和集合公理の流儀

『キューネン数学基礎論講義』における和集合公理の流儀につまづいたので、メモしておく。p14に示された和集合公理の論理式は
\[\forall\mathcal{F}\exists A\forall Y\forall x[x\in Y\in\mathcal{F}\rightarrow x\in A]\]というものである(少し記法を変え、省略されている全称量化を補った)。いっぽう、私がよく馴染んでいる和集合公理は\[\forall\mathcal{F}\exists A\forall x[\exists Y[x\in Y\in\mathcal{F}]\leftrightarrow x\in A]\]という形である。すなわち、任意の集合\(\mathcal{F}\)に対して、そのつど「\(\mathcal{F}\)の和集合」と呼ばれる集合\(A\)が存在して、それは\(\forall x\)以下を満たすような集合である。この条件は\(\forall x[\varphi(x)\leftrightarrow x\in A]\)という形をしているので、\(A\)は「\(\varphi(x)\)を満たす\(x\)全体の集合」ということになる。その\(\varphi(x)\)は\(\exists Y[x\in Y\in\mathcal{F}]\)であり、これは「\(x\)は\(\mathcal{F}\)の要素の要素(\(\mathcal{F}\)の孫要素)である」ということを意味する。結局、「\(\mathcal{F}\)の和集合」とは「\(\mathcal{F}\)の孫要素の全体」という集合であり、これが任意の集合に対して存在することを和集合公理は保証している。例えば\(\mathcal{F}=\{\{a\},\{b,c\},\{c,\{b,d\}\}\}\)の和集合は\(\{a,b,c,\{b,d\}\}\)である。

キューネンの流儀を見返すと、冒頭の\(\forall\mathcal{F}\exists A\)は馴染みの流儀と一致しているので、それ以降を書き直してみる。まず、\(\forall Y\forall x\)の順番は入れ換えてよく、これで\(\forall\mathcal{F}\exists A\forall x\)まで一致する。\[\forall\mathcal{F}\exists A\forall x\forall Y[x\in Y\in\mathcal{F}\rightarrow x\in A]\]\(\forall Y\)の中を見ると、「ナラバ」の後件に\(Y\)が出現しておらず、\(\forall Y[\psi(Y)\rightarrow\gamma]\)という形をしている。どんな\(Y\)に対しても「\(\psi(Y)\)ならば\(\gamma\)」が成り立つということは、\(\psi(Y)\)を満たす\(Y\)がひとつでもあれば\(\gamma\)が言えるわけで、これは一般に\(\exists Y[\psi(Y)]\rightarrow\gamma\)と同値である。したがって上の論理式は\[\forall\mathcal{F}\exists A\forall x[\exists Y[x\in Y\in\mathcal{F}]\rightarrow x\in A]\]と書き直される。これで、馴染みの流儀との差異は\(\rightarrow\)と\(\leftrightarrow\)の違いだけになった。\(\rightarrow\)だけでは、私達の期待する「和集合」になるとは限らず、他のものも混じっているかもしれない「和集合を包含する集合」になってしまう。この流儀で和集合を構成するには、まず\(\mathcal{F}\)に対して\(A\)をとり、分出公理で改めて\[\{x\in A\mid \exists Y[x\in Y\in\mathcal{F}]\}\]を作ればよい。これはp31の「定義の正当性の検証」のところで議論されている。