タナカ『集合論』、全体集合と補集合について

田中康友『集合論』1.2.4全体集合について。

(前提共有事項)本書では、
・差集合\(P-Q\)は\(Q\subseteq P\)でなくとも定義されている。
・全体集合\(X\)が想定されている場合に限り(したがって\(A\subseteq X\)の場合に限り)\(A^c=X-A\)と定義されている。
(前提共有事項、ここまで)

定義1.2.8「考察の対象が,ある集合\(X\)の要素と\(X\)の部分集合とに限られるとき」というのは、「その文脈で登場する要素や集合は、特に断りがなくとも暗黙に\(X\)の要素や部分集合であるとみなす」ということである。例えば補足1.9は
「\(A\subseteq X\)のとき、任意の\(x\in X\)に対し『\(x\in A^c\Leftrightarrow x\notin A\)』が成り立つ。」
という意味である。

集合の相等性の定義
「任意の\(x\)について\(x\in P\Leftrightarrow x\in Q\)が成り立つならば、\(P=Q\)である。」
を、全体集合\(X\)が想定されているとして読み替えたもの、すなわち
「\(P,Q\subseteq X\)のとき、任意の\(x\in X\)について\(x\in P\Leftrightarrow x\in Q\)が成り立つならば、\(P=Q\)である。」
という言明を考えると、実はこれも成り立つことが容易に示される。そこで、これと補足1.9とを用いて補集合まわりの命題を示してみよう。

・命題1.2.23
\(A^{cc}=A.\)
(証明)\(A\subseteq X\)により\(A^c\subseteq X\)、さらに\(A^{cc}\subseteq X\)である。任意の\(x\in X\)について、補足1.9により\(x\in A^{cc}\Leftrightarrow x\notin A^c\Leftrightarrow x\in A\)が成り立つ。したがって\(A^{cc}=A\)である。■

・命題1.2.27
\( (A\cup B)^c=A^c\cap B^c.\)
(証明)\(A,B\subseteq X\)により、\(A\cup B,A^c,B^c\subseteq X\)、さらに\( (A\cup B)^c, A^c\cap B^c\subseteq X\)である。任意の\(x\in X\)について、補足1.9により\[x\in (A\cup B)^c\Leftrightarrow x\notin A\cup B\Leftrightarrow x\notin A\wedge x\notin B\]\[\Leftrightarrow x\in A^c\wedge x\in A^c\Leftrightarrow x\in A^c\cap B^c\]が成り立つ。したがって\( (A\cup B)^c=A^c\cap B^c\)である。■

いっぽう、\(X\)を(全体集合でなく)ただの集合と考えて証明すると、例えば命題1.2.23は次のようになる。
(証明)論理法則\(\varphi\wedge\neg(\varphi\wedge\psi)\Leftrightarrow\varphi\wedge\neg\psi\)により、任意の\(x\)について\[x\in X-(X-A)\Leftrightarrow x\in X\wedge\neg(x\in X\wedge x\notin A)\]\[\Leftrightarrow x\in X\wedge x\in A\Leftrightarrow x\in X\cap A\]が成り立つ。したがって一般に\(X-(X-A)=X\cap A\)である。特に\(A\subseteq X\)のとき、これは\(A^{cc}=A\)と書き直される。■

テキストの証明は両者の折衷的な方法を取っており、よく言えば「いいとこ取り」であるが、\(X\)の立場を明確にして上記のいずれかのように証明するほうが私は好きである。