「\(\tau\)に対する\(A\)への任意の割り当て\(\sigma',\sigma\)について、\(\sigma'\upharpoonright V(\tau)=\sigma\upharpoonright V(\tau)\)ならば\({\rm val}_\mathfrak{A}(\tau)[\sigma']={\rm val}_\mathfrak{A}(\tau)[\sigma]\)」という条件を\(\varphi(\tau)\)と置く。帰納法により\(\mathcal{L}\)の任意の項\(\tau\)について\(\varphi(\tau)\)が成り立つことを示す。

(1)\(\tau\in VAR\)のとき:\(\tau\)に対する\(A\)への割り当てで、\(\sigma'\upharpoonright V(\tau)=\sigma\upharpoonright V(\tau)\)を満たす任意の\(\sigma',\sigma\)をとる。\({\rm val}_\mathfrak{A}(\tau)[\sigma']=\sigma'(\tau)\)、\({\rm val}_\mathfrak{A}(\tau)[\sigma]=\sigma(\tau)\)であるが、\(\tau\in V(\tau)\)により両者は等しい。
(2)\(\tau\in\mathcal{F}_0\)のとき:(1)と同様に\(\sigma',\sigma\)をとると、\({\rm val}_\mathfrak{A}(\tau)[\sigma']\)も\({\rm val}_\mathfrak{A}(\tau)[\sigma]\)も共に\(\tau_\mathfrak{A}\)に等しい。
(3)\(n > 0\)に対し\(f\in\mathcal{F}_n\)かつ項\(\tau_0,\dots,\tau_{n-1}\)がすべて\(\varphi\)を満たすと仮定し、\(\tau=f\tau_0\ldots\tau_{n-1}\)も\(\varphi\)を満たすことを導く:(1)と同様に\(\sigma',\sigma\)をとると、これらは\(\tau_0,\dots,\tau_{n-1}\)のいずれに対しても\(A\)への割り当てとなっており、またどの\(\tau_i\)についても\(\sigma'\upharpoonright V(\tau_i)=\sigma\upharpoonright V(\tau_i)\)が成り立っているから、\(\varphi(\tau_i)\)により\({\rm val}_\mathfrak{A}(\tau_i)[\sigma']={\rm val}_\mathfrak{A}(\tau_i)[\sigma]\)である。すると\({\rm val}_\mathfrak{A}(\tau)[\sigma']\)および同\([\sigma]\)はその定義から等しくなる。■

小数表示と実数

有理数の切断によって実数を構成したとする。任意の小数表示に対して、「それによって表される実数」が存在することを示す。一意性についての議論は省略する。

以下、切断\( (A,B)\)の下組\(A\)(最大元を持たない)を指して「切断」という。

有理数\(r\)に対して「\(r\)未満の有理数全体」という集合は\(\mathbb{Q}\)の切断となっている。これを\(\mathbb{Q}_{ < r}\)と書けば、\({\mathbb{Q}_{ < r}}^c\)(\(\mathbb{Q}_{ < r}\)の補集合、すなわち切断の上組)は最小元\(r\)を持ち、この切断を有理数\(r\)と同一視することになる。

ある小数表示が与えられたとき、その第\(n\)位までで打ち切ったものを\(a_n\)とし、\(a_n\)の第\(n\)位(末位)に\(1\)を加えたものを\(b_n\)とする。この小数表示によって表される実数が存在することを示すには、「任意の\(n\)に対し\(a_n\leq\alpha\leq b_n\)」を満たす実数\(\alpha\)が存在することを言えばよく、これは「任意の\(n\)に対し\(\mathbb{Q}_{ < a_n}\subseteq A\subseteq\mathbb{Q}_{ < b_n}\)」を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(A\)が存在することにほかならない。

\(\displaystyle A=\bigcup_{k\in\mathbb{N}}\mathbb{Q}_{ < a_k}\)とおき、任意の\(n\)をとる。\(A\)の定義から\(\mathbb{Q}_{ < a_n}\subseteq A\)である。また\(b_n\)はどの\(a_k\)よりも大きいから、\(A\)の任意の要素\(x\)について、ある\(k\)によって\(x < a_k < b_n\)と書かれるので\(x\in\mathbb{Q}_{ < b_n}\)、したがって\(A\subseteq\mathbb{Q}_{ < b_n}\)である。

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