20201104『数理論理学』輪講のノート

●問題3.27について
解釈とは「論理式全体から真偽値への写像」でしたから、「解釈\(I,I'\)が等しい」とは、「任意の論理式について\(I,I'\)における真偽値が(論理式ごとに、そのつど)一致する」という意味です。したがって、この問題で要求されているのは、下記の仮定から結論を導くことです。

(仮定)任意の命題記号\(X\)について\([\![X]\!]_I=[\![X]\!]_{I'}\)
(結論)任意の論理式\(\psi\)について\([\![\psi]\!]_I=[\![\psi]\!]_{I'}\)

つまり、論理式のうち命題記号について\(I,I'\)における真偽値が(命題記号ごとに、そのつど)一致するなら、複合論理式も含めたすべての論理式について同じことが言える、という定理です。

例えば\[ [\![P\rightarrow Q]\!]_I=^?[\![P\rightarrow Q]\!]_{I'}\]であることを言いたいとします。この等式は定義3.26から\[ [\![\rightarrow]\!]([\![P]\!]_I,[\![Q]\!]_I)=^?[\![\rightarrow]\!]([\![P]\!]_{I'},[\![Q]\!]_{I'})\]という意味なので、これが言えればよいわけですが、いま仮定から\([\![P]\!]_I=[\![P]\!]_{I'}\)かつ\([\![Q]\!]_I=[\![Q]\!]_{I'}\)なので、上の両辺は同じ写像\( [\![\rightarrow]\!]\)に同じ真偽値の組を与えていることになり、したがって返ってくる真偽値も等しくなります。ここで重要なことは(すでに何度も言及したように)「真偽値の組から真偽値への写像\([\![\rightarrow]\!]\)は解釈によらない」という点であり、そのことを強調するために教科書とは違って\(_I\)あるいは\(_{I'}\)を省いて書いています。

もっと複雑な論理式、例えば\( (P\rightarrow Q)\wedge(R\leftrightarrow\neg S)\)であっても、同じことを繰り返せば解釈\(I,I'\)における真偽値の一致することが必ず言えます。
\([\![P]\!]_I=[\![P]\!]_{I'}\)と\([\![Q]\!]_I=[\![Q]\!]_{I'}\)から\([\![P\rightarrow Q]\!]_I=[\![P\rightarrow Q]\!]_{I'}\)……(1)
\([\![S]\!]_I=[\![S]\!]_{I'}\)から\([\![\neg S]\!]_I=[\![\neg S]\!]_{I'}\)……(2)
\([\![R]\!]_I=[\![R]\!]_{I'}\)と(2)から\([\![R\leftrightarrow\neg S]\!]_I=[\![R\leftrightarrow\neg S]\!]_{I'}\)……(3)
(1)と(3)から\([\![(P\rightarrow Q)\wedge(R\leftrightarrow\neg S)]\!]_I=[\![(P\rightarrow Q)\wedge(R\leftrightarrow\neg S)]\!]_{I'}\)

逆向きに考えると、「\( (P\rightarrow Q)\wedge(R\leftrightarrow\neg S)\)で(解釈\(I,I'\)における真偽値が)一致するかどうか」は「\(P\rightarrow Q\)で一致するかどうか」と「\(R\leftrightarrow\neg S\)で一致するかどうか」に懸かっており、「\(P\rightarrow Q\)で一致するかどうか」は「\(P\)で一致するかどうか」と「\(Q\)で一致するかどうか」に懸かっており、「\(R\leftrightarrow\neg S\)で一致するかどうか」は「\(R\)で一致するかどうか」と「\(\neg S\)で一致するかどうか」に懸かっており、「\(\neg S\)で一致するかどうか」は「\(S\)で一致するかどうか」に懸かっています。複合論理式は別の論理式を結合子で繋いだものであり、「一致するかどうか」は、この「1ランク下の論理式」にどんどんツケを回していくことで最終的に「命題記号で一致するかどうか」に帰着するわけです。

(以下、「解釈\(I,I'\)における真偽値が一致する」ことを単に「OKである」と書きます。)

上の具体例で確かめたことを一般に証明するには
(1)「任意の命題記号についてOKである」
ことと
(2)「任意の複合論理式\(\psi=\rho(\varphi_1,\ldots,\varphi_n)\)に対して『\(\varphi_1,\ldots,\varphi_n\)のすべてについてOKならば、\(\psi\)についてもOKである』」
ことを言えばよい。(2)は上で述べた「ツケを回すこと」が常に可能であることを保証し、(1)は「ツケを回し尽くした終着点でOKであること」を保証してくれます。大変そうに見えますが、(1)は与えられた仮定そのものだし、(2)は定義3.26から直ちに言えることなので、証明としては短いものになると思います。